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なぜ人は「絵心がない」と言うのでしょうか? ”描きたい、でも踏み出せない”人へ(2)

はじめに

 前回、絵を描きたいけれど一歩踏み出せない人に、ペン一本で形を描き透明水彩で彩色する「線スケッチ」をお勧めする記事を書きました(下記記事をご覧ください)

この記事および次の記事では、体験会でデモをしながら説明している項目:
 ・ペンで形を描くには、どのように観察したらよいのか
 ・どのようにペンを(腕を)動かしたらよいのか
 ・平面の紙に、どのように描いたら立体に見えるのか
 ・どのように絵の具を塗ったら、立体的に見せることができるのか
 以上を、実例を示しながらポイントを紹介します。同時に技術だけでなく、線描や絵を描く上で必要な心構えについても紹介します。

(1)ペンとペンの持ち方について

 線スケッチで用いるペンは、どこの文房具屋さんでも売っている、「水性顔料でかつ耐水性」のサインペンです。必要な数は通常二本で十分です。一つは輪郭線用に、ペン先がフェルトでできていて、筆ほどではありませんが、紙に押し付けるように描くと太く、浮かすように描くと細い線となり、線に「肥痩」を付けることができるペン、もう一本は、模様や細い線を描くための、先が細いペン、あるいは、0.5mm前後の一定幅のサインペンです。各社から出ていますので、いろいろ試して自分に合ったペンを見つけてください(代表的なサインペンを下に示します)。

代表的なサインペン(画像)

 1)署名をするとその人のペンの持ち方がわかります 
 体験会では、はじめにサインペンを使って、A4の白紙に署名をしてもらうことにしています。
 その際、ペンの持ち方については何も言わず、「お役所で書類に署名をする場合を考えます。担当者の目の前で署名してみてください。」との条件だけ伝えます。

 お役所では通常ボールペンを使うので、事情は少し違うのですが、皆さんサインペンでも躊躇することなくご自身のお名前を書かれます。書き終わった署名をお互いに見てもらいますが、ここで次のことが判明します。

 ・どの署名も書き慣れておりで、線はなめらかで迷いの線がない。
 ・同一のサインペンを使用したのに、どれ一つとして同じ字体がない。
  すなわち、その人独自の字体になっている。

 後者については、どなたも思い当たる節があるのではないでしょうか。知り合いの人の筆跡をみると、大抵の場合、書いた本人がいなくても、「あっ!誰々さんの字だ」と見分けることができるのではないでしょうか?「筆跡鑑定」という言葉もあるくらいですから。

2)「線スケッチ」に最適なペンの持ち方は?
 
字体が違う理由は、ペンの持ち方、指の力の加え方、ペンを持つ指の動かし方(運筆)が、人によって全く違うからです。中でも持ち方が大きく左右します。

 名前を書いている間、ペンの持ち方を観察すると実に様々です。ペン先近くに指を添えてペンを立てて書く人、逆にペン先から離れて持ち、寝かすように書く人、その中間の持ち方をする人がいます。

 まとめれば、
 ・ペン先とペンを持つ指との間隔
 ・紙面に対するペンの傾き
 ・ペンを持つ指先の力
それぞれが、人によって違い、そのために文字にその人の特徴が生じるのです。

ペンの持ち方と因子

 実は、体験会で署名をしてもらうのは、次の点をお伝えしたいからです。
「小学生以来長年持ち続けてきたペンの持ち方動かし方の習慣、習性は一朝   一夕には変えることはできない。」
「人によって字がまったく異なるのは、その人の長年の習慣、習性、言い換えれば無意識の修練により身に着けた
結果です。」

<閑話休題>
 署名していただいた理由を話したタイミングで、緊張をほぐすためにいつも一枚の資料を紹介することにしています。それは、芸能人がファンの求めに応じて色紙などに書いたサインです。
 選んだ芸能人は、SMAPのメンバー全員、ビートたけし、松嶋菜々子、AKB48の代表的メンバーです。

 ここではサインをお示しませんが、SMAPの場合、各メンバー実に個性的な字体をしています(ここだけの話ですが、中には上手とは言えない字もあります)、ビートたけしは、絵も描くだけあって、絵入りの巧みなサインです。松嶋菜々子は、崩しがない四角四面のきちんとした字体、AKB48のメンバーは若い女子らしい可愛いイラストを組み合わせたサインです。

 SMAPの場合を除いて、どのサインも実に流麗で、スピード感があり、自信にあふれた線です(SMAPの名誉のために付け加えますが、私が選んだSMAPのサインは、グループ結成初期、中学生の頃の漢字で書いた署名です。英字で書いたサインは練習したせいか他の人と同様なめらかなサインです)。なお、実際のサインを見たい方は、「名前+サイン」でグーグル画像検索をすることでご覧いただけます。

 注目したいのは、芸能人のサインの場合、デビューの十代後半から二十歳過ぎの成長してから身に着けた字体であり、ファンに見せるために書くサインですから、相当な時間を使って練習した成果でしょう。

 以上の芸能人のサインの話は、次章の線描の体験の結果の心構えの話につながりますので、覚えておいてください。

 それでは、この章のテーマ「線スケッチに適した持ち方」に戻ります。はたして線スケッチに適したペンの持ち方はあるのでしょうか?

 結論をいうと、私はあると思います。

 子供の頃の習い事やスポーツを思い浮かべると、例えば、習字のときの筆の持ち方、ピアノの練習の時の、鍵盤に置く手から指までの形、バイオリンを持つ左手と、弓を持つ右手と腕の形、スポーツでは、野球のバットの持ち方や球を投げるときの腕の動かし方、水泳での腕や足の動かし方など、それぞれに最適な身体(腕や手)の形があり、それぞれ指導者から厳しく指導されるように思います。

 ですが、実際にはサインペンによる線の練習では、今まで通りのペンの持ち方で描いてくださいとお話しします。 
 特に、ペンはこのように持たなければならないとは言いません(理由は後述します)。

(2)直線、曲線、真円の線描体験

 さて、サインペンで署名をしたら、すぐさま線を描く練習(体験)に移ります。紙はA4サイズの安価な白紙です。練習ですので、どこでも手に入る紙の方が好ましく、私の場合は家庭用プリンターの用紙を使っています。

 体験してもらう線描は下記のような三種の線です(私のデモの例を下の図に示します)。

直線、曲線、円の練習

1)絵を描く動作と文字を書く動作との最大の違いは何でしょうか?

 いよいよ、A4の紙に、サインペンで直接線を引いてもらいますが、その前に必ず「文字を書く動作」と「絵を描く動作」の大きな違いについて説明します。要点を下の図に示します。

文字と絵の描き方の違い

 通常の書類に文字を描くのと違い、紙全体に大きく線を引くことが必要です。これが書類やノートに文字を描くことと絵を描くこととの大きな違いです。
 勿論、絵を描く時でも小さな範囲で描くことはありますが、通常は長い線をどうしても描くことになるのです。

 いわば、生まれて初めての動作で、あなたの脳は「な、なんだこの動作は!? 初めての経験だ!」と、とても驚くことでしょう。最初はうまくいかないのは当たり前なのです。

 以下、実際に線を引いてみましょう。

 2)直線、平行線

 体験者には最初に直線と平行線を描いてもらいます。その際、以下のような手順を説明します。(ペンで引いた直線と平行線は、既に上図で示しました。)

ア)ペンは指に力を加えず軽く持つようにする。ペン先は力を加えず紙面に
  触れる程度
でよい。動かせばインクは自然に出ます。
イ)始点と途中の線、終点を意識して直線を引きます。その際、気を付けて 
  ほしいのは、始点からペンを引き始めて終点を向かう時、直線に見える
  ように線を引くこと、さらに大事なことは、終点と決めたところでペン 
  を止める
ことです。すなわち、自分が思ったように手の動きを制御でき
  る
ことです。
ウ)このときの腕と手の動かし方をデモンストレーションで説明します。
エ)ペン先の動きが分かるように右利きであれば、左から右、左利きであれ
  ば左から右に平行線を引き終わったら、今度は左上から右、または右上
  から左下へ何本も平行線を引いてもらいます。(縦の線、上から下へ垂
  直に線を引くのは難しいので、体験会では行っていません。) このと
  きも、腕と手の動かし方をデモンストレーションして説明します。

 デモンストレーションは下図に示す腕の動かし方で行います。

直線を引くときの手と腕の動き

 デモンストレーションで強調していることは、文字を書く時と違って、長い直線を引くときは手首から先はほとんど動かさず、肩の位置はほぼ同じ位置で、腕を各方向に動かすこと、さらに、線を描く方向が違うと、一の腕と二の腕との角度が変化することです。

 デモンストレーションを交えて説明すると、最初は戸惑って時間がかかる方もいますが、ほとんどの方がすぐに平行線が描けるようになります。

 たまにどう見てもうまく線を引けない人もいます。その人は、ペンの持ち方が極端なケースか、紙に付けた手を滑らすコツをつかめていない場合で、少し手直しすれば描けるようになります。

 3)三角形、四角形、五角形・・多角形

 さて、次は三角形、四角形、五角形など多角形です。前項で平行線を引くときに、水平に引くだけでなく、右上から右下に、右上から左下に線を引く練習をしました。実は、見ての通り三角形はそれらを組み合わせるだけで描くことができます。ただし、それぞれの終点は、必ず行き過ぎないようにつなぎ合わせなければなりません。すなわち、平行線を引くときの注意事項、思ったようにペンの動きを止める、制御して止める。この三角形の例で、制御して止めることが線で形を描くために必要なことが分かります。それ以上の四角形、五角形・・も同様に線の組み合わせで描くことが出来ます。

 4)曲線

 次は曲線です。直線がまったくない曲線であれば、何でもよいのですが、例題として、最初は大きな曲線、次に高さが小さい曲線、さらに次々と、高さとピッチ(波の幅)を小さくしながら曲線を描いていきます。(冒頭の図を参照ください)

 これらの曲線も、直線の時のように、紙に置いた手刀部分をすべらして腕全体を動かす要領でデモンストレーションをするとすぐに描けるようになります。

 5)真円、同心円

 最後に、真円を描く体験です。円は、直線や曲線に比べて少々厄介です。
 一気に丸を描いてしまうことも練習次第でありえると思います。(例えば、禅僧が筆で丸を描くように)

 私の場合、まず、左側の半円を描いてから対称の位置に右半円を描いてつなぐ2分割法で線描しています。(次の絵を参照ください)

真円を描くときの手と腕の動き

 手順は、図の中に詳しく書きましたので、ここでは主に注意点を記します。

 ・中心、上下左右に計5点の当たり点を先に打っておくとよいですが、
  たり点を多く打ちすぎない
ように。数多く打ちすぎると、当たり点から
  当たり点へ早く向かおうとする気持ちが出て、当たり点で角張るように
  なりがちで、なめらかな弧を引くことが出来ない。
 ・描き始めの動作は、接線を描くような気持ちでペン先を動かすが、すぐ
  に円弧を描くように、次の当たり点に向かう。
次の当たり点では、同じ
  く、接線を描く方向に当たり点に入り、すぐに次の当たり点に向か
  って円弧を描く。

 円を描き終わったら、内部に同心円を描くことで、線描の体験練習は終わります。

終わりに

 以上フリーハンドによる直線、曲線、真円を描く練習をしたのですが、体験者の方から次のような感想(疑問?)を聞くことがあります。

「どうしても、線がまっすぐ描けない。丸い円が描けない。大変難しい。とても今後線で絵を描くことが出来ない気がする」

 大変まじめな方が抱きそうな感想です。定規やコンパスを使ってでもまっすぐな線、完全に丸い線を描きたいと思っておられるのではないでしょうか。

 結論を言います。それは、「フリーハンドで描くのだから、定規やコンパスを使って描く完璧な直線や曲線を引かなくてもよい」ということです。さらに、付け加えて、「少々曲がろうが、歪もうが、見る人が、平行線や、曲線、同心円に見てもらえばそれでよい」と。

 ここでは、結論だけにとどめます。次の記事、野菜、果物の形を描く説明で、「下書きに鉛筆を使ってはいけないのか」という体験者の問いに関連して、この点について詳しく説明したいと思います。

 以上で、準備が整いました。それでは、いよいよ野菜果物の実物を見て形を描くことにします。(次の記事で紹介いたします。公開しましたらご案内します。)

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