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ストリートピアノー里の秋ー


 「それでは、お義母さん、僕たちはこれで」

 義理の息子が明子の娘と2人の子どもたちと共に、声をかけた。

 「母さん、これからはのんびりしてね」娘の里沙もそう声をかけて、娘家族は、地下鉄の駅の方に向かった。

 今日は、明子の夫の雄一の四十九日の法要で、その後、家族は、このショッピングモールのレストラン街の和食店で予約を取り、食事を済ませた後だった。

1人になった75歳の明子は、とぼとぼと私鉄駅を目指して歩いた。

しばらく歩くと、ピアノのメロディーが明子の耳に入ってきた。

この曲は………

明子は、ハッとして、懐かしさでいっぱいになり、ピアノの音が聴こえてくる方向に歩いて行った。

すると、そこには、女子大生くらいの人が、軽やかにストリートピアノを奏でていた。

曲は、里の秋。

今の季節にちょうど良い曲だった。でも、それ以上に、明子には、里の秋には、特別な思い出があった。

たーたたたたたたーたたた

たーたたーたたたー♪

里の秋のメロディーと共に、明子の思い出が甦る。


55年前ー

 20歳の明子は、保育園で保母さんをしていた。明子は田舎から都会に来て働くのが自分の夢だったが、秋になると田舎の実家を思い出していた。そして、保育園に子どもが殆どいなくなると、実家を思い出して、ピアノで里の秋をよく弾いていた。

 ある日、明子がいつものようにピアノを弾いていると、1人の男性が現れた。

 「あのー、太郎を迎えに来たのですが」
 「あなたは?見かけない顔ですが、どちら様で?」
 明子は用心のために確認した。
 「僕は、田中太郎の母親の弟です。姉は今日は用事がありまして、僕が太郎のお迎えを頼まれたのです。でも、先生が弾いている曲は里の秋ですか?ババくさい。もっと、華やかな曲があるでしょう?」

 明子は、

 初対面で、どうして、こんなことを言われなければならないの?!

と、カチンときたが、それが、亡き夫、雄一との出会いだった。



 明子は、女子大生が奏でる里の秋や旅愁など、唱歌のメロディーで、雄一のことが溢れてきた。

 口は悪くて、不器用だけど、とっても温かい人だった。

 雄一の看病で病院に長い間通ったりしていたので、最近では、ピアノを弾いていなかった。


 雄一さんは、また、私にピアノを弾いたら?って、あの世から言ってくれているのかしら?

 明子は、偶然、通りかかったこのストリートピアノの里の秋は、天国から、雄一がそう語りかけてくれたんだとほっこりした。


 

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