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成功によって暴かれるもの

『平和自体も新たな心配事を生み出す。
安全な状況におかれても、ひとたび心が動転すれば、
安全とは思えなくなる。
何にでもおびえる習慣が身につけば、
心の平安を守ることはできない。
本当に危険を避けるのではなく、逃げ出すだけだからだ。
ところが危険に背を剥ければ、ますます大きな危険にさらされる』
~セネカ 『倫理書簡集』~

74インチの高見からアヴァロンが声高に言い放った。
「今日はセネカの言葉を吟味してみよう。」

ルーピンが分厚い眼鏡越しに瞳を輝かせながら言う。
「学びと言う観点からこの言葉を見てみると・・・
自分の環境を保全するためのスキルと
自分の精神を安定させるスキルは異なると読み取れる。
例えば僕の知っているある男は、
最近聞きかじった哲学やら心理学やらをひけらかして、
相手を圧倒するのが趣味のようだ。
この前なんかは、二言目にはこのありさまだ。
『~の言葉によると・・・』
『~の本にはこう書いてある。』
僕はこう言ってやったよ。
『君みたいに他者を圧倒するためだけに知識を暴食するやからは、
自分よりも知識を持つものが表れるのを常におびえなければ過ごさなければいけない。』とね。」

トランブルがスコッチのソーダ割を傾けながら言い放つ。
「君はどうなんだいルーピン?
その頭に入ったブリタニカ百科事典は『知識の暴食』とやらではないのかい?」
ルーピンが噛みつく手前でトランブルは続けて言った。
「まぁ、私が注目するのは『心の平安』と言う言葉だよ。
酒を嗜むのは良い、酒に逃げるのは悪い。
趣味を嗜むのは良い、趣味に逃げるのは悪い。
過ぎたるは猶及ばざるが如しってね。」

アヴァロンは見事なバリトンを震わせる。
「成功にも着目しよう。
わかりやすい例として
仕事における成功は他者からの評価のはずだ。
その褒章として給与や役職が与えられる。
逆に会社の期待を裏切った場合には
減給や最悪の場合は職を失う羽目になる。
そう考えると、評価を他者に預けるとは、
常に不安が付きまとうということになるね。」
タバコ煙を揺らめかしながらドレイクが言う。
「仕事だけじゃないさ。
世の中すべてのことが不安だらけさ。
家庭に目を向けてごらん、
女房が目をギラギラさせているだろう。
世間だった他人のあらさがしに躍起になっている。
何をもって成功と言うかは人それぞれでも、
常に危険が身近にあるのは誰でも一緒さ。」

トランブルは続けて言う。
「目の前の成功はきっと自分で手にした物なのかもしれない。
ただそれは一時的に神から借りている物だと認識しなければいけない。
エピクテトスも言った
『私はそれを失ってしまったとは決して言うな』と。
すべての物は我々の物ではない。
神から一時的に借りている物なのだ。
成功も一時的に借りているだけで、
神の気まぐれで返さねばならない時が来るのだから。」

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今日は大好きな小説『黒後家蜘蛛の会』のキャラ達にセネカ先生の言葉を話し合ってもらいました。
アヴァロン=Work
ルーピン=Study
トランブル=Personal
ドレイク=Life
のイメージです。
目的は、自分の中の煩雑な解釈や主観をキャラクターで分けて代弁してもらうためです。
少しはわかりやすくなったでしょうか?

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