争いごとを求めるな~セネカ~
「今日はセネカの言葉かい。最終的に暴君の命令で自死を選択せざるを得なかったセネカが言ったとすると、なかなか含蓄ある言葉だね」
ホルステッドはグラスを傾けながら言った。
「確かに、自ら進んで火中の栗を拾いに行く人間は、どこにでもいるものだ。
ましてや、自ら凪を荒れ狂わせる激流を生み出す人間もね」
トランブルはたばこをふかしながらニヤニヤといった。
そんなトランブルを睨みつけながらルーピンは言った。
「僕のことをそういったのなら、その鼻っ柱にこぶしを叩き込むからな。
僕は平和主義者だよ。ただ、君たちが間違えだらけだから真実を告げるのに
少しだけ波風が立つだけさ」
「とはいっても」
ドレイクはさえぎるように言った。
「ヒーローシンドロームというか、何かしら変化を常に求め続ける人間はいるものだ。
かくいう私も、日常の中で自分の成長の糧はないか探し求めてしまうよ」
「君一人で水の中に飛び込むのはいいさ。
でも考えてごらんよ。君には家族がいる、職場の同僚もいる。
そんな彼らまでおぼれさせはしないだろうね」
ゴンザロの言葉にドレイクは眉をひそめながら言った。
「それだよ。自己選択による他者への影響はどうしようもない。
それは他者の課題さ。問題はそれを想定したうえで自分が選択したかどうかだ。
重要なのはそこだよ。考えたうえで選択したかどうか。
やみくもに突っ走るのは暴走さ。
十全に考えたうえでの選択ならば、誰もそれをとがめることはできないよ。
それは神でもね」
「皆様、お食事の用意ができました。
どうぞこちらへ」
考えうる限り最高の従者であるヘンリーの言葉をもって、
この会話は幕引きとなった。
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