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【古典宗教だって最初は新興宗教だった -- 書評『完全教祖マニュアル』】

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タイトル: #完全教祖マニュアル
  著者: #架神恭介
      #辰巳一世
  書籍: #新書
ジャンル: #宗教
      #歴史
      #マニュアル
 初版年: #2009年
 出版国: #日本
 出版社: #筑摩書房
 全巻数: #1巻
続刊予定: #完結
 全頁数: #236ページ
  評価:★★★★★
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【あらすじ】

 つまらない平凡な人生に嫌気をさしたら、いっそ教祖になってみませんか。多くの人を幸福にしつつ、自分は甘い汁を吸い続ける極楽のような職業、それが教祖。宗教について何のスキルもないあなたに、最終的に国民から信仰される大教祖の実践的ノウハウを一から教えます。さらに、このマニュアルを疑わず心から信じてくれた方には、奇跡の起こし方も…!?

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【感想的な雑文】

 本の世界は常に広く、どんな作業にもマニュアルが存在するが、まさか教祖になるマニュアル本まであるとは知らなかった…。

 現代社会に身を置くうえで避けられない一つが「宗教の勧誘」。何回声かけられ、何回チャイム鳴らされたのか、もはや数える気にもならない…。こういう勧誘をウザいと思う自分は察する通り、騙される側には決してなりたくない。だけど、騙す側には一度だけなってみたいし、そしてああいう宗教の集団心理を少し覗いてみたいので、さっそく読んでみた。

 どうやらこの本は真面目な宗教学書ではなく、ジョークとユーモアを混ぜて練って焼いて膨大な教養を挟んだ美味い総菜パンみたいな知的好奇心をくすぐる大変面白い本だった。それこそ大学の文化祭のすみっこにある歴史宗教研究会に置かれている「あなたも教祖になってみよう!」的な軽いノリの冊子の超グレードアップ版だと思えばいい。

 宗教を作る上で、まず必要なのは思想の核となる「教義」。要するに「神からの教え」である。なので本書における第1章のステップ①は「神を生み出そう」と提唱する。いやまて、いきなり神創成とかハードすぎやしないか? 教義の作成と言われたって簡単な書類すらまともに書けないのに…。

 しかし、本書の序盤で筆者(これは架神恭介と辰巳一世の共書で、どっちがどのパート書いているのか分からないので、まとめて筆者とする)はこう諭している。

 心配はいりません。文章に自信がなければ、最初は頭の中で作っておいて、その都度、口頭で弟子に指示するだけでも全然構わないのです。放っておいても後で弟子たちが巧いこと成文化してくれます。仏教もキリスト教もそうやってきたのですから安心して下さい。
 なお、あなたがある程度教祖として大成した後は、ふらふらしたり、適当なことを言ったりするだけでも、それが教義となるので大丈夫です。あなたの行為に隠された深い意志は弟子たちが一生懸命考えてくれます。そうなればあなたは自然体で生きていくだけで良いのですから楽ちんですね。釈迦もお腹が痛くて寝てるだけで、その姿が大仏になったくらいです。また、あなたの言ってることが前後で少々食い違っていても気にしないで下さい。これも弟子たちが適当にアレンジして辻褄を合わせてくれます。
 ですから、少しくらいのミスは気にせず、勇気を出して初めの一歩を踏み出して下さい。最初から完璧にできる教祖なんていません。ゆっくりでいいのです。

 おおっ少し肩の荷が下りるし、なんかこれこそ宗教っぽい…!

 ということで、まず神を生み出すわけだが、本書によると、これは実はそれほど難しいことでもないとのこと。なぜなら伝統宗教にしろ新興宗教にしろ、ほとんどが「既存の宗教の焼き直し」だから。あのキリスト教だって元を辿れば「ユダヤ教の改革運動」だったのだから、あのキリスト様の教えでさえ100%オリジナルなわけではない。ちなみに大手伝統宗教で教祖が100%オリジナル神を作ったのは、アフラマズダを作ったゾロアスター教ぐらい(これも元からあったヴァルナ神と同一という説もある)。

 また、新宗教を立ち上げる行為は既存の宗教の教えに逆らう、反社会的行為を意味すると本書は述べる。一見狂暴そうな行為に見えるが、実際は「既存の宗教の矛盾点を突く」ことで、「それでは貧しい民が救われないではないか!」→「もういいわ、オレが矛盾を解決する新教義を作る!」、こうやって歴代の有名宗教が誕生したという。

 ただ、そのためには「高度な哲学」が必要だと筆者は答える。そうじゃないと組織を作る上で重要なインテリ人材を引き込むのが難しいとのこと。いやいや、ただでさえ頭悪くて学歴パッとしないというのに、なにがインテリを引き込む「高度な哲学」っすか。そんなの自分には作れないし、インテリこそ宗教みたいな非論理的概念嫌うでしょ…。

 本書によると、宗教と論理は対照的に思われるかもしれないが、実は宗教こそ大変システマティックな考え方だという。私たちが訳が分からないと思うのは、それぞれの宗教が示すいくつかの「前提」に納得していないから。

 たとえば仏教なら輪廻転生、イスラム教ならムハンマドの使徒性。仏教もイスラム教も、実はこれらの「前提」さえ納得すれば後はすべて論理で話ができる。「前提」を踏まえた上での論理的思考。これが哲学。ここに美しいとインテリが酔う。仏教哲学もイスラム哲学もキリスト教神学もインテリが参加しているのは、「前提」さえ共有すれば、後は他の学問と変わらない知的ゲームが楽しめるから。だから「荒唐無稽でいいや」ではなく、インテリを魅了するキチンとした哲学を備えるべきと本書は述べる。解説がすっごく論理的…!

 でも、ここで問題なのが、そんな高度な哲学をあなたには作れっこないってこと(だから知ってたよ…)。そういうときオススメなのが「インテリに作らせばいい」とのこと。どういうこと?「インテリをゲットするために高度な哲学を作るのに、それをインテリに作らせるってどういうことよ」、まさにそう思うかもしれない(そう思うかもしれないと書いてる私もそう思う)。まあまあ待て待て、まず筆者の言い分を聞こうではないか。

 その具体的な手順を紹介します。まず、あなたがすべきことは、社会の「問題点」を発見することです。(中略)そして、次に「前提」を用意してください。仏教の輪廻転生や、ムハンマドの使徒性に当たるものです。これは少々突飛なものでも構いません。ここまで出来たなら、後は「前提」を主張しながら、「問題点」を追求すれば良いのです。要するに世迷いごとを口にしながら社会を口悪く罵っていれば良いということです。
 すると、どうでしょう。なんとインテリが勝手に「前提」と「問題点」の間を論理的に補完してくれるのです! というのも、インテリにとってあなたの世迷いごと、つまり、「前提」は甘美な響きに聞こえるからです。インテリは何せインテリですから論理的思考を得意とするところでしょう。しかし、インテリは論理的思考が得意なゆえに、逆に「前提」を突然作り上げるといった非論理的蛮行には踏み切れないのです。この点においてのみ教祖はインテリに優越します。もちろん、「前提」だけ提示しても、「何をばかなこと言ってるんだ」で大抵は終わってしまうことでしょう。「前提」と「問題点」を繋げる論理がないので仕方ありません。
 しかし、中には「前提」と「問題点」だけを見てピンと来て、「そうか、こいつの言ってることはこれこれこういうことか! こいつスゲーな!」と、勝手に「前提」と「問題点」を論理的思考により繋げ、感心してくれるインテリも現れるでしょう。ここで「前提」と「問題点」を繋げることになった論理的思考、これがすなわち「哲学」です。
 インテリからすれば、あなたの提示する「前提」さえ受け入れるなら、これまで答えの出なかった社会的問題や人生の問題に論理的な答えが出せてしまうのです。となれば、もう「前提」を受け入れてしまいたくなる。そして、この「前提」を受け入れることは、すなわち「信仰」です。こうしてインテリはあなたの教えを信仰し、また、論理的発展性に貢献してくれるのです。

 自分は高卒の非インテリなので、インテリの気持ちとか分かりませんけど、もしその通りであるなら、ちょろいなインテリ。ちょろすぎないかインテリ。テレビやネットで高学歴の知識人が時たまゴミクズみたいな理論の組織や健康食品にドはまりしているのを見かけるが、もしかしたらこういう理由なのかもしれない。賢さって何だろう…。

 また、インテリたちの議論に教祖のあなたが口出ししないこと。後ろから大人しく見守ってあげること。よく分かってないのに下手に口を挟むとインテリが拗ねてしまい、場合によっては教祖に冷めて逃げてしまう危険があるらしい(扱いがペットかよ)。そんなことより、あなたがすべきなのは「突発的奇行」。これで「オレは普通じゃねぇんだぞ」というオーラを出して、「前提」に説得力を与えることが大切らしい。なお、「哲学」を示さず「問題点」だけを追求するスタイルはイエスも同じで、哲学がないのに堂々と社会を糾弾する姿は、ある者には神々しくも映るようだ。イエスがやっていたなら安心して騒げるね!

 ここまでやったら第一章《教義を作ろう》修了。それ以降も何章か分けて《大衆を迎合しよう》《信者を保持しよう》《布教しよう》《甘い汁を吸おう》と、どんどん実践的ハウツーが書かれているので、別に教祖にならなくても、YouTubeとかオンラインサロンとかSNS系のインフルエンサーになりたい人は十分に応用可能なので、ネットで富と名声を浴びたい画面前のキミ、必読だっ!!

 ついでに私のTwitterのフォロワーは現在295人(2021年7月22日時点)。

 野菜とか果物とか植物の実った食べる部分を果肉って言うじゃないですか。だったら白米も果肉だと思うんですけど、これを奇声上げて訴え続けたらフォロワー100万人超えるかな…?

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【本日の参考文献】

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【あとがき】

 本書と今村夏子『星の子』を交えた解説文も書きましたので、どうぞよろしくお願い致します…!


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渡邉綿飴
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