空挺ドラゴンズ 描かれない世界まで描く漫画
空挺ドラゴンズ
漫画家・桑原太矩さんの作品。龍がいる世界で、飛行船(捕龍船)に乗り龍を獲って肉や油などを売って生計を立てる“龍捕り(オロチトリ)“の生活に焦点を当てたファンタジー。
登場するキャラ、龍、街、捕龍船全てが魅力的に描かれファンタジーなのになぜか懐かしさや素朴さを感じることができ、臨場感のある世界観を味わえる。著者の画力や想像力が圧倒的だから為せることなんだろうと思う。
ちなみに私は龍を捕った後に、龍を解体するシーンがすごい好きだ。
解体までやらなければならないのは現実では当然のことだけど、フィクションになると省かれることが多い。
それを描いてくれる桑原さんはある意味「現実」をとても大事にしているのではないかと考えてしまう。
以下に私的、空挺ドラゴンズの刺さる設定を紹介する。
刺さる設定 震臓
架空の生物が登場するフィクションは多く存在する。
それらはいつも魅力的な鳥や虫や龍が描かれている。だが、なぜその姿になったのか、なぜその生態になるのかがわからないことが多い。
彼らは空に浮かんでいるのだが、その仕組みが作中では説明がされている。
その原動力になるのが、「震臓」と呼ばれる器官。これを動力にして空に浮かぶことができるという。
ここが素晴らしい。もはやファンタジーというよりSFだと思う。
一つの原理を使って、世界を描いていることがとてつもなくSF感を醸し出してくれる。
刺さる設定 龍の姿
作中では多数の龍が登場するが、それぞれが面白い姿をしていて多様性がすごい。
そして、桑原さんの描く龍はよくある龍の姿をしていない(しているのもいる)。どちらかといえば、魚やクラゲや鯨といった海洋生物に似ている気がする。
なんでこういう形になったのかと考えさせられる。空気抵抗を減らすため?とか求愛のため?とか。
背景設定がしっかりしているおかげで、「なぜこうなっているのか?」と考えるのが楽しい作品になっている。
また、巷に溢れるファンタジーでは生物種の同定が完璧になされているので生物に名前がついている。ハリーポッターでもそうだ。
『空挺ドラゴンズ』の世界では、龍について完全にわかっていないということになっている。名前もわからないその生態を解明していく、学問的にもワクワクする話になっている気がする。
刺さる設定 生態系
この世界には龍がいる。
それだけで、そこには新しい生態系が生まれる。龍同士の捕食関係、龍が作る気候現象。
龍を捕る人にしてもそうだ。龍のおかげで発展し、街が栄えていく。龍がいるだけでこんなに世界が変わっていくんだーって考えてしまう。
龍そのものが世界観を作っているのではなくて、龍が作る新しい生態系が圧倒的世界観を生んでいるのかもしれない。もっといえば、その生態系に繋がる緻密な設定を考える桑原太矩さんの力が、世界観を作っているのだと思う。
桑原さんの描く世界には、作品では描かれていない世界をも想像させるような緻密さと壮大さがある。
読んでいる最中もそうだけど、読み終わった後の妄想タイムがここまで面白いのは『空挺ドラゴンズ』だけな気がする。
そこが『空挺ドラゴンズ』の1番の魅力だと思う。
今アニメやっているけど、次またアニメ化するとか映画化するなら音楽はエリックサティの「最後から2番目の思想」にしてほしい。イメージがこれ。
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