テン年代のエロゲを振り返る(2013年編)
2013年は,この年で一番注目するべきは,メタフィクションもの『君と彼女と彼女の恋。』だろう.そのほかには,『虚ノ少女』『Magical Charming!』『ハピメア』などの作品が評価を受けていた気がする.微妙にリメイクが多かった気もする年で,「Rance」と「家族計画」がリメイクした.『ChuSinGura46+1 -忠臣蔵46+1-』がリパッケージしたりもしている.個人的な印象ではOP・EDなどの歌曲のレベルが高かった年という気がしている.たとえば,堀江昌太×佐咲紗花の「キスのひとつで」「マリンブルーに沿って」などはエロゲソングの名曲として良く上げられる気がする.
オタク業界的には,DMM GAMESが「艦これ」をはじめとして頭角を現し始めたことが大きな出来事だろうか.加えて「魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語」が大ヒットした年でもある.これがそれなりに評価されたことは,劇場アニメの市場を拡大させた気もする.(「けいおん!」とかの方がデカかったかもしれないが)あとは「ラブライブ!」のアニメおよび,そのソシャゲスクフェスの大ヒットもすごかった.
基本データ
・批評空間中央値一位『ChuSinGura46+1 -忠臣蔵46+1-』,リメイク含まないのなら『虚ノ少女』
・萌えゲーアワード大賞は『月に寄り添う乙女の作法』(2012年10月発売)準大賞は『グリザイアの楽園』
・2chベストエロゲソングは『キスのひとつで』
個別作品について
『君と彼女と彼女の恋。 』はエロゲーの女の子と、本当に誠実な恋愛をやっているのか,エロゲプレイヤーの倫理を問う秀逸なメタフィクションものである.シュタゲのシナリオ構成協力などをやっていた下倉バイオ氏の名をとどろかせた一作である.広報戦略も極めて攻めたものであり,たとえば体験版で「チートコード」を入力することで全てのHシーンが解放されてしまうなど,単にエロを求めるプレイヤーを拒絶している.ただしアイデアとしての秀逸さやそのアイデア周りの完成度は高いものの,あまり日常シーンが面白くなく,メタフィクションとして重要な没入感をうまく醸成できなかったという指摘もされている.あと結構クリアするのが大変である.いずれにしろエロゲプレイヤーはぜひプレイするべき作品といえるだろう.
「ととの」のような挑戦的な作品の対局にある,無難な路線の極致を行く「まどそふと」が登場したのもこの年である.まどソフトはおそらくエロゲメーカーの中では一番勢いがある.まどソフトは原画家こそ,Syroh⇒ 宇都宮つみれ⇒はすねと変遷しているものの,童顔と乳袋のついた巨乳のキャラという特徴は一貫しており,いわゆる萌えゲーの急先鋒として知られるメーカーである.そんなまどソフトの処女作『ナマイキデレーション』が2013年発売された.
「ととの」は良くも悪くも個性が強すぎる一作だが,一般的なエロゲーの範疇でこの年一番個性があったのは『Magical Charming! 』だろうか.同作品はLump of Sugarとしては珍しくシナリオ面での評価の高い作品である.Lump of Sugarが比較的凝ったシステムを導入していた時期の作品であり,「クロノカード」と呼ばれるカードを集め,それが選択肢になるといったシステムが採用されている.このシステムがきっちりと最終ルートにも絡んでおり,ゲーム面とシナリオが融合した.またネタエンドなどの作りこみも結構しっかりしている.この作品に付属するクロノカードという謎のTCGもそれなりに評価されており,大会や拡張パック他作品の特典になるといった出来事があった.なおLump伝統のave;new feat.佐倉紗織のOPも必聴である.
割と話題になっていたのは『ハピメア』だろうかパッケージ版のロットアップが早く,一時期価格がかなり高騰していた.不思議の国のアリスと明晰夢をモチーフにした作品で,夢の世界と現実世界を行き来する中で,夢と現実の境界がだんだんと曖昧になっていくという作品.夢の中で出てくる死別した妹が可愛い.胡蝶の夢的な展開なので全体的に禅問答的な内容も多く,あまり内容は覚えていないのだが,荒唐無稽さや雰囲気などが作りこまれていて,楽しみやすい一作だったように思う.あとOPのクオリティが高い.
売り上げ的に一番ありそうなのはAUGUSTから出た,『大図書館の羊飼い a good librarian like a good shepherd』は前作とは打って変わって,AUGUSTらしい平和な萌えファンタジーゲーであった.後にアニメ化する.初回限定版にねんどろいどぷちがついていてやたらとデカかったことが印象的.影絵をアニメーションさせる,ユースティアからさらに進化したOP映像も良い.
他には『向日葵の教会と長い夏休み』なども評価が比較的に高い.本作はすか自氏の作品にしてはシリアスが薄めであるものの,雛桜ルートなんかは特異で,一定の評価を得ている.特に雛桜ルートED,『さくらとことり』は必聴である.
「暁の護衛」や今では「ようこそ実力至上主義の教室へ」で有名なトモセシュンサク×衣笠彰梧のコンビは「レミニセンス」を出している.一見自堕落だが圧倒的な強さを見せつける主人公の爽快感,中盤まではかなり盛り上がるが完結感があまりないという,もはやお決まりになっている評価を受けている.OPはいい感じです.
シリーズものなかで比較的評価が高いのは『乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-』だろうか単なるFDではなく,主人公大蔵一族にまつわる問題を妹ルートと共に掘り下げ,つり乙シリーズの人気を決定づけた.前作の主人公の声パッチがおまけでついた.OPがいい.
その他にはグリザイアシリーズの完結編『グリザイアの楽園 -LE EDEN DE LA GRISAIA-』,Inoccent Grayから『虚ノ少女』,ユニゾンシフト:ブロッサムから『時計仕掛けのレイライン -残影の夜が明ける時-』,すみっこソフトの四季シリーズ『なつくもゆるる』が出たりしている.全年齢ではあるがFateシリーズから地味に『Fate/EXTRA CCC』が出ていたりもする.その他に比評価が高いのは,ころげてのFD『この大空に、翼をひろげて FLIGHT DIARY』おなじみ曲芸商法『D.C.III R ~ダ・カーポIII アール~ X-rated』,『辻堂さんのバージンロード 』など.
炎上
この年の炎上でいうと『BALDR SKY Zero -バルドスカイゼロ-』だろうか.大ヒットした前作の前日譚という確実に売れる要素を持っている一方で,BALDR SKYで一定の完成を見せた2Dコンボアクションを捨て,3Dアクションシステムを導入するという挑戦をした本作は発売前から期待と不安が入り混じった目で見られていた.結局蓋を開けてみると,ライターの変更に伴う傭兵然とした汚い言葉づかいを多用する文体,前作主人公の不遇なポジション,頻繁に落ちる3Dのバトルシステム,予告していない分割といった要素が重なり,散々な評価を受けてしまうことになった.OPとEDは素晴らしいので聞いてほしい.
SAGA PLANETSより『カルマルカ*サークル』も新島夕氏の脱退に伴ってシナリオ面での不安があった作品だったが,こちらもシナリオがあまり評価されなかった.OPはいいんですが…
リメイク作品
リメイクというのは確立された評判やシステムを基に古参と新規ファンを同時に取り込む手堅い商法として認知されている.コンシュマーでいえば,ポケモンのリメイクはもはやお約束になっているし,エロゲーでも「WHITE ALBUM」などがCGを刷新してフルリメイクされている.エロゲのリメイクのパターンとしては3つ,歴史に残る傑作を新ハードに対応させ出すというパターン(最近で菅野ゆきひろ氏による傑作「YUNO」「EVE burst error」あたり),同人のソフトをCGをリファインしてだすパターン(古くは「ひぐらし」が該当し,最近では「ひまわり」)あるいは新デバイス対応に伴うHD化+追加シナリオ(最近では例えば「素晴らしき日々」「Planetarian」)などがある.この年に発売された「ランス01」はリメイクのパターンとしては1番目に該当する.「Rance -光を求めて-」の発表は1989年であり,この発売に至るまでには実に24年もの歳月が流れていることになる.24年という時は結婚し子供が成人することすらあるながさであり,それを端的に示した「父親が遊んだかもしれないエロゲー」というキャッチコピーは多くのエロゲーマーに時の流れの残酷さを実感させた.
『家族計画 Re:紡ぐ糸』もCGを完全に刷新して,販売した.しかしインタビュー記事を見てもイマイチフルリメイクした理由が判然とせず,声優の変更などもあって,あまりヒットしなかったように思える.リメイクは18禁ではないのだが,なぜかコラボしたオナホールも発売していた.
同人からのリパッケージ『ChuSinGura46+1 -忠臣蔵46+1-』もこの年.
OP集
2013年は秀逸なOP曲が非常に多かったとしにも思える.
特にこの年ぐらいからモーショングラフィックスを効果的に利用したかなり凝ったOPが増えてきた気もする.前述したハピメア,大図書館の羊飼いなども凝っていたが,この年でいうと『グリムガーデンの少女 -witch in gleamgarden-』が圧倒的だった.
NitroPlus所属の北原史尋氏によるOP異常に良くできたOP.COSMIC CUTEはこの後,妙にOPの質が高いブランドとなっていく.
『フレラバ ~Friend to Lover~』
「quantum jump」という名曲.
こちらもOPが印象に残っている作品.
割とスマホが普及したことがあってかここら辺からタッチスクリーン的な演出を使用するムービーが増えた気がする.
ゆずソフトはフルアニメOPをやることもあるブランドだが,アニメ部分は正直なところあまりクオリティが高くなく微妙な出来になっている場合も多いと思う.その中でもこれはCGとアニメのバランスがちょうどよくとれていて個人的には一番好き.まあゲームはあんまりおもしろくないのですが…
なんか地味に好きなOP.ゲームも割と評価が高かった気がする.
「ちいさな彼女の小夜曲」からは堀江昌太×佐咲紗花というコンビの出生作の「マリンブルーに沿って」が生まれた.EDの「キスのひとつで」も名曲.
brand newというイディオムをこの曲で覚えました.
ループを題材にした元長柾木氏による一風変わった作品.ヒロイン同士が対立する組み合わせが1ルートの単位になるという作品.意味深な文字を小気味よく出していくOPは相変わらずかっこいい
人がそうしたいと思うのとは違うやり方で、人がそうなりたいと思うことを実現すること
という作中で出てくる「悪」の定義もイケています.
クラウドファンディング
確認している中で,エロゲー業界においてクラウドファンディングによる資金調達の元祖はOverDriveによるこの年のものが元祖である.ニッチ層の熱量を頼りにするクラウドファンディングはオタク業界と基本的に相性が良いようで,エロゲ業界の窮状も相まってこの年以降は様々な局面でクラウドファンディングを目にすることとなる.
OverDriveはこの年に二本のプロジェクトを成功させている.第一に『キラ☆キラ』『DEARDROPS』『僕が天使になった理由』の劇中登場バンドによるライブ,『KICK START GENRATION~d2bvsDDvsCaS~』の映像化に約1000万円の資金調達に成功,第二に『グリーングリーン』のリメイク「グリーングリーン OVERDRIVE EDITION」で2600万円の資金調達にそれぞれ成功している.前者はクラウドファンディングプラットフォームCAMP FIREの中でも当時の歴代最高調達金額となっており,OverDrive代表のmilktub氏はCAMP FIREの顧問となり,クラウドファンディングの積極的な活用を進めている.
https://japan.cnet.com/article/35035512/
アニメ
『リトルバスターズ! 〜Refrain〜』(1期も2012~2013年の間にまたがっている)も放映していた.BDの特典としてEXの追加ヒロインのルートを扱った『リトルバスターズ!EX』がやっていた.リトバスで一番面白いと呼ばれる部分をアニメ化しただけあって,無難に楽しめる出来だったように思える.(ただやはりノベルゲームのセリフがそのままアニメになると全体的に冗長に感じる気がする)
2011年の傑作『WHITE ALBUM2』もこの年にアニメ化した.アニメ自体の出来はそこまで悪くなかったと思うが,氾濫する恋愛アニメのなかで新規層を取り込むほどの勢いのある作品とはならなかった.introductory chapterがヒットしたら,closing chapterがアニメ化するという話があったが,結局現在に至るまで実現に至っていない.
他には『ワルキューレロマンツェ』がアニメ化していた.馬上槍試合ジョストというマニアックなスポーツのスポ根ハーレムアニメ.ジョストのシーンは結構力が入っている.またエロゲらしくお色気シーンは多い.
なお劇場アニメとしては田中ロミオ原作の『AURA』のアニメが放映された.
スマホ
エロゲー配信プラットフォームについては,昨年にかけての混沌期もおわり,おおよそ現存のプラットフォームへと収束したという印象がある.こちらについては「ErogameScape -エロゲー批評空間- Blog」に詳しく掲載されている.
ソーシャルゲーム関連でいうと,Keyというエロゲー界(?)の巨人がソーシャルゲームに手を出したのもこの年である.この年に二本のソーシャルゲームがリリースされている.
key COLLECTION
http://key.visualarts.gr.jp/info/2013/09/key_collction.html
リトバスカードミッション
https://www.gamer.ne.jp/news/201305020031/
DMM GAMESの勃興
DMMより『艦隊これくしょん -艦これ-』が発表されたのもこの年である.年齢自体は全年齢だが,DMMの登録自体が18歳以上だったはずであり,破損で服が脱げるという性的な要素を含んでいた.艦これはSNSを媒介してヒットして一時期は新規登録に制限があるほどの人気であった.
純粋な18禁ブラウザゲームの中でも長命なものがこの年付近で出てきており,例えば『千年戦争アイギス』の登場はこの年である.いまのDMMのR18ソシャゲの勃興もこの周辺にあるといっていいだろう.
(この時期の作品の例としては2012年12月28日にサービス開始した
『Fairy Fantasia』『Lord of Walkure』といった作品が比較的に長期のサービスを展開している.)
https://dic.nicovideo.jp/a/fairy%20fantasia
https://dic.nicovideo.jp/a/lord%20of%20walkure
その他
・サクラノ詩のEDとなるはずだった『Bright Pain』が橋本みゆきのベストアルバムに収録された.サクラノ詩の方も2013年12月2日に公式ホームページがオープンし,ファンに驚きを与えた.
・コミックとらのあななどを傘下に持つユメノソラホールディングスがアクアプラスの全株式を取得した.
・カミカゼエクスプローラーが萌えゲーの力を知らしめたことは2011年の回で書いたが,この頃になると『乳袋』の言葉が浸透してきている.例えばこのようなやや一般向けの雑誌でも紹介されている.(とはいえ技法?としては昔からあった気がするが)
https://www.excite.co.jp/news/article/Shueishapn_20130302_17371/
・『ハピメア』 バールで割りました 事件もこの年。
総評
まどソフトの登場に象徴されるように,ヒット作のほとんどが無難な作りのものへと収束する傾向を感じさせてしまう一年だった気がする.「ととの」「Magical Charming」「BALDR SKY ZERO」あたりは比較的挑戦的な作風であったが,後続の作品が続いたかというと微妙である.良い点としてはOPのクオリティの向上であろうか.これは10年代では基本的に単調増加していたように思える(ただしminoriなどの強すぎる例があるフルアニメOPは除く)クラウドファンディングも明るい話題のひとつであったとは思うが,本年以降多用される中で徐々に悪い面も出ていってしまった.このように全体的に業界が低調な中でに現れたDMMのブラウザゲーはエロゲーの客をかなりとっていったのではないだろうか.いずれにしろスマホ・ソシャゲ―シフトが完全に明白になった年ともいえるかもしれない.
ヘッダー画像はhttps://www.flickr.com/photos/fukapon/8502540379/よりCCライセンスに基づいて使用しました.