『誰のためのデザイン?』を要約してみた
名著『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』の概要をまとめます。ざっくり内容を把握したい方、本を読もうか迷っている方のお役に立てると嬉しいです。情報の取捨選択には私見が入っていますのでご了承ください。また、図は著書に掲載されたものの加工であり、オリジナルではありません。
第一章 毎日使う道具の精神病理学
「混乱を招いたドア」の実例を出し、良いデザインの重要な特性が「発見可能性(どの部分をどうすればよいかを見つけ出せるか)と理解(操作部や設定の意味、使われ方が理解されるか)」であるとする。
発見可能性は、5つの心理的概念(アフォーダンス、シグニファイア、制約、対応づけ、フィードバック)から得られる。理解は概念モデルから得られる。以下それぞれの意味。
アフォーダンス
モノの属性と、それをどのように使うことができるかを決定する主体の能力との関係のこと。
例:椅子は支えることをアフォードする。ガラスは透かして見ることをアフォードする。
シグニファイア
アフォーダンスが存在することを示す手段で、知覚できるもの。意図的につけられたものもあれば、偶発的にできたものもある。
例:ドアの「押す」のサイン。雪道に残った足跡(最も通りやすい道を判断するのに使うことがある)
制約
可能な行動を制限すること。詳細は第三章にて。
対応づけ
二つの集合の中の要素同士の関係。
例:複数ある電灯とスイッチ
フィードバック
要求したことに対してシステムが働いていること、行為の結果(良いものであれ悪いものであれ)を知らせること。
例:ボタンを押したら音が鳴る
概念モデル
あるモノがどう動くかについての、(通常はきわめて簡素化された)説明であり、まとまったイメージ。現実に物理的に存在する必要はなく、正確である必要もない。
例(?):PC内のファイルやフォルダは、アプリケーションプログラムの概念モデルを作る助けになる
人間-機械のインタラクションにおいては人間の理解が必要であり、「すべての人が論理的に考える」という前提でデザインすると、インタラクションに欠陥が生じる。使いづらくイラつかせるデザインに対する解決策は人間中心デザイン(まず人間のニーズ、能力、行動を取り上げ、それからそれに合わせてデザインする)である。
第二章 日常場面における行為の心理学
行為がどのように達成されるかを表す「行為の7段階理論」と、認知と情動を統合する三つの異なる処理レベルについて解説する。
行為の七段階理論
人は道具や製品に出会うと、「それをどうやって動かすのか?」という実行におけるへだたりと、「どのような状態になっているのか?」という評価におけるへだたりに直面する。へだたりにデザイナーが架けるのは、「実行の橋」と「評価の橋」である。
行為のサイクルにおける七段階モデルは、チェックリストとしてデザインの有益なツールともなる。
認知と情動を統合する、三つの異なる処理レベル
まとめ
第三章 頭の中の知識と外界にある知識
知識が不正確でも正確な行動ができるのは、次の4つの理由からである。
行動は頭の中の知識と外界の情報の組合せから決定される
高い正確性は必要ない(行動できる程度に十分であれば良い)
外界には物理的な特徴や他のモノとの関係性など多くの制約がある
文化的な制約や慣習的な規則の知識は頭の中にあり、一度学んでしまえばそれは様々な状況に適用できる
第一章で登場した「対応づけ」は、外界にある知識と頭の中の知識の結合の力を示す良い例である。
ちなみに、自然な対応づけは文化によっても異なり、次のスライドに行くのにある文化圏では「↑」を、別の文化圏では「↓」を押すことになる。
第四章 何をするかを知る-制約、発見可能性、フィードバック-
これまで見たこと使ったことがないモノの扱い方を判断するのに強力な手がかりとなるのが「制約」である。制約は4種類ある。
物理的な制約-穴や突起の大きさ等-
文化的な制約-レストランでの振る舞い方等。慣習は特殊な文化的制約である-
意味的な制約-レゴブロックでオートバイを組み立てる時に、乗り手のブロックは前向きに設置する-
論理的な制約-最後のパーツはこの場所にはめるしかない-
望ましい振舞いを強制する制約もあり、事故防止のための特別の手法として「インターロック」「ロックイン」「ロックアウト」がある。
第五章 ヒューマンエラー?いや、デザインが悪い
エラーが起きた時にヒューマンエラーを起こした人を見つけ、責めて終わりにするのではなく、根本原因分析をすることが必要。それにはトヨタのなぜなぜ5回が有効である。
エラーには「スリップ」と「ミステーク」という2つの形態があり、さらにそれぞれ2つと3つに分類される。
人間の失敗にはエラーの他、「法律や規則からの意図的な違反、逸脱」も無視してはならない。社会的、経済的圧力の存在も事故との関わりがある。エラー研究から導き出せるデザイン上の教訓としては次のようなものがある。
制約を加える
アンドゥー(操作を元に戻す)できるようにする
「実行」「キャンセル」の選択肢とともに対象のオブジェクトをはっきり表示し、行為の意味が何かを目立たせる
第六章 デザイン思考
表面上の問題のみをみるのではなく、本当の問題にたどり着くように掘り下げることが重要であり、そのプロセスを「デザイン思考」という。デザイン思考はデザインのダブルダイヤモンドモデルで表される。
これを実際にやるのが「人間中心プロセス」であり、4つの異なる活動がある。1〜4をサイクルで回す。
観察
アイデア創出
プロトタイピング
テスト (3と4を反復)
「世界中の人」のような、異質な人すべてに適応するには、「人間中心デザイン」より、個別の人ではなく活動に集中する「活動中心デザイン」がうまくいく。
実際には上記の理想通りはいかず、デザイナーは予算やスケジュール、他部門からの要求等数多くの制約に対処する必要がある。部門や分野間の衝突に対抗する最善の方法は、すべての部門の代表が、デザインプロセスのすべての間同席することである。複雑な活動であるデザインのプロセスをまとめる唯一の方法は、すべての関係者がチームとして一緒に働くことである。
第七章 ビジネス世界におけるデザイン
成功した製品には「機能症」と呼ばれる病が潜んでおり、その主な症状は「なしくずしの機能追加主義」である。長い間に多数の特別な機能を付け加えられてしまうと、製品を使いやすく理解しやすい状態に保てなくなる。この病は競合との比較、対抗によって生じやい。良いデザインのためには、競争圧力から距離を置き、「製品全体に一貫性があり、筋が通っていて、わかりやすいように確実にする」必要があり、それには会社のリーダーシップが必要である。
デザインの七つの基礎原理とまとめ
人間のニーズに一致した良いデザインかを判断するのに、7つの基礎原理に着目するとよい。
発見可能性 どのような行為が行えるのかや機器の今の状態が判断できる
フィードバック 行為の結果と現在の状態についての完全かつ継続的な情報があり、行為実行後の新しい状態がわかりやすい
概念モデル 理解され制御感を持たれるように、システムの良い概念モデルを作るのに必要なすべての情報を伝えている
アフォーダンス 望ましい行為を可能にするために適切なアフォーダンスがある
シグニファイア 効果的にシグニファイアを利用することで発見可能性を確かなものにし、フィードバックが理解可能な形で伝えられる
対応づけ 制御部と行為の間の関係が良い対応づけの原理に従っている
制約 制約を与えることで行為を導き、解釈のしやすさを助けている
我々の強みは新しい問題に出会ったときに解決策を生む柔軟性と創造性にあるのであり、機械的で正確なことは不得意である。人間と機械が協調できるようにデザインすることが大切である。
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