【ぶんぶくちゃいな】若き夫婦を不安に陥れる「原家族」

年明け早々、中国メディアに「2024年の映画興行総額は前年比23%減」とする話題が駆け巡った。それらの報道によると、2024年の観客総数はのべ3億人減少したという。

中国政府系メディアは、この統計データを、その減少幅の大きさを強調しないよう事務的な箇条書きで報じたが、庶民派メディアの報道ではその「凋落ぶりへの驚き」が全面に押し出されていた。

映画不振の理由はさまざまあり、特に影響が大きいのはネット娯楽の拡大だと言われている。また、さまざまな政治的、行政的介入により、「似たりよったり」のストーリーに陥っているせいだという指摘もある。これはテレビドラマの世界も同様で、そこからネットで素人が配信するショートドラマに人気が集まるようになった。

一方で、テレビでもリアリティショーが話題になり始めた。昨年11月からは離婚をテーマにしたリアリティショー『再見愛人』が爆発的注目を浴び、社会現象といえるほどの大議論を引き起こしている。あまりの話題ぶりに筆者も興味を惹かれ、YouTubeにアップされていた番組を追いかけるようになった。

このリアリティショーの最も興味深いところは、離婚を想定したリアルな夫婦が参加しているという点である。一般に日本人もそうだが、「家の恥を外にさらす」ことは中国人にとってもタブーだ。もちろん、離婚を「恥」とみなすかどうかという議論もすべきだが、少なくとも離婚一歩手前の夫婦が行き違いを公衆の面前にさらすのは、当人たちにとってかなり勇気がいることのはずだろう。

さらに特筆すべきは、番組は起用する3組の夫婦をある程度名前とその存在を知られている「セレブリティ」に絞っている点だろう。「セレブがさらす離婚への泥沼」は視聴者を引き寄せる最大のウリとなっているのは間違いない。

しかし、だからこそ、最初のシーズンには出演者探しに苦労したと、プロデューサーはメディアの取材に対して語っている。テーマがテーマだけにメンツも地位もある人たちが番組に顔を出した途端、ゴシップメディアの餌食にされてしまうのは間違いないのだから。

そのためだろうか、最初のシーズンに出演した3組のうち1組は撮影の1年前にすでに離婚した元夫婦だったという。しかし、この元夫婦を含めて実際に過去3シーズンに登場した9組の夫婦たちが番組内で見せたリアルな表情や態度が社会に引き起こしたのは、バッシングだけではなく、共感や称賛、そして討論だったという。

そんな反響が「潜在的出演者」たちにとっても番組の魅力に変わったらしく、第4シーズンの今回は著名女優と実業家、Vloger夫婦、歌手と糟糠の妻という3組が番組に参加している。

番組の流れは、この3組が18日間生活をともにして、番組側が準備した心理テストやゲーム、イベントに参加する様子に主軸を置く。そしてそれらを通じて夫婦の間に起きているわだかまりや実際におきた問題などを浮き彫りにし、それぞれの視点でそれを語らせる。またその過程において、自分と伴侶の関係が抱える問題を他の夫婦たちと主観的、客観的に意見交換する姿を描く。

番組ではそれに加えて、別途スタジオに社会学者2人を含めた6人のゲストを集め、毎回の放送分動画を観て出演者夫婦たちの行動、言論、問題点を分析するという形を取っている。このゲストたちの論評はある意味、日本のニュースワイドショーにおける番組ゲストたちのような役割と同じだ。つまり、第三者的立場の分析者でありつつ、視聴者の代弁者として、「視聴者の言いたいこと」を吐き出す役割を負っている。

「リアリティ“ショー”」(中国語では「綜“芸”」とか「真人“秀”」。「芸」は「芸術」というよりも「芸能」を意味し、「秀」は「ショー」を指す)と謳っている限り、番組は結局のところエンターテイメント番組である。このため、番組には「のぞき見趣味」とか「自己満足」とか言った批判的な声もある。実際、筆者が親しくするある華人社会学者もこの番組の女性出演者批判が巻き起こったことを「社会に根強い女性いじめを助長している」と批判的にコメントしていた。

筆者も最初は出演者に対する激しいバッシングとそれに対する大議論を目にして番組を観ることを決めたのだが、観ているうちにそのバッシングの是非はともかく、そのバッシング自体が社会の気まぐれそのものを表すもので、それこそが「ショー」として番組を成り立たせていると感じた。一方で観続けているうちに番組が露呈した、中国社会における伝統的問題の根深さを感じるようになっている。今回はそれについて論じてみたいと思う。

なお、筆者が番組を観始めてからの「初見」はすでにこちらで公開しているので、ぜひそちらも参考にしていただきたい。以下は、その後番組で展開された「リアル」をもとに、中国社会を紐解くものである。


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