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1人の味(@東京競馬場の力うどん)

東京競馬場を友人たちと一緒に観戦しに行ったことが、僕の競馬始めである。
僕を立派な競馬ファンに育てるべく、熱心な会社の先輩や同僚たちは、場所取りのために朝早くから行列に並んでくれた。そのおかげで、僕は昼頃に悠々と訪れても、良い位置で観ることができている。先輩や同僚と同じくらい競馬に対する興味や情熱が強くなった今も、そんな関係は変わっていない。
……薄情者と言うなら、いくらでも言えばいい。持つべきものは良き友、良き仲間なのだ(※逆に場所取り役を無理やりやらされていたら、僕は競馬ファンになっていなかったことだろう)。
話が逸れた。以上のことから、【府中≒大人数で交流する場所】という公式が、頭の中で長らく成り立っていた。

さて、そんな東京競馬場は、大レースになると身動きが取れなくなる。一度みんなの席に合流したら、あとは平場のレースでパドックを見に行くか、馬券の購入及び換金ぐらいしか動けないものである。また、レースが終わっても、そそくさと飲み会の会場を目指すのみで、すぐに競馬場を後にする。ようするに、大勢で来ているうちは、単独行動は難しいのである。

   ◆

そんな場所に「1人で来た」という実感を得た日がある。2月開催だというのは覚えているが、それは3年前か、それとも4年前かと言われると……。なぜ1人でやって来たのか……はわからない。観たいスポーツが競馬しか無かったからとか、その程度の理由だろう。

初めて1人でやって来て、ふと思った。こんなに広い競馬場ならば、探検のしがいがありそうだな!

急に思いついた僕は、普段は行かない場所を巡ってみようと思った。西門を潜り抜けると、早速スタンド方面では無く、内馬場に繋がる連絡通路を歩くことにした。

冬晴れの内馬場は、親子連れが多かった。たしかに、ココには遊具や芝生広場が整っていて、開放感が溢れている。
その片隅に、馬券販売所も建てられている。中に入ってみると、そこは普段の競馬場と変わらない光景だった。ほのぼのした空間のすぐ横に、鉄火場がある。交わらないものが、すぐ近くで漂い合っているのが、なかなか面白い光景である。

時刻は13時を回ろうとしていた。昼食を摂らないまま、僕は内馬場をぐるぐる巡っていた。そろそろ馬券でも買うか。その前に、腹ごしらえをするか……。

いくつかある売店の中、僕は立ち食いそば店を選んだ。寒いから、暖かいものが食べたい。外で立って食べるならば、ラーメンよりも、そばかうどんが良い。

力うどんを注文した。温かいうどんの上に、揚げ餅が2つ! 腹持ちは相当良いだろう。これで1コインで済むのだから、よくできているものだ。

お店の前には幾つか脚の長いテーブルがあり、そこで立ち食いをするスタイルになっている。
2つのテーブルに、ぽつん、ぽつんと人がいる。彼らと同じような姿勢で、僕も力そばを食べ始めた。傍らに競馬新聞を置いて、時折覗き込むようにしながら。

競馬というのは、孤独な営みだな。
ふと、そんなことが頭を過った。

僕の周りには、うどんやそばをすする人たちがいる。
さらにその周りには、内馬場を楽しむ人たちがいる。
でも、こんなにたくさんの人たちがいても、「たった1人」を意識せざるを得ない。
そういう要素もまた、競馬の魅力として包含されるべきではないだろうか。

   ◆

それ以来、僕は東京競馬場を訪ねるときは、必ず内馬場の立ち食いそば屋で昼飯を摂るようにしている。先輩や友人たちは既に席を確保して、僕を待ってくれているのに。
でも、大勢に囲まれつつも、1人である時間は大切なのだ。故に【府中の内馬場≒1人を愛する場所】という等式が、当分崩れることは無さそうである

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)