舞台付箋 木ノ下歌舞伎『勧進帳』
友人が面白いと呟いていたのを見かけて、観てきました。9/17公演メモ。
■公演概要
監修・補綴:木ノ下裕一
演出・美術:杉原邦生
公演期間
東京、那覇、上田、岡山、山口、水戸、京都
東京公演
日程 2023年9月1日(金)〜9月24日(日)
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都豊島区)
https://www.geigeki.jp/
チケット|全席自由(入場整理番号付・税込)
一般|5,500円
早割|4,500円(9月1日(金)~3日(日)公演限定、前売りのみ)
スウィング俳優出演回|4,000円
65歳以上|5,000円
25歳以下|3,500円
高校生以下|2,000円
ペア割|10,000円
那覇公演
日程 2023年9月29日(金)〜10月1日(日)
那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場(沖縄県那覇市)
https://www.nahart.jp/
チケット|
一般|3,000円
U24(24歳以下)|2,000円
18歳以下|1,000円
上田公演
日程 2023年10月7日(土)〜10月8日(日)
サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター) 大ホール(長野県上田市)
https://www.santomyuze.com/
チケット|全席自由
一般|3,800円
U25 (25歳以下)|1,800円
高校生以下|1,000円
レクチャー『勧進帳』を深堀りする
日時 ▶ 2023年9月15日(金)18:30~20:00(18:00開場)
道行ワークショップ
日時 ▶ 2023年10月7日(土)15:30~19:30(15:10受付開始)
岡山公演
日程 2023年10月14日(土)〜10月15日(日)
岡山創造芸術劇場 ハレノワ 小劇場(岡山県岡山市)
https://okayama-pat.jp/opening/
チケット|全席自由・整理番号付
一般|3,000円
U18|1,000円
道行ワークショップ
日時 ▶ 2023年8月20日(日) 13:00~17:00(受付開始 12:30)
山口公演
日程 2023年10月21日(土)〜10月22日(日)
山口情報芸術センター[YCAM]スタジオA(山口県山口市)
https://www.ycam.jp/
チケット|全席自由
一般|3,000円
any会員|2,500円
25歳以下|1,500円
高校生以下|500円
65歳以上|2,500円
障がい者手帳をお持ちの方|2,500円 *障がい者手帳をお持ちの方の同行の介助者(1名まで)無料
当日券|3,500円(一律)
水戸公演
日程 2023年10月27日(金)〜10月28日(土)
水戸芸術館 ACM劇場
https://www.arttowermito.or.jp/
チケット|全席自由・入場整理番号付
一般|4,500円
U25(25歳以下)|3,500円
京都公演
日程 2023年11月4日(土)〜11月5日(日)
京都芸術劇場 春秋座(京都府京都市)
https://k-pac.org/
チケット|全席自由・入場整理番号付
一般|4,500円
友の会|4,000円
学生&ユース|3,000円
・グッズ 劇場販売
木ノ下歌舞伎叢書1 黒塚 1,200
木ノ下歌舞伎叢書2 三人吉三 1,800円
木ノ下歌舞伎叢書3 心中大の網島 2,500円
木ノ下歌舞伎叢書4 義経千本桜 1,800円
オリジナルてぬぐい(赤/青の2種) 1,500円
キノカブ缶バッジ 300円(だったかな)
https://kinokabu.thebase.in/
■出演
武蔵坊弁慶:リー5世
富樫左衛門:坂口涼太郎
源九郎判官義経:高山のえみ
常陸坊海尊/番卒オカノ:岡野康弘
亀井六郎/番卒カメシマ:亀島一徳
片岡八郎/番卒シゲオカ:重岡漠
駿河次郎/太刀持ちの大柿さん:大柿友哉
スウィング:佐藤俊彦 大知
《スウィング俳優出演回》 9/13(水)19:00 | 9/18(月・祝)13:00
武蔵坊弁慶:リー5世
源九郎判官義経: 高山のえみ
富樫左衛門: 大知
常陸坊海尊/番卒サトウ: 佐藤俊彦
亀井六郎/番卒カメシマ:亀島一徳
片岡八郎/番卒シゲオカ:重岡漠
駿河次郎/太刀持ちの大柿さん:大柿友哉
https://www.geigeki.jp/wp-content/uploads/2023/01/t331_haiyaku_hyo_2.pdf
■作品概要
・木ノ下歌舞伎とは
・勧進帳とは
木ノ下歌舞伎ウェブサイトのあらすじ紹介のページには相関図も載ってた。わかりやすい。
■舞台付箋
舞台戦国BSRで丁度同じ時期に舞台観劇を好きになった観劇仲間の友人が観て良かった、と旧Twitter・現Xで呟いていたのを見かけたのが切欠。コーエーのネオロマゲー『遙かなる時空の中で3』をドはまりしたついでに源平合戦のあの時代を年表やら創作やらを資料として漁った時期があった関係で、『勧進帳』という演目があることだけは知っていた、ただ、それだけでしたが、良い機会だと思ったので自分も観てきました。
結論:最高だった。人間の、人間たちの物語を受け取ってきた。ダバダバ泣いた。富樫を見ろ、のめりこめ。
以下、まとまらないので徒然、まとまりなく書きます。
・勧進帳……平家が滅んだ後、活躍しすぎた義経が兄の頼朝に恨まれ都を追われた為、縁ある奥州平泉に、山伏に扮して逃げ延びる道中の関所で止められ捕まってしまうか関所を通れるのか!?の危機一髪の話、という程度の知識。
・木ノ下歌舞伎も、出演者も、演出家も何もしらない状態。ただ、池袋の芸術劇場のホールは電波遮断の機能とかあって好き。冷房はちょっと寒い。
・先に観た友人の初回観劇『(綿貫を呼ばねば)』
・呼ばれた自分の観劇・上演開始直後『(あっこれ好き)』
歌舞伎の勧進帳を元にした、一部現代語訳した表現を交えながら、歌舞伎の仕草を取り入れながら、分かりやすく補綴(ほてい)された「木ノ下歌舞伎」という形態。
芸劇のイーストシアターを真っ二つに、横長のステージを前後で挟んだ荷方面の客席配置で、向きが変われば観方も変わる、そんな不思議な舞台の世界。
衣装は黒一色。黒い刀に黒い数珠。被る帽子も黒、ALS◯Kの警備員の如くの出で立ち。勧進帳どこいった。
小さな椅子、小さな食台、舞台装置はあってそれだけ。
白く光があたる舞台に、黒装束の出演者。黒と白の世界。
暗転、音が、鳥の羽ばたきが幕開けを告げる。見えない幕が今上がる。
黒いマネキンの首がごろごろと落ちている。
椅子の上に乗って、煙草を吸う不機嫌な男、富樫左衛門。煙草吸うんか……余りの不機嫌さに番卒達も居心地悪く……番卒オカノが差し入れと称してレッドブル持ってきた時にあれは何を意味していて……と深く考えることを止めました。取り敢えず、見たままを受け入れよう、と。
現代口語で進むため話はとてもわかりやすい。此処はすでに安宅の関で、他の道よりも逃亡中の義経一行はこの関を通るだろうということも、頼朝からの情報が下りてきており義経達が山伏の扮装をしていることも、もうわかる。「ここ(頭)を使え」と嫌味ったらしく二度言うあたり、本当に富樫は嫌な役人だなと覚えたところで、「山伏が通りまーす」誰何の声が、聞こえた。此処から反転だ、番卒だった四名が数珠を取り出し一瞬にして常陸坊海尊、亀井、片岡、駿河が現れる。大きな体躯の弁慶と、小柄で目に強い意志を宿した義経が、安宅の関に辿り着いた。
場面転換、或いは義経と富樫が「安宅の関」という境界線に近づき、踏み越えるかどうかの表現、繰り返す同じ時間・違う場所、刺すように貫くように使われる細い小さな丸いピンスポット/レーザー照明、現代風のBGM、長唄の代わりなのかラップで歌うし、かと思えば鳴り物の楽器一つないのに、人間という鳴り物で太鼓も三味線も笛も全部表現していた。斬新過ぎる。そういえば人間も楽器だった……
光によって示される「境界線」がある。安宅の関というラインだ。ただ今作にはそれ以外にも複数の境界線、ライン、ボーダーライン※が見えるもの、見えないものどちらもが示唆されていると思う。
※線引をして区別するためのものではなく……なんだろう、間にあるものとしてのライン……
敵と味方、生と死、義経と弁慶という主従、善悪、男と女、日本の人と異国の人、ああそうか、現在と過去/今と昔、事実と創作、主演とアンサンブル、客席とステージ。
人間と人間。
義経役の高山氏はお名前の字を読む限り女性のようにも思えるし、顔や体の作りも女性の雰囲気を感じた。声は男性のようにも聞こえた。あいだに、あわいにいるような気がした。
番卒と義経郎党は裏と表のような、万華鏡の中の鏡のようにくるくると翻る。
義経と弁慶は主従であるが、山伏に扮した弁慶と強力に扮装させた義経は主従が逆になる。主従は友に成り得ない。絶対に越えない、越えさせない境界線もあった。
富樫は山伏というだけで本物の義経一行でなくとも、関を訪れた山伏を皆殺しにしていたが、弁慶に勧進帳を読み上げさせ、問答をする中で、弁慶という人間の内側を見て感銘を受ける。関所を通すことを決め、酒を勧め、舞を一差し所望する。善人と悪人。信念と忠義心。
逃亡者を見す見す逃したと知られれば、その役人の命はないだろうに、それでも。
勧進帳は弁慶の、白紙の勧進帳をつらつら読み上げ、疑われれば本来は主である筈の義経をも杖で全力で打ち、それを見た富樫が信じるか、或いは見抜きながらも敢えて、義経一項を通してしまうという話。その物語で言えば、どのような説を、歌舞伎の作風を選択したのかを考えれば、富樫その人の動向に目が向くのは当然のことだった……気がつけば富樫がどのような人物で、そして弁慶と対峙する中で富樫が何を思い、何を考え、義経と気づくのか見抜くのか、わかるのかわからないのかを窺いたくなり、富樫が何をするのか目を離せなくなっていた。
富樫も一人の人間だった。ずる賢い役人と思いきや、問答を理解し質問を重ねる知識もある、会話の中で弁慶の忠義心を見て取る観察力もあるし、部下の声も一応聞く、間違いと思わば謝罪もできる、だが富樫はいつ義経に気がついたのか、気が付かず、弁慶その人の心に胸を打たれたのかどうなのか、ずっと気になってた。
個人的な解釈としては、本当に、最後の最後の方まで富樫は義経を見抜いていなかった。番卒が義経の顔だと言って弁慶が打ちのめす姿を見て止めたときも思い違いをしてすまないと謝罪したその時まで、見抜いてはいなかったと思っている。ただ、これ差し入れですとレジャーシートを手に持ち戻ってきた時には、気づいていたのではないかとも思った。酒を勧めた時点で気づいてないんじゃね?とも思ってわからなくなり、けれど、舞を一指し、見終えた時には、己の末路がどうなるのかわかっていた。だからこその慟哭なんじゃないかとか、穏やかな静かな顔で、「ラジオニュース」という形のお上からの告知を耳にしていたのではないか、と。
休憩無しノンストップ90分、最初から終盤の一秒まで、結局色々なことを考えながらみていた。
もう差し入れですって戻ってきた時から、息を止めてたんだけど目が痛いんだか何だかで視界が潤むし、舞を見終えたときからパタパタ泣いてたし、カテコは息を止めて何とか耐えたけど、座席が明るくなったら耐えられなくてめちゃくちゃ泣いた。人間の、人間たちの物語だったので、泣きました。富樫があまりにも人間だったことが、一番胸に来て泣きました。
すげー良い時間になりました。誘ってもらえて本当によかった。