【交換日記】飽きもせず恋の先にあるものについて考えている(仕事含む近況)。
8月24日(土) 橘まり子
マヤたんご指名ありがとー!最近ほとんど夫としか会話してないから、交換日記うれしい〜。だけど、わたしもマヤたんと一緒で、この頃はまっっったく本読めてないよ…というか、読んでない!!
ただ、そんなときは、前に何かのインタビューで、角田光代が「人には本を読まなくていい時期もあるし、必要なときにはまた読みたくなるから(本を読まなくても)気にしなくていいんですよ」的なことを言っていたのを思い出して、たぶん早稲女同盟のメンバーの中で本読んでないほうであろうわたしは自尊心を保っているよ!?
で、かろうじて読んだのが『82年生まれ、キム・ジヨン』なんだけど、元気出る本かって言うと違うし(まあ、そういう見方もできなくはないけど)、これだけで別テーマ取ってみんなで語ってもいいくらいだよね。
ちなみに、最近飽きるほど読んでるのは『しろくまちゃんのほっとけーき』です!
子はちょうど1歳になったところだけど、3ヶ月くらいの頃からこぐまちゃんシリーズ(子はしろくまちゃん派)にだけ異常に反応して、今は本を自分で持ってきてエンドレスに読み聞かせをせがんでくる。そして、なぜか、この「ぷつぷつ」
が好きらしくて、まだ喋んないけど、毎回指差して「あーっあーっ」とか言ってきて、ページめくると怒る。教えたつもりも導いたつもりもないのに、すでに子の個人的な嗜好があるっていうのが不思議だし、面白い。子のことは、もちろん可愛いし自分の子供だな〜って感慨深く思うけど、産み落としたときから、もうまじ全然他人って感じがしている。夫にはいつも、淡々としていてたまに子に冷たすぎる!って言われる。っていうか、そもそも、子は顔も性格も夫とそっくりで、だから、わたしが子を適当にあしらっていると、夫は自分に対してそうされたと感じて傷つくらしい笑。
で、話が逸れまくっているけど、本をそんなに読まないわたしには、逆に、まさに子のエンドレスしろくまちゃんのように何回も何回も読んでる本っていうのが、わりとある。そのなかで、最近読み返して、もうめちゃくちゃに刺さりまくって嘆息アドレナリンがドバドバ放出されてここ数年すっかり自分の奥底に封印していた懐かしい気持ちたちが呼び起こされて赤面したり悲しくなったり感情忙しくでも時折妙に冷静になって諦念や孤独を感じたりもしつつ最終的にはやっぱり人生讃歌!!!生きる!!!!!って感じで元気が出た本が、これです。
この『言い寄る』(復刻版の表紙、可愛いよね!)は、のちに続く『私的生活』『苺をつぶしながら』とあわせて乃里子3部作って呼ばれてて、田辺聖子先生も「この作品を書くために生まれてきたかもしれへんわ」とおっしゃるほどの代表作。だから、まあ、定番すぎてちょっと恥ずかしいんだけれども。しかも、内容的にはぐりこちゃんのほうが、しっくりきそうな気もするし(「早稲女×三十歳」〜「早稲女×三十一歳」参照)、あげは嬢のほうが田辺先生(亡くなっね…)には詳しいだろうから、あえてわたしが語る意味!?って感じなんだけれども、まあ、聞いてくれ。
3部作を通して、デザイナーの主人公・乃里子(名前がわたしの本名と似ていることにも親しみを抱いている)の31歳から35歳が描かれてるんだけど、その間に乃里子は、1人の男に片想いしたり、年齢もタイプも様々な男たちと"ML(メイクラブ)"したり、気が合うけど一方で軽蔑もしている自分にとって「手頃な重さ」の男・剛(ごう)と結婚して離婚したりして、最終的に「一人ぐらしなんて、人間の幸福の極致じゃないのか?」なんて結論に至る。軽やかな関西弁で紡がれる恋心(および性欲)を帯びた男女の会話の掛け合いの、まあ、なんてトレンディなこと…!まさか、わたしたちが生まれる10年以上も前に書かれたとは思えないほどに瑞々しくって、オシャレ。そして1作目で出てきた会話が、また別の意味を伴って3作目で口をついたりして……天才か。何より、乃里子という「女の子」が、健やかな魅力に溢れていて、大好き。自分の魅力をちゃんとわかっているところも良い。とても聡明でいて、直感的。楽しいことに貪欲。出来事一つ一つをその都度まっすぐに受け止める素直さ。全部に憧れる。男に対する基準が「好ましいかどうか」というのもシンプルで良いなって思う。それなのに、こんなに心のままに自由に生きているような乃里子なのに、惚れた男の前では、いじらしくなったり、自分らしさを失ってしまうところが、また切ない。
読むたびに共感する名言至言がいっぱいで、新しい発見があるけど、今回は年齢が乃里子と同世代になって結婚もしたからか、『私的生活』『苺をつぶしながら』のほうが核心に迫っているように感じた。
例えば『私的生活』の中で、乃里子が自分の乳房を持ち上げながらブラジャーを付けるときに、ふと、昔見た西洋映画の「涙を入れる壺を持ってこい!」というセリフを思い出して、なんだかあの「涙を入れる壺」を抱える仕草に似ているな〜なんてことを思うんだけど、決して剛には言わない。「芸術家」の乃里子と財閥の御曹司で「商売人」の剛とでは価値観が違うし、同じイメージを共有できないだろう、と乃里子は考えているから。(そして、そういった類の話は、剛のいないところで、ほかの男と楽しんだりもする。)乃里子は無意識のうちに「これは剛向き」「これはいっても仕方ない」と話す内容や自分の見せ方を自分で選り分けていて、そのことを「やさしさ」だと思っている。
剛って、そんな人間だから。
剛みたいなアサハカな男に、乃里子サマがみんな分ってたまるか。
私だけじゃない。女はみんな、外から見えるものは氷山の一角だゾ。
という矜持で、剛のことを見下している。だけど、剛のことを嫌いというわけではなくて、剛と「おべんちゃら」を言い合いながらじゃれ合う時間は、乃里子にとって居心地がよく、安らぎを覚える。だからこそ、「だましだまし」結婚生活を続けている。そういう自分の心の内を、剛はまったく気づいていないだろうと思っている。でも、当然そんなわけはなくて、2人の結婚生活は破綻に向かっていく…。
男の人に対してこんなふうに付き合った覚えは、みんなあるんじゃないのかなー?って思う。
乃里子と剛は全然違うタイプに見えるけど、一方では映し鏡のように似た者同士でもある。お互いの仕事や友人関係にはまったく興味がないところ、2人とも自分が相手に譲歩して「甘やかしている」と思っているところ、冗談ばかり言い合って本音をなかなか見せられないところ、そして、相手の、自分にとって都合のいい部分しか見ようとしなかったところ。
この夫婦の問題って、マヤたんが紹介してくれたクリスティの『春にして君を離れ』と少し通じる部分があるかもな、と思った(ごめん、まだ読んでないけど)。わたしも過去の反省を活かして、そして相性の問題もあるけど、夫のことは決して見くびったりしていないし、夫婦で恋人で友達で姉弟のような対等な関係が築けているって、夫もそう思っているんだろうって勝手に信じているけど、でも、そんなの絶対なんて言い切れないし、関係性は変わっていくから、夫の愛情や優しさにあぐらをかかずに誠実に向き合っていこうって、3日に1回くらい思っているよ。
乃里子と剛については、恋愛の相手としてはぴったりだった2人が、夫婦として結婚生活を送るには幼すぎた、と結論付けてしまえばよくある話なんだけど、その後に続く『苺をつぶしながら』では、人間同士として互いに尊重しいたわり合うような、ある種の友情みたいな関係が生まれていて(余談だけど、冒頭で挙げた角田光代が、やっぱり何かのインタビューで「夫と元夫と3人でご飯を食べる」って話していて、うらやましいなって憧れてるんだけど、わたし自身はそういう男女の友情を持てるキャパシティがなさそうで、ちょっと悲しい。)、とても希望がある。
わたしが人生讃歌の物語が好きで、元気がもらえるのは、こういうところ。
わたしはリチャード・リンクエイターの映画『ビフォア・サンライズ』『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』3部作がすごく好きなんだけど、主人公カップルの出会い、別れ、結婚、その後…という約20年の月日を描いていて、乃里子3部作と読後感が似ている気がするので、こちらも一緒にお勧めしたい!これも昔は、恋が始まるサンライズが好きだったけど、今ならミッドナイトに共感するのかもしれない。
っていうか、田辺先生といえばジョゼだけど、乃里子3部作もぜひ映像化してほしい!今読んでも、全然古めかしくないし。キャストは誰がいいだろ?剛は小栗旬かなーって思った(蜷川太宰気になるよね)けど、乃里子がなかなか難しい。
あげは嬢はどう思う?そういえば、よく大学生の頃、小説の勝手にキャスティングして遊んだよな〜と思って。あと『私的生活』の中で、「日記」にまつわるエピソードが出てくるんだけど、ぜひともあげは嬢の見解を聞きたいです笑。(※なんでかって思う人は、ぜひ『早稲女×文豪』収録の「早稲女×太宰治──「きりぎりす」/香良洲あげは」を読んでみてね!)
あげは嬢とわたしは実は高校の同級生でもあるんだけど、昔から本とか音楽とかをよく紹介してくれるんだよねー。わたしは自分で開拓するのがあまり得意じゃないから、すごくありがたい。あげは嬢がわたしに本谷有希子を勧めてくれたおかげで、夫と結婚できたようなものだし!笑(夫は本谷有希子のファンなのだが、学生時代にわたしとあげは嬢が行った本谷氏のトークイベント&サイン会に偶然夫も参加していたという事実がわかり、縁を感じたそうである。)
そんなわけで!あげは嬢に聞きたいのは、最近開拓した新しい作家の本!もしくは、ちょっとマイナーだけどオススメの本なんかがあれば教えてほしいです!よろしくね♡
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