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和田合戦_06 千葉純胤の時空移動
純胤は続ける。
「最初に三浦義村の裏切りの件ですが、和田義盛は三浦義村を信じて今回の合戦の最大の要である実朝捕獲を託しました」
「後世ではこの決起への同心の起請文まで和田義盛と三浦義村で結んだとされています」
「ですが裏切る理由自体はまあ視え視えですね。三浦一族の分家筋になる和田一族ですが、和田義盛の存在感と和田一族の振る舞いにはどちらが宗家なのかわからなくなるほどでした」
「と思っています。文献をみるに。成胤、合ってます?」
成胤はまあ間違ってはないと返した。
「三浦一族からするとこの度の和田一族の数々の追い込まれはあくまでも『他家』のことです」
「一方、和田一族からすると三浦一族と共闘して、一発逆転を狙うしかありません」
「この一発逆転は当時は弱小な北条家が強大な比企家を喰うという過去例もあり、再現の可能性はあります。成果は絶大なる権力ですので、三浦一族も乗る事自体に価値はあります」
「とはいえ、三浦義村からすれば宗家にもかかわらず分家の大叔父が常に押さえつけてくるのも癪でしょうし、和田義盛からすればたまたま自分の父が早逝して、自分の父の弟が三浦宗家を継いだだけでなく、そのまま息子の義村が当主となっているのですから、分家感はなく、完全に付き従う気もないでしょう」
「なかなかの呉越同舟ですよね」
「故に一発逆転に大きな魅力を感じなければ裏切る気の方が強くなるかなとは思います」
純胤は、ここまではあまり謎じゃないんでと前置きして語りを続けた。
「肝心なのはいつ裏切る気になったかです」
「成胤、三浦義村はどの時点で裏切る決意をしたとお思いですか」
成胤は純胤に問われるも、本人の心持は分からぬと朧ろげに返した。
「まあそうですか。では続けましょう。三浦義村が裏切ると決める機会は幾つかあったでしょう」
「ひとつ目は合戦当日直前です。御所の警備、北門ですかね。そこにいる際に突然不安に襲われ裏切った可能性です」
「実朝を逃がすだけならまだしも、直前の反転の割には手際が良すぎるし、その後の和田一族との合戦に三浦一族自体がかなり攻勢をかけてますので無理があります」
「ふたつ目は起請文はしたためたが、その後は悩み続け、そのまま決起する場合と裏切る場合の両方の目を準備していた可能性です」
「こちらであれば合戦当日の攻勢も納得がいきます。とはいえ三浦一族の動向だけなら両方の目を準備は分かりますが、こちらも合点はいかないことがあります」
「和田一族は御所だけに攻め入ったのではありません。北条義時邸、大江広元邸にも攻め入っています。どちらも主はおろかほぼもぬけの殻でした」
「北条義時も大江広元も自身で察知して早々に邸を後にしたとは考えにくい。おそらく事前に三浦義村から決起の話が届いていたのでしょう」
「悩んで両方の目の準備していく一方で、片方の目の決め打ちをしておくことはできません」
「ぼくは三つ目があると推定しています。三浦義村は和田義盛と起請文を交わす時点、もしくは起請文を交わした早々にはすでに裏切る気であったのではないでしょうか」
「それであれば北条義時や大江広元の動きも納得がいきます」
成胤は黙って聞いていた。
「それでは成胤。次は貴方のこの合戦での関わりの謎に触れていきましょう」