歌舞伎初心者アナウンサーのひとりごと。~不倫劇なのに笑える!?歌舞伎座・七月大歌舞伎『身替座禅』~
はじめまして、こんにちは、こんばんは。
歌舞伎が大好きなフリーアナウンサーの渡邉唯です。
7月も、あと2週間。いよいよ夏本番ですね。
今月ももちろん行ってきました!歌舞伎座!
今回は第二部から『身替座禅』(みがわりざぜん)の観劇メモを残します。
笑える不倫劇。
『身替座禅』は、浮気性の旦那と、かわいい(!?)鬼嫁のお話です。
”浮気”がテーマといっても、昼顔のようなドロッドロ不倫劇ではなく、ユーモア溢れる、現代でいうコメディ劇。わかりやすいテーマなので、初心者さんにもおススメしたい作品の一つです。
また、古今東西万国共通の問題(?)ということで、外国の方からのウケもいいそうで、海外公演でよく上演されます。
新型コロナが収束し、かつてのように自由に渡航できる日が来た際には、ぜひまた多くの海外のお客様の前で上演してほしいものです・・・。
▼以下、あらすじです。
大名の山蔭右京(やまかげうきょう)は、かわいいかわいい愛人の花子ちゃんから「会いたい」と熱烈ラブレターを貰い、今すぐ花子のもとへ!と、鼻息が荒くなります。しかし、妻・玉の井(たまのい)は夫を愛するが故、束縛も激しく、外出など許すはずがありません。
そこで右京は「最近、悪夢をよく見るから、諸国のお寺巡りをして修行をしたいから外出させてくれ」と、玉の井に頼み込みます。
しかし夫と1日たりとも離れたくない玉の井が、遠方への長期修行など許すわけがありません。長らく首を縦に振らない玉の井でしたが、二人の侍女、千枝と小枝の説得もあり、「自宅の持仏堂で、一晩だけの座禅修行」をしぶしぶ承諾します。
さあ、ここから右京のおバカなずる賢さが本領発揮!
なんと、家来の太郎冠者(たろうかじゃ)に
「自分が花子ちゃんに会いに行っている間、座禅ぶすま(布団のような夜具)を被り周りにバレないよう、一晩身替わりとなって座禅をしておいてくれ」とタイトルになっている身替座禅を頼み込むのです。
渋る太郎冠者を何とか説得させた右京は、意気揚々と花子ちゃんのもとへ。
一方、残された太郎冠者は気が気ではありません。
案の定、一目でも夫の顔が見たいと、玉の井が様子を見に来ます。無理やり座禅ぶすまをはがされてしまった太郎冠者は事の経緯を話してしまいます。怒り心頭の玉の井は、今度は自分が太郎冠者の替わりに座禅ぶすまを被り、右京の帰りを待つことに・・・。
舞台上では、怒った玉の井が身替わり座禅の身替わり座禅をしているという、何ともおかしな状況(笑)
そうとも知らぬ右京が、明け方、みだれ髪にほろ酔い状態で帰宅します。右京は、座禅ぶすまの下には太郎冠者がいる。と思っているため、花子ちゃんとの甘い甘い時間を、ジェスチャー付きで何から何まで自慢します。
挙句の果てには、玉の井の悪口まで言ってしまう右京。
浮かれた様子で座禅ぶすまを取ると、そこには、ブチ切れ状態の妻・玉の井が!!慌てて弁解しようとする右京ですが、時すでに遅し。
大慌てで逃げる夫・右京を、妻・玉の井は鬼の形相で追いかけるのでした・・・。
元ネタは、日本の伝統的コメディ”狂言”。
コメディ要素満さいの身替座禅。狂言「花子(はなご)」が原作です。
狂言は、中世の庶民の日常生活を、明るく、面白おかしく描いた、セリフが中心の喜劇。日本発祥の伝統的コメディですね。
歌舞伎には、能や狂言をもとにした作品が多く、これらを「松羽目物(まつばめもの)」といいます。
※松羽目→歌舞伎の大道具の名前。
能舞台のように正面に老松(おいまつ)が描かれたパネルのこと。
この松羽目物を多くのこしたのが、身替座禅の作者、岡村柿紅(おかむら・しこう)です。おなじく松羽目物の「棒しばり」や「太刀盗人(たちぬすびと)」、「茶壷」も、現代でよく上演される人気作品です。
どれも、わかりやすいテーマで、笑わずにはいられないコメディなので、歌舞伎初心者の方におススメします☆
舞台を盛りあげる個性豊かな役者陣。
このコメディ劇を盛り上げるのが5名の役者さんです。
山蔭右京…松本白鸚さん(初)
玉の井…中村芝翫さん(初)
太郎冠者…中村橋之介さん(初)
千枝…中村米吉さん
小枝…中村莟玉さん(初)
(初)と書いてあるのは、今回が初役の役者さんです。約75年間も舞台に立ち続けている、大ベテランの白鸚さんが初役とは驚きました。
役者さんがよく『役はご縁』と仰いますが、まさにその通りですね。
花子ちゃんとの逢瀬をほろ酔い気分で語る右京が、バカだなぁ~(笑)と思いながらも可愛くも品がよくも見えるのは、さすが白鸚さんです。
なかでもインパクトが強かったのが、芝翫さん演じる玉の井。
このお役は、普段は立ち役の役者さんが演じるので、いわゆる綺麗な女形とは違った魅力、面白みがあります。
お化粧がまず滑稽にされているので、舞台に出てきた瞬間、客席はひと笑い。
侍女のお二方は綺麗な女形さんなので、その対比も面白いです。
特に今回は、若手女形の中でも一二を争う美しさを放つ、中村米吉さんと中村莟玉さんだったので、その差と言ったら、、、(←失礼(笑))
(ここで、いつも思うのです。何故こんな身近に可愛い可愛いメイドさんがいるのに、右京は、メイドさんに恋をしないのかと、、)
この玉の井、鬼嫁として描かれていますが、夫を縛るのも、夫を心から愛するがゆえ。
修行に行きたい!と懇願する右京に、断固として首を縦に振らない姿は、面白さと共に、玉の井の可愛らしさを感じます。
右京と玉の井は長年連れ添った夫婦だと考察できますが、具体的な年齢設定はどのぐらいなのかな?と、気になります。
(調べても出てきませんでした(-_-;))
熟年夫婦だとしたら、それだけの月日を重ねていても、夫へ変わらぬ愛を貫き通す玉の井は、とても素敵な女性ですよね(^○^)
そんな、ちょっぴり三枚目?な玉の井の滑稽さと可愛らしさが、いやらしくない、笑える不倫劇に作り上げているのかな、と感じる七月大歌舞伎でした!
あ、くれぐれも、現実世界での不貞行為は禁止(*_*)ですよ!!!(笑)