2020年1月の俳句。
鵜も蝶も 翼広げて 冬日だく
岸の鴨 水面破りて 羽ばたけり
林間に 蝶の紫 越冬す
山間の林などに見かけるムラサキシジミは越冬する蝶である。
普段枝などにとまっているときは羽を立てている。そのときは茶色の羽の裏側をのぞかせているが、ときどき羽を広げることがある。冬日を受け止めて
湿ったからだを乾かすためだが、そのときには鮮やかな紫の羽が冬日に輝くのである。
らくだ像 聞こえておりぬ 冬の凪
冬は風も強く海が荒れることもあるが、波も立たず穏やかな日もある。
マンドリン 月の砂漠で 初弾きす
今年は一月九日に月の砂漠記念館にてそうそうにマンドリンの演奏を行った。
月の砂漠を含む童謡六曲を演奏し、歌も御宿セレナーデとさみだれ超えての二曲を歌ったのだった。
元旦や ひざにおとなし 座敷犬
元旦に勝浦のいとこ夫婦が顔を見せた。奥さんはトイプードルを抱いていたが、子犬は終始静かで私たちの話を聞いていた。ただ帰り際に数回吠ことがある。
別れるのがいやだということらしい。
餅は安倍川 黄な粉のクレーター
初場所や 弓取式の 声に和す
取り組みか全て終わると 木が入り 弓取式の力士が紹介される。
弓を持った力士が土俵に上がる。
格闘によって生じた熱気やら殺気の気が残る土俵の気を静めるかのように淡々と弓の舞が披露される。
最後に力士のしこを踏む動作に合わせて観客が二度「よいしょ」と声をかける。
歓声と共に土俵はなごやかなものに変わる。
雪おんな プライドだけを 持っている
包まれれば いつもやさしき 雪おんな
東日本大震災では多くの人が亡くなり、その死を受け止められない人々の間に 霊を見たという話が伝えられた。
雪おんなというものももしかしたらそういう過去の災害によって生じた存在なのかもしれない。
激流によって身体を奪われ、体温も失い、それでも自分が生きたという強い意識だけは激流を避けるように高い空間に瞬間移動させて存在を保ち 生き残った者たちをを少し高いところから見下ろしながら 風景の片隅で生き続けているのかもしれない。