新潟国際アニメーション映画祭で華やいだ!富野監督、『犬王』応援上映、海外長編作品まで
新潟国際アニメーション映画祭 第2回大変な盛り上がりでしたね!
長年アニメライターをしてきた私ですが、わからなかったのが「映画祭」というジャンル。
「監督が賞をとるところでしょう?」くらいの認識だった私に、新潟のアニメ映画祭でプログラムディレクターを担当している数土直志さんが、インタビューで意義や面白さを教えてくれました。
お話はこんな感じ(記事を読んでくださると嬉しいです!)
・「映画祭」の本場は欧州。世界中から応募された作品を審査して受賞作が決まる
・日本のアニメ監督も、宮﨑駿監督ら00年代から欧州映画祭で受賞
・受賞することで権威がつき、海外展開が可能に。作家のファンも増える
・欧州の審査基準は「アート」。新潟では日本らしく「商業作品にも作家性は含まれる」を提示したい
・新潟は「物語性の豊かな長編作品」が特徴。世界中から応募があった
・新潟は東京から行けて業界人同士が偶然出会うサイズ感。人脈づくりの場
・新潟のアニメマンガ関連の大学、施設、「がたふぇす」等の連携を深める
新潟国際アニメーション映画祭の6日間の全プログラムはこちら。
そして映画祭では、新潟日報さんが、前日起きた出来事を書いた「デイリーペーパー」を各会場で配布してくださいました。
とりあげず、行ってみるのが吉!と新幹線と宿を押さえ、いざ新潟へ!
私は初日から3日間の15日(金)~17日(日)まで参加しました。
■初日『犬王』紙吹雪応援上映
初日のお目当ては湯浅政明監督作品『犬王』の「紙吹雪あり応援上映」!
映画館で映像に合わせてペンライトを振りかけ声をかける「応援上映」は、16年『KING OF PRISM』(キンプリ)以降全国の映画館で普及しました。
でもインド映画のマサラ上映が発祥である「紙吹雪を舞わせる」応援上映を実施する映画館は全国でも不定期に数館。理由は劇場の片付けが大変だから……。
私も初体験です。紙吹雪は自分で事前に用意。「お花紙」という薄くて軽い紙を切る、500枚入りを3袋買って15000枚ひたすら切る。2日もかかりました。
『犬王』は室町時代を舞台に猿楽(能)の座に生まれた異形の子・犬王と、平家の呪いで盲目になった琵琶法師・友有がセッションをするお話です。
平家物語×ボヘミアン・ラプソディだと思っていただければ。
会場「新潟日報ホール」にわらわらと集まってくる『犬王』のファン。
初日最初のプログラムだけあって、マスコミめっちゃ多い!
上映スタートとともにアニプレックスのロゴ表示から \アニプレありがとうー!/
異形の子・犬王の呪いが解けていく度に送られる拍手と舞う紙吹雪!
犬王の舞いと友有の琵琶により構成された数々の演目では、観客が自分の解釈で紙の色を選び、どのセリフ、どの効果音のタイミングで紙を捲くかが見せどころ! 趣向を凝らした紙吹雪が空中に舞います。
驚いたのが、厳島神社の法要で琵琶法師たちが集まって謡う「千人琵琶」のシーン。
周囲から琵琶法師たちの唄と重なるように声が聴こえてきました。
「♪せんていしょうりょう~いちもんぼーこん~じょうとうしょうがく~とんしょうぼーだい~♪(先帝聖霊 一門亡魂 成等正覚 頓証菩提)
えっ!あれ覚えてるの!? 『犬王』サントラにも歌詞がないアレを!?
さすが『犬王』”全国大会”メンバーです…!
応援上映はいろいろ参加してきましたがインパクト絶大でした。
千人琵琶の詞は、平家物語 百九十ニ「女院死去」から。
「映画祭」らしい教養と格式がこんなところで出るとはと感じました。
上映終了とともに、湯浅政明監督が登壇、みんなの興奮は最高潮に!
紙吹雪の中、私たちの紙吹雪応援を見学してくださった湯浅監督の「楽しかったです」のコメントは本当に嬉しかったです!
映画祭の良さは、作り手、送り手とファンの距離が近いところにあると思いました。
応援上映の後は、皆で舞わせた紙吹雪の片付け作業をお手伝い。紙吹雪上映を企画された新潟スタッフさんともお話できて嬉しかったです!
■新潟駅と万代、古町のアクセス
ここで新潟アニメ映画祭のエリア説明をば。
映画祭は新潟市内で開催し、新潟駅から歩いて13分くらいの「万代シティ」エリアと、そこから橋を渡った「古町」エリアに分かれています。
映画祭の会場は、新潟駅前より万代シティと古町が中心です。
新潟駅←→万代シティ←→古町 というイメージです。
バスが頻繁に走っていて、←→内は10分くらい。料金は市内で少し遠い場所でも一律260円。
新潟駅から万代シティまでも歩いて行けて、13分ほどだと思います。
映画祭で往復することになる万代シティ←→古町間。バスでも行けますが、橋を渡って歩いていけます! 最初は私もバスで行き来していましたが、プレス席で偶然会えた知人編集さんから「歩けるよ、往復でめっちゃいい運動してる!」と教えてもらいました。
ホテルを取る時は、新潟駅前より万代シティや古町が便利だと思いました。(新潟駅から古町へ行くには遠いのでバスに乗りましょう)。
プレスの方、プレスパスをもらうのは新潟駅ではないです。今回は古町エリアでした。なので到着時間と上映時間まで余裕を持ったほうが良いです。
私の場合は11時に新潟駅に着いて、迷いながら万代シティのホテルまで歩いて荷物を預けました。新潟駅の万代口側は広くて「万代シティ」行きのバス停が見つからず、地元の人に歩いて行けることを教えてもらいました。そして万代シティからバスで古町に向かい、古町のプレスセンターでパスをもらって、バスに乗って万代シティに戻り、なんとか「日報ホール」の13時上映に間に合った次第です。
■オープニングセレモニーと塚原監督の重たいファン
『犬王』応援上映のあと、同じ日報ホールで行なわれたのがオープニングセレモニー。
KADOKAWAの井上伸一郎さんがフェスティバルディレクターを務めていて、開会の挨拶。私が座ったプレス席は、井上さんの席の真後ろだったので少しご挨拶できました。お変わりなくお元気なご様子。
セレモニーの様子は報道されているのでぜひそちらをご覧下さい。オープニングトークの様子は「映画.com」さんの記事にも詳しいです。
いろんな媒体さんが記事トップ写真に『犬王』紙吹雪応援上映&湯浅監督登壇を使っていたので、われわれ応援上映の民も華やげたなと思いました。新潟の映画祭には、毎年オープニング前に応援上映を開催してほしいです。
オープニング上映後は『クラメルカガリ』上映…の前に、数土さんなど運営委員の方がステージに登場。
「すみませーん、スクリーンの調子が良くないので張り替えます。上映は1時間後の19時からになりまーす!」
観客、マスコミ一同どよめきが。
1時間待ちでしたが、ちょうどご飯時。私も人気のおにぎり屋さんでテイクアウトして、ホテルで食べました(偶然、日報ホールの近くで良かった)。一日ほぼ食事してなかったので、本当に満足。新潟は米が美味しいってほんと! 1時間後、観客の方も皆さんなんだか満たされた顔で戻ってきました(笑)。
上映される『クラメルカガリ』は大正レトロスチームパンクっぽい素敵な世界観。
塚原重義監督は短編を制作し続けてきた方で、長編は今回が初めて。
……と上映が始まるよりスクリーン直しより前に、私の左隣の席で、出会っちゃいました。塚原監督の重たいファンに…!
若い新潟の学生さんです。
「僕は塚原監督を追いかけてもう10年になります。カントクが来る!ってなった時、まず一番前の座席のチケットを真っ先に取ったんですが、僕の周り、マスコミの人ばかりでめちゃくちゃビビリました!(笑) 塚原監督、まさかこの新潟に来てくれるなんて。やっぱり塚原監督は天才。この大正レトロな世界観を10年間、ず~っっと描いていて、僕はそれが大好きで。最初好きになったのは『端ノ向フ』、デビュー作です。『ウシガエル』も大好きで、あ、この作品オススメですよ、これも、あれも、全部YouTubeに上がってるんで!」
ここで上映された長編『クラメルカガリ』は、4月12日に劇場公開される『クラユカバ』と同時上映の姉妹作。世界観とシチュエーションがとにかく魅力的。そういうのが大好きな方にぴったりな作品だと思いました。
なお上映後、私の右隣の男性記者が、塚原監督ファンの彼に声をかけました。「君、ちょっといいかな? 話聞かせてくれる? 新潟日報なんだけど」。まさかの地元最大手新聞! 「えっ、はい!ぜひ!(緊張)」となり、無事に取材が成立したようです。これだけ大人数の観客から「監督ファンの地元の若者」を探すのは難しいはずなので、彼の話を聞いた私の存在が、ファン発見に繋がったなら本当に良かったです!
■新潟市マンガ・アニメ情報館へ
翌朝は上映前に時間があったので、後日開催の「高畑勲監督特集」会場となる映画館「シネ・ウィンドウ」に下見へ。ここは映画ファンの聖地だったんですね! 後ほど詳しく紹介します。
「新潟市マンガ・アニメ情報館」にも行きました。新潟出身のクリエイター展示や「アニメを作ってみよう」系のコーナーが充実!地元の親子連れや中高生の憩いの場でした。
■湯浅政明監督短編特集
「湯浅政明とアニメーションの動き 短編特集」へ。
会場は昨日と同じ日報ホール。
湯浅監督の短編は初めて観ます!
『スライム冒険記 ~海だ、イエ~~』は1999年の作品。監督の歴史を見ていく思いでした。
私が好きなのは、商業アニメらしいキャラのわかりやすさと湯浅監督らしいビジュアルが融合した『なんちゃってバンパイヤン』(1999年)と、アメリカのアニメシリーズ「アドベンチャー・タイム」内で放送された『フードチェーン』(2014年)。「フードチェーン」は主人公たちが食物連鎖のひとつに変身していく様子が面白く、“あなたも私も食べられるかもしれない食物連鎖の輪のひとつだよ”的な風刺が効いています。風刺的なメッセージは短編だとより伝わりやすいのかも、と感じました。
湯浅監督のトークで印象に残ったお話から。
・98年に『バンパイヤ』で初監督に。デジタルに変わった頃でフィルムの24コマからデジタルの30コマにしようとトライしたけど、やってみてデジタルは難しいなと。結局30コマにするのはやめて、24コマで描いて30コマで流すことになった。現在も30コマで流している。
・98年、99年当時は監督として人を探す(スタッフ集め)も自分でやってた。
・作画から『クレヨンしんちゃん』でコンテをやってみて、アニメーターだけよりも映像づくり全体にからできる演出は天職だなーと思った。
・『フードチェーン』はアメリカで作った。アメリカであれだけ自由に作れたのは勇気が出た。
・オリジナル作品でもちゃんと受けて制作サイクルが回るようになった。でももっと映像だけでなく内面やテーマからやらないといけないと思った。『犬王』もそう。平家物語も調べたり、できるだけ内面を描いた。
湯浅政明監督短編特集は、『アニメ!アニメ!』さんの記事にも詳しいです。
この日は湯浅監督の誕生日! ファンからプレゼントが届いたりしていました。帰りには湯浅監督から私たちお客さんに新潟お菓子のプレゼントが。
■古町コスプレイヤーさんと映画祭ファンの声
この後、海外長編アニメーションの会場「新潟市民プラザ」がある古町へ。古町では映画祭と同じ日に「がたふぇす」も開催!コスプレイヤーさんたちも街を歩いていました。
古町の「新潟市民プラザ」に到着。こちらも素敵なところです。
■イギリス作品『ケンスケの王国』と新潟ごはん
新潟市民プラザでは海外長編アニメーション作品が多く上映されていました。
選んだのは『ケンスケの王国』。映画祭らしい海外アニメも観たい!と思った時に、日本とゆかりがある作品であれば初見でも安心かなと。
孤島に漂流した少年マイケルが日本兵だった老人(CV渡辺謙)と出会うお話。
日本語字幕が出ないというのが映画祭側としてはトラブルだったそうだけど、元々老人役が渡辺謙なので半分は日本語。そしてマイケルや動物の表情、老人の表情とたたずまいが絶品で、むしろこれは初見で言葉がわからない分、映像を豊かに受け取れたかもと思いました。
老人が故郷に残してきた妻子や日本の風景を描く水墨画が素晴らしい。そして長崎での出来事が日本の「さくら さくら」の歌とともに描かれている。そのさくらの歌を歌っているのが日本人じゃないために不思議な味が出て、少人数の声が重なって流れるところが老人の胸に去来する長崎での出征、妻子との別れと重なっていて震えました。
老人がジャングルの動物に捧げ物をして祈るなど、日本人の行動が美しくスピリチュアルに描かれているのを見ると、我らそんなに美しく生きてないよなとは思いつつ、これがイギリス人が憧れる日本人の有り様か、という発見がありました。
すでに夕方。そして何だかふらふらです。よく考えると新潟に来ておにぎりとパンしか食べてない! 完全にエネルギー切れです。映画祭では上映だけでなく、人間がご飯を食べる時間もスケジュールに入れないとだめだと気がつきました。近場にご飯屋さんがないか調べたら、居酒屋さんがたくさん表示されました。ひとりで居酒屋大丈夫かな…?と思ったけど、めちゃくちゃ優勝のご飯をいただきました!
■富野監督+出渕裕氏『逆襲のシャア』500人の宴
さて、新潟市民プラザに戻ったら、ついにのアレです!
富野監督+出渕裕氏トークショー付き『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』!
こちらは大ホール500人のチケットが即日完売の大人気イベント。人気すぎてアーカイブ配信も追加されました。
生富野監督が見たい!生の声を聞きたい!その思いは私たちプレスの人間も同じです。会場スタッフさんから「満員なのでプレスの方は、立ち見でお願いします!」と説明があり、プレスの人は全員、当然だと心の中で敬礼してたと思います。
トークショーの内容です。私は音声レコーダーで録音しておらずメモなので間違いあるかもです。ご容赦を。
富野監督が『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞を取ったことを話し、「ハッピーエンドではない作品がアメリカの映画界でも評価された。アニメを志望する若者に宮﨑駿監督を超えることができるか」と煽る。
出渕さんが「『逆シャア』はシャアを再発見した話。『Zガンダム』ではシャアをクワトロ・バジーナとしてカミーユを導く善人キャラにしちゃったけど、シャアはサイコパスで独善的で手段を選ばない人にウソをつくし女性に対してもみーんなウソをついている」。富野監督は「それは正しい。シャアとアムロのシーンを作っているときそれは思った」出渕「アムロを導くキャラであったZ(ゼータ)はなかったことになってる。富野さんが『やだなーこういう風に描くの』と言ってました」。
「富野さんが大好きだからこの世界に入った」という出渕さんに、富野監督「こういう仕事につくならば、(出渕さん指して)ここまでやれるようにならなきゃいけない。で、65歳までは確実に仕事ができる。僕は60歳で『Gのレコンギスタ』作った。ちゃんと身体が動くなら75歳まで働ける。コツは気分をクサクサさせないこと。宮﨑つぶすぞー!(会場、笑いと万雷の拍手)僕には(年齢的に)できないんだから、皆さんがやるんですよ!」
出渕さん「もう一本くらい作品を」富野監督「宮崎監督はすぐ引退って言うけど、僕は言ってないからね!」(万雷の拍手)
■さいごに…新潟の映画祭は続く!
翌日17日は、いよいよ私の目的のひとつ『かぐや姫の物語』上映とトークショー。
「高畑勲の『かぐや姫の物語』とそれ以後」
【登壇】高橋望(MC)×西村義明(スタジオポノック代表取締役)×櫻井大樹(サラマンダーピクチャーズ代表取締役)
『かぐや姫』のトークショーは、あまりに自分の感情が重くなってしまい、自分でレポートを書きますね!(あとは写真を貼るだけ)
新潟国際アニメーション映画祭 第2回、幅広い客層で大いに盛り上がって本当によかったです!
また行きたい!!!
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