バーチャルの形でお客さんに届くエンタメ【連載25・オタク視点で見るアニメ】

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、エンターテイメント業界では活動自粛が続いています。

イベント関係者への補償「自粛」にも配慮を(日経電子版)

現在は「ハコ」と結びついた集客ができない状態です。

前回の連載記事でお伝えしたライブ・舞台等ステージだけでなく、美術館、映画館等も休館することになりました。

そして、新規コンテンツの制作についても、キャストが集まるスタジオ収録などがネックとなり、さまざまな番組が放送延期になっています。
アニメーションについても、4月の新番組『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』『Re:ゼロから始める異世界生活』第2期、『ヒーリングっど🖤プリキュア』といった人気作の放送延期が発表されました。

そんな逆風にあるエンタメ業界ですが、新たなチャレンジも始まりました。
今回は、「インターネットを介した新しいエンタメの動き」について紹介したいと思います。

■ネットを介して観客に見せるエンタメ

●作品動画の期間限定、無料公開
さまざまな映像コンテンツが、過去シリーズを期間限定で無料公開しています。ふだんは見られないようなものもあり、豪華さに驚きます。

★ミュージカル『ヘタリア~in the new world~』等、無料公開
ぴあ【いつでも鑑賞可能&アーカイブ】自宅でステージ、美術館&レジャー!ネット配信情報

嵐「untitled」ツアー2時間分をYouTubeで期間限定公開

★『オペラ座の怪人 25周年公演 in ロンドン』
作曲家・アンドリュー・ロイド=ウェバーが、自身が手がけたミュージカルを期間限定無料ストリーミング配信。
※『オペラ座の怪人』は4月18日から48時間限定だったので、公式のハイライト動画を載せますね。
'The Phantom of The Opera' | The Phantom Of The Opera - Stay Home #WithMe

私も「ロイヤル・アルバート・ホールの豪華な会場で、生のミュージカルを見たい!」という気持ちになりました。
無料配信には、「興味はあるけど敷居が高いな…」と感じていた潜在顧客に中身を知ってもらう効果もあると思います。

●展示の中をバーチャル見学
休館中の美術館や博物館では、オンライン公開も増えています。

★国立科学博物館
3Dビュー+VR映像「かはくVR」

国立科学博物館では、360度カメラで撮影した展示室をVRやwebで無料公開中です。
見学者は、まるで自分で歩いているように室内を移動しながら展示が眺められるようになっています。

海外では、大英博物館が2015年からストリートビューを公開しており、バーチャル見学の先駆けとなっています。
大英博物館ストリートビュー

どんな遠方にいても可能な“バーチャル見学”は、今後も流行しそうです。
有料エリアを設けるなどして課金ができるようになれば、公開するミュージアムが増えるかもしれません。

■アーティスト個人が自宅から発信するエンタメ

キャストやミュージシャンが、自宅から配信するコンテンツも話題になっています。

●シェア前提のコンテンツ
★星野源さんの演奏動画“うちで踊ろう”
星野源 – うちで踊ろう Dancing On The Inside

動画の説明文には、「この動画を引用して、たくさん音やダンスを重ねてコラボしたり、カバーをアップしたりしてくださいね」とあり、プロからアマチュアまで、多くの人が自作コンテンツを発表しました。

大石昌良さんの「#うちで踊ろう」

アニソン歌手「オーイシマサヨシ」としても親しまれているミュージシャン・大石昌良さんも、#うちで踊ろうに参加。原曲を生かす歌と演奏が魅力的です。

うちで踊ろう動画の最大の特徴は、「シェア前提」であることです。
別の人の作品を“お借りして”自分の作品を完成させる形態は、ニコニコ動画の「歌ってみた」「踊ってみた」等で多く見かけます。
インディーズ文化を、プロが積極的に取り入れたのもエポックな出来事でした。

●リモートセッション
『涼宮ハルヒの憂鬱』声優によるダンス動画
アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』のエンディング「ハレ晴レユカイ」のダンスを、ハルヒ役の声優・平野綾さんが自宅で収録。そこにキョン役の杉田智和さんも加わったことで、ネット上で大きな盛り上がりになりました。

★『のだめカンタービレ』動画
『のだめカンタービレ』も、原作者が描いたマンガのセリフをアニメの声優があてて映像にするという、“突発コラボ”が行われました。Twitter上のやりとりで生まれたライブ感も人気になりました。

突然投稿の『のだめ』4コマ漫画、すぐに動画化 関智一&川澄綾子のCVにファン歓喜

■リアルの催しをバーチャルで創り上げる

●イベントをバーチャル空間で開催
★東京大学のVR卒業記念イベント
バーチャル安田講堂前で東京大学学生有志による卒業記念イベント開催

東京大学の有志によって、”バーチャル卒業式”が開催されました。東大総長ほか先生方の祝辞動画も流れたそうで、エンタメとは異なりますが、リアルをサポートする新しい試みだと感じました。
参加者ツイートのまとめも素敵なので、ぜひ見てみて下さい。

●バーチャルスポーツ
★サイクルロードレース
Cycle*2020 デジタル・スイス5

プロの選手が自宅のロードバイクで走行し、画面上でアバターとなるデジタルレースも開催されました。

公式サイトの紹介文には、
「新型コロナウイルスの影響で開催中止が発表されたツール・ド・スイス2020。開催中止と同日に代替えイベントとして、インドアトレーナーを用いたデジタルレースシリーズ「デジタル・スイス5」の開催が決まった! 
仮想空間におけるレースといっても、コースはスイス国内を模したコースで行われる」とあります。

この中継の名物となったのが、選手の自宅環境の紹介。中には自宅のロードバイクの側にスポンサーロゴが入ったボードを置く選手もいて、ちょっと胸が熱くなりました。このバーチャルスポーツには新たな可能性を感じます。

★リモート「カメラを止めるな!リモート大作戦!」
『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が、キャストを集合させずにリモートで映像作品を制作。
先ほど動画がアップされました

私はVR映画『ブルーサーマル』取材の際、上田監督インタビューに同席させていただいたのですが、VRならではの視線誘導のお話が興味深く、バーチャルツールを使用した表現に長けた方だと感じました。


エンタメ業界の多種多様な試みには、新たなコンテンツやお客さんを生み出す可能性もあると思います。
【後編】では、観客参加型コンテンツの面白さについてお伝えしたいと思います。

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