本当に創作なのか? ー短編小説「人間椅子」
おはようございます。今回は江戸川乱歩「人間椅子」について書いていこうと思います。
「人間椅子」は、ある人気女性作家に送られた手紙から物語が始まります。手紙には、ある男のこれまでの「椅子」としての生活が綴られています。椅子の中で他人の体温や身体を感じ、果てに恋をする。そのような内容が綴られています。また、手紙の内容は次第に恐ろしい方向へと進んでいき…
というのがあらすじとなっています。まだ読んでいない方は、ぜひ読んでいただきたいです。青空文庫にて無料で読めますので、ぜひ。
曖昧になる境界線
この小説の怖さはやはり、現実と手紙の世界が次第にまざっていくことでしょう。手紙ないし創作の話というのは、どうしても客観的に見てしまうもので、あくまでもフィクションである、という感覚はどうしてもぬぐえません。しかしこの作品ではそこを突き、その線引きを薄くしていくことで、言い知れぬ不安の沼に足を引き入れられていくことになります。また、真実を知りたい読者に対して、この話が本当なのか嘘なのか、それは告げないところもなんとも後味の悪い幕引きとなります。
現代に繋がる傑作ホラー
「Jホラー」というのは、日本のホラー映画を指す言葉となっています。日本のホラーは海外のホラーとは異質であることを示しています。理由として、直接的な描写がないことが要因です。じわじわと不安を高め、どんよりとした感覚に引きずり込むのがJホラーと言われる所以です。この「人間椅子」も同じ感覚になります。作品内での先の話はせず、書斎にある椅子には本当に男がいたのか。中身を確認し、確かめることは簡単です。しかし本当にいたとしたら、どれほどの恐怖を味わうのかは想像がつくのでしょう。また手紙によると男はすでに外に逃げており、仮に椅子の中身を確かめ、その椅子を処分したとして、男は逃げおおせてしまうのです。それも含め、後味の悪い作品です。
その後は?
この後、女性作家はどうしたのでしょうか。
①中身を確認しない。そのまま売りに出すなりして手放す。
②中身を確認する。後、対応する。
のどちらかになるでしょう。①なら、真偽ははっきりしないまま、あくまでも創作だと思い込んで生活することは可能でしょう。しかし、きっと中身が不透明な椅子にはこの後も座ることはできなくなるでしょうね。②ならば、真偽ははっきりします。しかし、これまで座っていた長い間、その男と密着していたという事実へと変わります。それはどれほどの気持ち悪さで、どれほどの恐怖なのか、想像もできません。①と同じく、先の人生で椅子をよく選ぶことにはなるでしょう。
おわりに
江戸川乱歩「人間椅子」について書いていきました。この言い得ぬ気持ち悪さ、最高ですね。また”その後は?”にて対応を2つ挙げましたが、僕はきっと②の中身を確かめることにすると思います。確かに怖いですが、どちらか分からず、わだかまりを抱えたまま生きていくのは結構嫌だからです。みなさんはどっちを選ぶのでしょうか。そこに対しても人によって差が出ることでしょう。面白い作品です。良ければ自分の選択なんかを書いていただければなと思います。
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