2024年ベストソング10選

iPhone の再生数によって、2023年発表の曲を機械的に選びつつ、同じアーティストの重複を省いています。()内は僕の iPhone における再生回数です。

YouTube とか SNS で音楽聞くのが当たり前の時代に、いい加減、このスタイルやめようかなと思ってるんですけどまあなんか結局 Apple Music で一番音楽聞いてるんですよね。時代に乗り遅れているかもしれない。


10. イガク / 原口沙輔 (17)

それまで知る人ぞ知る存在だった彼が「人マニア」で跳ねて、さらに追撃も大成功、みたいな曲。なんと坂本龍一を影響元に上げる彼は、電子音が当たり前でない時代に電子音を使った坂本龍一氏のように、新しい地平を目指して音楽を作っているらしい。

確かに「人マニア」はよいボイシング(和音をどう並べるか)とかの常識の逆をとことん行って無理やりバカでかい音量のMIXで強引にまとめたみたいな曲……らしい(分析動画参照)。そこまで分析してなかったが、解説されると納得。変な曲ばかりの令和のインターネットで「変な曲だなあ」と思わせる力量にうならされる。

そしてその二匹目のどじょうたるこの「イガク」は、一見「人マニア」っぽい感じではあるものの実はボイシングとかコードは結構まともな気がしていて、ぱっと見「人マニア」っぽく聞かせるけど全然そうじゃない、みたいな尖り方をしてる気がする。インターネットで好き放題言う人達を医者に例えた歌詞も痛快。

原口さんはDJも素晴らしく、マツケンサンバとかVTuberの銀河鉄道の夜の朗読とかを好き放題サンプリングしてDJというよりMAD動画のような雰囲気を作っている。いやー、カッコいい。

9. The Emptiness Machine / LINKIN PARK (21)

チェスターの訃報から6年。LINKIN PARK の再始動と聞いて「ボーカルどうするんだ?」と当然誰もが思っただろうが、なるほど確かに女性ボーカルの採用というのは素晴らしい選択だと思う。ラスサビの少しがなり成分を含めた部分など本当にチェスターの声そのものだし、とは言え全く同じではないという絶妙なバランスが最高。

過去曲のカバーは少しチェスターが恋しくなるところもあるし、少しまだ迷いを感じるものの、この曲を含む新作アルバムではそのような迷いもない素晴らしい歌声を聞かせてくれる。何ならこのシングル曲は3rd Album以降の、いわゆる脱メテオラっぽい、よりビートが走る作風になってからで言えば最も完成度高いのでは? と思ったりする。

圧巻の24億再生の「Numb」。あまりに大きすぎる過去と喪失から進み続ける、さらに言えばスタジアムを沸かせるミクスチャー・ロックのまま進み続ける、ことを選んだのは最高に格好いい。あまりに音楽が格好良くなり過ぎた昨今、B'z が「Ultra Soul」で紅白を沸かせファンクラブが一万人増えたことからもわかるように、実は今大衆は親しみやすいロックを求めているのでは? LINKIN PARK の時代がもう一度来るーー洋楽を聞くからこそ僕はわかる、海外のリスナーも本当はわかりやすいロックが大好きなのだ。もう B'z も LINKIN PARK も、スカしてこっそり聞く必要はない。

8. Fighting My Way / 花海咲季 (28)

URL貼り間違えたわけじゃなくて、この曲はこのPVのバージョンが一番好き。「学園アイマス」というゲームが2024年の魑魅魍魎集い大失敗に溢れるスマホゲーム史上で狙い通りの成功を収めたのは記憶に新しいが、この時スタッフは「XXみたいな曲、と発注するのではなく、XXさんに直接頼みましょう」という方針で動いていたらしい。そして、ありがたいことに「Gigaさんっぽい曲」ではなく、Gigaさん自身がテーマ曲を作曲した。

アイドルゲームのPVにはあまりに不穏なビートとベース、そしてPVだろうとお構いなしに高らかに響く「ギガ~」というプロデューサータグ(ヒップホップの文化らしい、ビートメイカーだって知ってほしいもんな)。成功したな、と僕は思った。そしてこの拙いが不敵な特徴あるボーカルとGigaさんのトラックのマリアージュが素晴らしい。

というか2023年のAdoの「唱」もGigaさんなのだが、それを考えても2024年はさらにGigaさんの年でした。ここから先もアーティストは変われど、Gigaさんの曲だらけ。だって好きだもの、しょうがないね。

7. メズマライザー / サツキ (30)

僕は時代に逆行して音楽は歩きながら外で聞くので、ほぼMVは見ないのだが、、この曲に関しては流石に何度も見た。コメント欄だけでなくshort動画/TikTokもこの曲の歌ってみた踊ってみた考察であふれかえり、音楽とともにMVが天下を取るという鮮やかな成功の形を目の当たりにした。こうなると覚悟してはいたものの衝撃だった。

MVのchannel氏はあまりにも謎のクリエイターで、縦長1分で目に残る映像を作るのが抜群に上手い。

https://youtube.com/shorts/jSsJu34W86o?si=_aC2O2yG0vI9vc3w

まあ分かっていた、TikTokとかの文化が全盛になって「世代じゃないからわかんね」と中年層が言っている間にこういうTikTokみたいな動画に特化した才能がポンポン出てくるのは。僕も早く老害になりたいのだが、残念ながら(?)全然わかる。この映像は、マジですごい。どうしてこの短時間でこんなに鮮烈な印象が残せるのだ。

あまりにMVが凄すぎて曲が軽んじられるなんて現象すら発生していたが、この催眠術をテーマにした鮮やかな曲がなければこの映像はできてないのだからそんなことは一切気にする必要はないと僕は思う。最近「シーケンスばかりで溜めやフィルがない」っていう呟きが一部で話題になったのもこの曲を意識していたのかもしれない。知ったことではない、フィルなんてなくていい、ピコピコ音のシーケンス最高、まったく踊れない超ハイテンポ最高、喉を破壊する超高音最高。

「誰か助けてね(^^♪」

6. かなしばりに遭ったら / あばらや (35)

衝撃度で言えば2024年最強の曲。再生回数が一番じゃないのは youtube がカウントされてないだけで、youtube 足したらたぶん一位。

そして、チャンネルを開くと飛び込んでくる「VOCALOID PRODUCER / 17歳」の文字。まあ、もう年齢ぐらいで驚かないのだが、僕の中では tuki.(15) よりも、あばらや(17) である。

あなたが朝なら私はそれを零す窓とかだろう

という歌い出しですでに撃ち抜かれるのだが、

ただ知ったんだ有限な物が
一瞬の有限な物が 視界の有限さこそが
唯一の解放であると

なんてサビを1/2テンポのリズムで鳴らされてしまっては言葉を失ってしまう。17歳は普通もっと広い世界を見たいとかそういう方向のはずなのに、もうなんかすべて見たうえで有限さーーこの狭い視界でよかった、みたいなところに思いを馳せる領域に至っている。インターネットの情報の洪水を生まれてすぐ浴びている人間じゃなければこうはならない。

インターネットは、99%の人間の心を病ませてその代償にこの曲を作ったのかもしれない。この歌詞だけで100点なのに曲調も先進的で音も尖っていてさらに幾何学的なMVは自作。自分がプロボカロPだったらここで筆を折っていたかもしれない。凄すぎて本当に危ない。

この方は匿名投稿祭の「その銃口」でその曲の名の通りしっかり撃ち抜かれて気になっていたのだが、本当にその出会いに感謝したい。無色透名祭2025、待ってます。

この曲初めて聞いたとき40代ぐらいのジャズギタリストとかが作ってるのかと思った。だって、枯れたグルーヴがちゃんとあるから。

5. Bling-Bang-Bang-Born / Creepy Nuts (38)

流行りに流行って、広がりすぎてインターネットに飽き足らず友人の3歳の子供まで痛く気に入っており、この曲が鳴り始めると歓声を上げ踊り出していた。まさにみんなのうた。ミセスも好きだが、レコード大賞は絶対こっちだったと思う。

R指定はフリースタイルダンジョンからずっと知っていて、ずっと唯一無二のスキルでTOPを走っているので「来たか、ルフィ ※3回目」みたいな感じなのだが、さすがにここまでくると思ってはいなかった。声色やリズムを巧みに操るフローは当たり前に素晴らしいのだが、個人的に気になったのはDJ松永のビート。この曲、ほとんどハイハットが鳴っていないのだ。いや、冒頭でうっすらなってる気もするがそれより子供の靴が鳴ってるみたいな不愉快なキュッキュ音がハイハットの代わりに使われている。こんな攻めたトラックが2024年最バズ曲になるのは、みんなの耳が肥えたのか、ついにHip Hopが日本で当たり前になった結果なのか。

なんにしろ、彼らの時代が来た。ってこれまでもそれこそ3回ぐらい言えるタイミングはあった気がするが、さすがにもう言ってよさそうだし、否定する人もいなさそう。これからも変なトラックとラップで老若男女に売れまくって欲しい。

4. バラクーダ / ZAZEN BOYS (40)

そして Creepy Nuts が新しい時代を作っている間、ついに重鎮・向井秀徳も重い腰を上げオリジナルアルバム「らんど」を出してくれた。今年はそれだけでうれしいのだが、その上アルバムの内容も素晴らしかった。なんというか ZAZEN BOYS というのは常にキワキワな集中力を擁して一音一音を鳴らしているがゆえに、アルバムでもどこか途中から集中力切れてしまっているのでは、みたいなトラックになりがちなのだが(諸説あります)、今回の「らんど」というアルバムは最後まで集中力を維持していた気がするからだ。やはりベーシスト miya の新しい風、そのどこか体を動かしたくなるダンス寄りのルーズなグルーヴのおかげだと勝手に考えている。

中でもこの曲、バラクーダは相変わらずのつんのめる変態拍子でありながらマイケル・ジャクソンのように踊れるグルーヴを持っていて、その上コーラスは「今日もロンリネス!」である。痛快すぎる。人間の本質って寂しさなんだなあと年月を重ねるごとに実感する僕だが、向井氏も同じなのかも、と嬉しくなる。

そして今の最高の状態のZAZEN BOYSならば、「永遠少女」のような、美しく染み入るメッセージ性の強い日本語詞を書くことすら可能になった。日比谷音楽堂、武道館、ともに最高だった。僕の生涯で、一番通ったライブは間違いなく「ZAZEN BOYS」になると思う。

3. パイパイ仮面でどうかしらん? / 宝鐘マリン (42)

今年のライブ一位は宝鐘マリンの2DAYSだった。あまりにもエンターテイメントに特化した彼女の魅力あふれる、全く違う色の二日間。普段「アーティスト」って感じのライブにばかり行っているがゆえに、こういう「エンタメ全開」のライブの評価に甘い自覚はある。あるけれど、これだけ色とりどりのクリエイターに発注し、曲調も多彩ながら、「宝鐘マリン」という一つの軸で曲をまとめるのはとんでもない力量だと思う。いずれ「宝鐘マリンの仕事術」という新書を彼女は出してくれるだろう、出してほしい、買います。とりあえず彼女の仕事の返信は秒で返ってくるらしい。Googleも仕事ができる人は返信が早いって言ってた気がする。

そしてライブチラ見せ配信(youtube)を何度も何度も聞いているし、アルバムを通して聞いた回数は彼女が一番なので、僕の中で今年のアーティスト一位は宝鐘マリンなんだと思う。この曲は最初聞いたときなんじゃこりゃと面食らったが、実はアイマスでも「アタシポンコツアンドロイド」という大好きな曲を出している、一度聴いたら忘れないどこかレトロな曲を作り続けるクリエイター、ササキトモコ氏の作曲で、噛めば噛むほど味が出る一品。

ライブの後の余韻に浸りながら電車で繰り返し聞くには最高の曲だったのだが、その特徴的なイントロと曲調から、インスト版がゲーム配信でゲーム内キャバクラの曲としても最高になじんでいたのが面白かった。

もう何しても極上のエンタメになる領域に達した船長だが、実は2024年はライブで大成功するまで自己肯定感が地を這っていたとか……。どうしてその状態であのライブができたのだろう。よくわからないが VTuber って本当に大変だ。

なお、アルバムではこの曲が一番好き。舞城王太郎がタイトルで引用され、中森明菜の「DESIRE」がサンプリングされ、ライブではマイケル・ジャクソンのスリラーを意識した演出をし(自己肯定感は低いが演出への意識はとんでもなく高い謎)、歌詞は「船長含めみんな死んだ」である。皮肉もエッセンスも個性もマシマシに効きすぎている。MV鋭意製作中だそうで、また1000万再生は軽くいくだろうが、本当に船長のこの安定感は何なんだろう。

本当にかかわったクリエイターが幸せそうに曲を作るアーティストだと思う、その点では Ado にも負けてない。でも oricon のインタビューでは「音楽アーティスト!?」とか言っちゃって……本当に不思議な人だと思う。あなたがアーティストじゃなくて誰がアーティストなんだ。

2. ビビデバ / 星街すいせい (53)

2021年ぐらいからずっと

「星街すいせい」が格好いいことは痛いほどわかった、格好いい星街すいせいが好きだ、でもそこで止まってほしくない。彼女には「バズって」欲しい。

と言い続けていた僕である(嘘ではない)。個人配信でその思いをぶちまけたら、同じく星街すいせいファン、通称「星詠み」の人に冷めた目で見られて、まあ厄介オタク極まりなかった僕だが……。

2024年はついに! あの最高の曲「フォニイ」の作曲者ツミキさんの力も借りて、男性VTuber登録者TOPの葛葉氏に「VTuberは、3Dの待合室ではみんなビビデバを踊ってる」と言わしめたバズにたどり着いた。圧巻の1億再生である。それも、オタク受けではなく一般層にも届く曲調のまま、さらにコンセプチュアルなMVも添えて、完璧な立ち居振る舞いを見せてくれた。ありがとう、本当に応援していてよかった。

インタビューで人間の根源はリズムと言っていたツミキ氏の巧みな節回しで本当に楽しく踊れる曲になっていて、テンポもゆったりで、流行りを意識しながらも「一般層にも届くVTuber」を目指す彼女にふさわしい最高の曲だと思う。

なお、前述の Giga氏作曲の AWAKE も最高に格好いい。このまま2025年は紅白に出てくれると信じている。ライブも見たが「アーティストで在ろう」とする彼女の視線は本当にぶれない。それは King Gnu や Ado と比べられてしまう茨の道なのだが、それでも進むと決めた彼女には本当に辿り着いて欲しい。

1. CHIHIRO / ビリー・アイリッシュ (54)

……と、なんか勢いでだいぶ情熱的にこの記事を書いているが、最後は洋楽オタクに戻り、平熱に戻り、ビリー・アイリッシュである。

もともと「常に期待を裏切り続ける」を地で行く尖り切ったビリー・アイリッシュなんて好きに決まっているのだが、特に今年のアルバムはトリップポップのテイストを感じさせつつも、アンダーグラウンドな感触を残し、その上かなりメロディアスなアルバムで最高だったし、なかでもこの千と千尋の神隠しにインスパイアされたという「CHIHIRO」の陶酔感には酔いしれた。複数の天才に作曲を頼むのが当たり前な時代かもしれないが、やはりトラックメイカーは一人のほうが、いい。

この記事でこれまで紹介してきた意欲的な曲たちは、現代の流行りを真っ向から受け止めつつ、それでも個性を消さないようなカラフルな曲だったが、あたかも「そういうの疲れない?」と言いそうなぐらいの冷めきった音像、シンセとベースの目立つシンプルな伴奏、ただ歩き続けるビリー・アイリッシュを追うだけのMV。

でも彼女の姿から目が離せず、艶っぽく、自然体でありながらも情熱的なボーカルが耳にこびりつく。だんだん彼女のオーラは、ビョークのような超常的なものをまとってきたように思う。美しいし、純粋な子供みたいだし、老練の母のようでもある。

そして、彼女が叫ぶところは深くリヴァーブがかかっていて、よく聞こえない。届かない、ということを鮮やかに届けてくれている。やっぱり僕はいつも、こういう音楽に戻ってきてしまうなって思う。

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