2022.6.29.「資本論」に関する記事(之哲)の注7 (2022.7.15.最後のパラグラフを追加)
本論考は主に「資本論」のみによって考察しました。
その補足として、下記に「資本論」の元になった「経済学批判」(1859年出版)(*4)、1961〜63年の草稿(*5)、1963〜64年の草稿(*6)について比較考察しました。
1850年頃から徐々にはじめて、1857〜1858年に主に執筆したとされる「経済学批判」(*4)の冒頭にはこう書かれています。
日本語訳だけではありますが、一見して「資本論」冒頭との違いは明らかに思えます。「資本論」冒頭にある多様性はここには見られません。
1961〜63年の草稿(*5)は、マルサス、リカードなど著名な経済学者の著書と格闘しながらマルクスが残した長大な経済学探求の記録で、「資本論」をより深く理解し、研究するためには貴重な資料であると思いますが、私が本論で取り上げた「資本論」冒頭の文章と直接比較するような記述はないように思います。
1963〜64年の草稿「資本論 第一部草稿 −直接的生産過程の書結果−」マルクス(森田成也訳)(*6)では
とあり、その後、資本主義的生産様式が支配的ではない社会を含めた歴史的発展の記述に多くが割かれています。
という文章も「資本論」の冒頭を思わせます。
しかし、多くのページが割かれているにもかかわらず、ここで描かれる社会の多様性は、「資本論」の冒頭のような広がりを持ちません。
それは歴史的発展を中心とする1つの視座に誘導されてしまします。それに比べて「資本論」の冒頭からは、あらゆる方向へと連想が広がっていくことができます。
おそらく冒頭の文章から社会の分析へと向かわず、商品の分析へと向かう「資本論」独特の叙述の順序が功を奏しているのだと思います。
それによって、社会と生産様式の多様性への記述は分散してしまいましたが、そのことはマルクスが焦点を向けた資本主義的生産様式が支配的な諸社会の富への分析へと読者を誘いつつ、開かれた多様な社会のあり様を常に頭の片隅に残しておくことを可能にしていると、私は思います。
冒頭の文の後に商品の分析へと向かうことと、社会と生産様式の多様性への記述が分散的であるという2つの特徴は、むしろ「経済学批判」(*4)の方がある程度当てはまります。しかし前述したように冒頭の文章が多様性へと開かれたものになっていないため、「資本論」のような効果は発揮できていません。
*4「経済学批判」マルクス 武田隆夫・遠藤湘吉・大内力・加藤俊彦訳
岩波書店 1956.5.25.第1冊発行、1983.1.20.第29冊発行
底本:Karl Marx, „Zur Kritik der politischen Ökonomie“ Erstes Heft, Volksausgabe, besorgt von Marx-Engels-Lenin-Institut, Moskau, 1934
初出:1859年、ベルリンのフランツ・ドゥンカー書店
*5 マルクス 資本論草稿集 ⑦
経済学批判(1861−1863年草稿) 第四分冊 大月書店 1982.9.30. 第1刷発行
底本:ソ連邦共産党中央委員会附属マルクス=レーニン主義研究所・ドイツ社会主義統一党中央委員会附属マルクス=レーニン主義研究所編『カール・マルクス=フリードリヒ・エンゲルス全集(MFGA)』、第二部「『資本論』と準備労作」、第三巻「カール・マルクス経済学批判(1861〜1863年草稿)」、第四分冊、ベルリン、1979年
*6 「資本論 第一部草稿 −直接的生産過程の書結果−」マルクス 森田成也訳
光文社 2016.12.16.発行(電子書籍)
底本:Marx/Engels Gesamtausgabe (MEGA), Zweite Abteilung: "Das Kapital" und Vorarbeiten, Band 4, Karl Marx Ökonomische Manuscripte 1863-1867, Dietz Verlag, Berlin, 1988.
"Resultate Des Unmittelbaren Productionsprocesses" Karl Marx 1863-64
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