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てのひら小説作品集

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愛媛の作家によるてのひらサイズの短い小説。 500文字以下の小物に印刷したら映えるサイズ。 それが「てのひら小説」です。 1000文字超えてても2000文字以上でも「いや、これが…
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記事一覧

ピンクの洗面器の桃太郎

 今時、川で洗濯、なんてないでしょ。家の洗濯機が壊れたって、この町にはコインランドリーは…

冨永眞吾
3か月前
6

Melody

 北海道の冬は厳しい。除雪された雪をよけながら、陽平は久しぶりになじみの居酒屋を訪れてい…

冨永眞吾
7か月前
7

俺が悪霊を殺(や)る理由

3分間バトル小説「悪霊ハンター@MATUYAMA」   初出 2019年11月8日 ⚠️ショッキングなシ…

坊ちゃんを読んで

 小学生の頃、担任の先生に「素直さがない」と言われたことがある。きっと子供らしくない子供…

冨永眞吾
8か月前
9

牛乳パックの秘密

 「あれ、なぜだ?」  牛乳パックを再利用して作った金魚鉢の中の金魚が、いつのまにか水に…

冨永眞吾
9か月前
6

入学式

 生まれて初めてのスーツ。親から依頼を受けた背広の仕立て屋さんが、自分のアパートにやって…

冨永眞吾
9か月前
8

砂時計

ピ ピ ピ ピ 何か音がしてる ピー 走る足音がする 鼻に管があてられ 呼吸が楽になる 意識が遠のく ぼんやりした意識の中 真っ白な部屋にいる 誰かがいるのはわかるけど なんだか音が遠い 頭を起こそう 動かない 何も動かない 霧をつかむとでも 言うのだろうか 動かそうとしたそばから 意思が砂になって 落ちていくみたい さらさらサラサラ すり抜けていく つい前の記憶が蘇る 息が弱すぎて 痰が出せず 管も入らず ただただ苦しい なんだろうこの状態 知っている声が言う

雨と彼女

雨の日は嫌だわ 決まって頭が痛くなるの 前日から片鱗が ふわふわとまわりを漂って じわじわと…

水川ぽとす
9か月前
4

雨音と冒険

気づけば雨音がしている ポタポタ サー 周りの音が少なくなる たまに通りすぎる 車のタイヤが …

水川ぽとす
10か月前
4

肌寒さ

はあ、今日も疲れた くたくたになりながら 残業の後の夜中 月明かりの下自転車を漕ぐ 帰った…

水川ぽとす
10か月前
3

田舎町のタクシー

 「来月からうちの町のタクシー、午後10時までだってさ」  「え〜、じゃあゆっくり飲んでも…

冨永眞吾
1年前
6

猫と一緒に暮らす犬の悩み相談

 私は8歳のバーニーズとニューファンドランドのミックス犬である。体重も40kgほどある。ご主…

冨永眞吾
1年前
9

宝くじに当たったら

 私の母は宝くじマニアだ。若い頃は1回に5万円ほど使っていたらしい。定期的に5万円購入す…

冨永眞吾
1年前
3

「ワイルドターキー、ロックで」

 バーボンはロックに限る。やや太めのグラスに氷を入れ、コトコトと手で揺らす。しばらくなじませた後、しばし口の中に含み、そのまま息を吸い込む。気化したアルコール分が肺の中に入り、続いてバーボン特有の苦味を感じながら、アルコールが体の中に染み渡る。キラキラと輝くグラスを眺めながら、だんだんと自分が壊れていくのが、心地良かった。  あれから40年、今ではロックはおろか、水で十分だ。