テン年代の美少女ゲームを振り返る(2010年編)
ゼロ年代におけるエロゲ(美少女ゲーム)の存在感が良く語り草にされる一方で,2010年に入って以降エロゲ業界というのは縮小を続けているといわれている.
先日も『ef』で有名なminori,『Dies irae』のlight,『蒼の彼方のフォーリズム』のspriteが活動を停止するなど,傑作を生みだしてきたブランドが次々と終焉を迎えている.
このような縮小ゆえか,あまり2010年代のエロゲというものがゼロ年代同様に回顧されるということは稀なようにも思える.しかし自分が主にエロゲのオタクをやっていたのは主に2010年以降なのでこの状況には少し寂しさを感じると共に,不満も覚えていた.
欲しいものが無いのであれば作る,というのがオタクたるものの運命である.というわけで,元号も変わり,2020年も目前であるこの時代の節目において『エロゲ』という文化について自分なりに振り返ってまとめてみることにした.
具体的には年ごとに傑作エロゲ,エロゲ界に関連したニュース,エロゲソングなどを振り返っていくこととしたい.そんなに本数をやっているわけでもないのでデータを見た雑な感想などにもなってしまうかもしれないが,何らかのたたき台になったり,少しでも人々の心の琴線に触れるものがあればと思う.最低月一では上げていきたい.
なおここでのエロゲはエロゲー批評空間に載っているならば非18禁のものも含むものとする.というのも批評空間に載っているものはメーカーやライターを通して何らかの形でエロゲ文化に接続しているので18禁のラインで線引きすることにあまり意味はないからである.
2010年のエロゲ
2010年はかなり不作な年だったのではないだろうか?今でも話題に上がるのは,ケロQ『素晴らしき日々』,Leaf『White Album2』だろうか.
素晴らしき日々は三大電波ゲーの一つに数えられる『終ノ空』(残り二つは『さよならを教えて』『ジサツのための101の方法』)のリメイク版である.『電波』と呼ばれている暗い雰囲気とは打って変わって,ミステリー仕立てで進行しエンタメ性ももちつつも,『論理哲学論考』といった哲学書・古典の引用による独特の雰囲気,「生きる」ことに強いメッセージ性から高い評価を得ている.
個人的には,この作品は10年代の方向性というのを表しているように思える.3代電波ゲーのような終始陰鬱で、狂気を孕んだ作品がゼロ年代にはよく存在したが,この作品はそういった要素も含みつつも底抜けに明るい.良くも悪くも健全化するテン年代の始まりを思わせる作品であった.
『WHITE ALBUM 2』は翌年に発売される完結編こそが高い評価を受けている作品ではあるが,一方でintroductory chapter の段階でも傑作の片鱗を見せる,非常に演出が光るゲームでもあったように思える.同年にはオリジナルの『WHITE ALBUM』のリメイク版がPS3から出ており,こちらも好評だった.
これら二つのゲームは偶然にも2018年に共にリメイク・リパッケージ版が発売されており,ユーザーから長く愛される作品となっている.
他にも新作でヒットを飛ばしたのは,あっぷりけ『黄昏のシンセミア』,Alcotハニカム『リアル妹がいる大泉くんのばあい』,エウシュリー『戦女神VERITA』などだろうか.どれも近年言及されているのを見た覚えがなく未プレイなので評価しがたい.また近年ではおそらく最も売れているエロゲメーカーとなったゆずソフトは,この年に『のーぶる☆わーくす』を出しているが,これは批評空間で同ブランド内最高得点を獲得している作品である.
その他には大ヒットを飛ばした作品のFDや続編がちまちまと出て好評を博している小粒な印象だ.例えば『BALDR SKY』シリーズのFD『BALDR Sky Dive X』は数多くの廃人を生み出した.『俺たちに翼はない』のFD『俺たちに翼はない AfterStory』,『星空のメモリア』のFD『星空のメモリア Eternal Heart』どちらも本編よりも高い評価を受けることもありFDとしては傑作の部類に入るだろう.現在『ようこそ実力至上主義の教室へ』で名を馳せているトモセシュンサクx衣笠彰梧のコンビによる『暁の護衛』の続編『暁の護衛 ~罪深き終末論~』などはFDとのパック版が良くセールで販売されており,ライターの人気もあって未だに売れている部類には入るように思える..
一方でブランドとして期待値が高かったがそれらを裏切る形となった作品としては「うみねこのなく頃に」のラストエピソード,「Cross Days」,「クドわふたー」があるだろう.
クドわふたーは傑作と名高いリトルバスターズ!の展開をなかったことにし,比較的人気であったクドとのストーリーを描く.本編は前半の評判があまり良くなく,後半もご都合主義観が強いとあまり芳しくなかった.無論『友情』とも称されるリトバスのFDとしてクド一人をフィーチャーしその他のメンバーの登場機会がなかったといった需要の食い違いといった問題もあるだろうが,智代一人とその必ずしも幸せではない未来を描いた『智代アフター』が傑作とみなされていることを鑑みるに,麻枝の去った後のライター陣の力不足を露呈した形となったといえよう.
「ひぐらし」がエポックメイキングな作品として高評価を受ける一方で,その次回作に当たるうみねこのなく頃は,大量のメディアミックス展開など一定の注目度と評価を受けてはいるのだが消化不良との評判が高い.特にこの年に発売されたEpisode8はうみねこシリーズの中でも最低の評価を受けており,批評空間の点数ではほかのエピソードが75点以上を獲得しているのに対し,このエピソードだけ60点である.ファンの多くが消化不良を感じたということの証左であろう.
「Cross Days」はSchool Days系列の作品として期待を持たれていたが,バグまみれであること,女装主人公が男を寝取るという展開が少ないゲーム内容の多くの部分を占めてしまっていることが波紋を呼び,Overflowに止めを刺した作品とも評される.
なおクソゲーオブザイヤー in エロゲ板ではういんどみる『色に出でにけり わが恋は』が選出されている.下に述べるように同年に同ブランド『祝福のカンパネラ』のアニメ化があったこともあって印象に残っているプレイヤーも多いかもしれない.
同人作品の中では『野良と皇女と野良猫ハート』で大ヒットを飛ばしているライターのはとが作った同人ゲーム『Humanity』も評価が高い.またキラ☆キラで断筆した瀬戸口改め唐辺葉介の『暗い部屋』も瀬戸口ファンの中ではマストとなっている作品の一つであろう.ネタ的には伝説のアゴゲー『学園ハンサム』が出たのもこの年である.
今でもなおメディアミックスや続編作成を続けている『STEINS;GATE』は2009年にXbox版が発売しているが,2010年にPC版が出たこともあって,この年にプレイした記憶のあるプレイヤーも多かったかもしれない.完全にコンシュマー向けというなかで加えるならば『ダンガンロンパ』シリーズは2010年が初出となっている.また社会現象ともなった『ラブプラス』の続編,『ラブプラス+』の発売もこの年である.
他にも2010年にはPSPへの名作移植も多い.ギャルゲーはゲームハードの終焉期を見送る作品であるなどと評されることもあるが,PS Vitaの発売を翌年に控えたこの年にも『リトルバスターズ』『ナルキッソス』『夜明け前より瑠璃色な』『家族計画』などがPSPに移植されている.当時の若者は親に隠れてできるこのポータブルな端末を通して名作エロゲを知っていった人が多いかもしれない.
たいていのゲーム機は、最初、高性能を売りに美しいグラフィックとスケールの大きなゲームをリリースする。
しかし末期になると、タイトルの大半がギャルゲーとなる。
最後の輝きを看取る彼女たちの優しさに、君は気づいていたか?
『神のみぞ知るセカイ FLAG8.0』より
神兄様はいいこといいますね…….なおギャルゲープレイヤーが現実の女性を「攻略」するというプロットを持つ『神のみぞ知るセカイ』のアニメ第一期の放映も2010年である.
2010年のエロゲー関連ニュース
2010年は基本的にはエロゲ界の景気は悪かったといえるだろうが,一方でまだゼロ年代後半の勢いを保っている部分もあった.例えば,大ヒットしたアニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』ではオタクであるヒロインがエロゲをプレイしており,当時のオタクとエロゲが切り離しがたい存在であったことを象徴しているだろう.
Keyがクドわふたーで失敗したことは先ほど述べたが,一方でリトルバスターズで筆を折った麻枝准は『Angel Beats!』でかつてないほどの大ヒットを飛ばす.最終回を中心に内容には批判もあったとはいえ,現在でもコミカライズが連載しているほど根強い人気を持つ作品となった.(全6巻予定のゲームは1巻で頓挫したようだが)特に本作品の作中バンドGirl's Dead Monsterは大ヒットを飛ばし,LiSAがブレイクするきっかけともなった.
エロゲ原作のアニメも何本か出ている.この年ではBaseSon『真・恋姫†無双』,ういんどみる『祝福のカンパネラ』,August『FORTUNE ARTERIAL 赤い約束』などがアニメ化された.『夜明け前より瑠璃色な』である種の伝説をつくってしまったAugust原作のアニメもボリューム不足感はあるが無難にまとめ上げていた.
そして何よりもSphere原作『ヨスガノソラ』は伝説となった.『ヨスガノソラ』は地上波アニメ化される際はカットされることが多かったセックスシーンを堂々と地上波で垂れ流しお茶の間?に衝撃を与えた.とくに本作の実妹ヒロイン穹との玄関での情事が他ヒロインに目撃される回は多くの人の記憶に残ることとなっただろう.その伝説的なインパクトゆえに,近親相姦を指して『ヨスガる』と表現するネットミームも生まれた.2019年の今でもヒロインの春日野穹の人気はすさまじく,新作フィギュアが作成されている.また複数ルートをまとめる中で構成に失敗しがちなエロゲ原作アニメであるが,本作は原作を再現し,一本道でない構成をとっていた.またEDが二回あり,ED1の後にSD絵によるギャグパート(一応全話通して1ルートになっている.)が入っており,構成も独特であったといえる.ED2がZになる前のももいろクローバーである.エロばかり注目されるが,個人的には音楽がとても良く,美術もエロゲ的な理想の田舎の空気感が耽美的に表現されており,なかなか見ごたえのある仕上がりだったと思う.(『比翼の羽』と『ツナグキズナ』もいいよね!)
新たなビジネスモデルを探そうとする動きもあった,一つの典型が本体ソフトを無料で配布した『se・きらら』である.『se・きらら』は本来フルプライスで売るはずだったゲームをネット上で無料配布,フィギュア付きバージョンを有料で販売という形態を取り話題となった.これでゲームの出来が良ければよかったのだが,様々な超展開を含み,最後はメタっぽいネタに走るなどいまいちなゲームにありがちな展開を含んでおり,結局のところ大して評価されなかった.なおフィギュアの出来は良かったらしく,ゲームの話題を聞かなくなってからも2013年ぐらいまで出続けていた.本作を作成したブランドnativeは今はエロフィギュアを売る会社としてそこそこうまくやっているようだ.(もともとそれが本業なのかもしれないが)結局この商法に続くメーカーは現れなかったが,その後の『セイイキ』シリーズなどの売り方(基本低価格1ルート,豪華な特典付きバージョンを別途売る)に影響を残したかもしれない.
2010年の倒産したメーカーの中で比較的名前が通っていたのは,『水平線まで何マイル?』のABHARだろうか?なおこのメーカーのスタッフは同年新ブランドTrumpleを立ち上げ,深崎暮人先生が原画を担当し,アニメ化までした『失われた未来を求めて』を作った.また,『水平線まで何マイル?』は倒産後PSP移植も果たしており,田中ロミオが追加シナリオを担当するなど,不思議なメーカーである.
一方で不正コピー問題は当時は今以上に蔓延っており,例えばういんどみるが発売前のエロゲをファイル共有ソフト経由で流されてしまうといった事件もあった.
またハルヒ以来?自由奔放に成長を続けてきたオタク業界にも逆風が吹き始めたのもこの年である.いわゆる「青少年健全育成条例」を中心として未成年の非実在キャラクターに関する性描写が取り沙汰され始めたのである.山田太郎などを中心とする「表現の自由」を巡った政治闘争が始まったのもこの頃だろう.(特にエロゲの中で厳しい目を向けられたレイプレイ事件は2009年.)
エロゲソングとか
空気力学少女と少年の詩は大人気である.
魔界天使ジブリール4のOPムービーは傑作なので見てほしい.
DEARDORPSのOPムービーも傑作だよね.
あとは今は亡きSpriteの『恋と選挙とチョコレート』はゲーム内容は残念だったそうだが,OPは良い.また今は引退された西沢はぐみさんの『combination somebody!』なんかも好み.
その他2010年に公開された面白かった記事など
エロゲ一本作るのにいくらかかるか?という記事.こういうのが話題になっるのはエロゲ業界の景気の悪さというのもあるのだろう面白い.
アマゾンもこんな浮かれた企画をやっていたようだ.
総評
冒頭で不作とか書いたが,2010年のエロゲ業界はめちゃくちゃ元気という印象を抱いてしまった.不正コピーなどの問題はありつつもまだオタクのメインカルチャーとして認識されていたように思える.結局スマホの発展によるPCへの消費時間の減少というのが,現在の衰退の大きな原因なのかもしれない.そんなこともこれからの記事で考えていけたらと思う.
意外と分量が出てしまったが,後半になるにつれ,話題も少なくなってくるでしょう……,こんな感じで10年分振り返っていけたらと思う.これが載ってないのはおかしいというものがあったら指摘していただければ順次追加していこうと思う.
追記
(2019/5/19)
ソフ倫の2010年までのエロゲ販売数のデータがあった.右肩下がり.
(2019/5/21)
そういえばこの時代はエロゲの深夜販売があったのだった.クドわふたーが結構盛り上がっていたことが分かる.
そういえば,『ラブライブ!』の企画が始まったのもこの年だった
(2019/09/10)
『恋と選挙とチョコレート』の初回版に『Like a Butler』のデータが混入するなんていう事件もそういえばあった。
https://komopes.com/archives/648
(ヘッダーはredoxkunさんによるものをクリエイティブコモンズライセンスに基づき使用しました)(なお魔法使いの夜は延期して2012年発売です)
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