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Relevance(関連性) ID学 vol.6

たとえば、日本のアニメが大好きな学生が、この授業を受ければアニメが楽しめるようになると感じられれば、授業に対する意欲は高まる。関連性というのはだいたいそういう話で、自分の目的に役に立つかどうかというのが関連性の中でも大きな部分を占める。これは道具的動機付けと呼ばれるものだけれども、実は学校教育などでは単に必修科目だったりして、この道具的動機付けが教師自身にも不明な場合が多々多々多々ある。でもこの章は、道具的動機付けがなくても、内発的動機付けをもたせることが可能だという非常に心強いことばから始まっております。でも、心理学の理論満載で読むのがちと辛い。

J. M. ケラー(著)・鈴木克明(監訳)『学習意欲をデザインするーARCSモデルによるインストラクショナルデザインー』(北大路書房)


道具的価値と内在的価値

若い社会人がスポーツカーを欲しいと思うかもしれない。真にドライブを楽しむことなどの内在的な理由とともに、スポーツカーを持っていてすごいと思われることや、通勤手段として使うなどの道具的理由が混在していると考えられるだろう。

ケラー・鈴木(訳), 2010, pp.106-107

ある行動にともなう目的や動機は複数存在し、道具的動機付けも内発的動機付けも混在する。ここにつながりそうに感じたのが、レビンの場の理論である。

レビンの場の理論の理解図(削ろうと思ったけどトールマンもちょっと残しつつ)

レビンのライフスペースという考え方。その人が知覚した現実で構成された環境であるライフスペースと、その人自身との相互作用によってある行動が起こる。ライフスペースのそれぞれの領域間には、お互いの関連性の強さによって異なった透過性を持つ境界があり、透過性が高ければ(関連性が強ければ)そこにより強い緊張があるとされる。人はその緊張を緩和するために行動するというのが、だいたい合っていると思うんだけど、レビンの場の理論である。要するに、行動は複数の目的の相互影響を受けており、より関連性が強いものが多ければ多いほど、その行動を起こす可能性も高まるということだろう。ここで、さらに引用。

教育者としての私たちの挑戦は、インストラクションを学習者がすでに持っている望ましい目的と関連づけることであり、望ましくない目的については、それをt修正するか、方向を変えることにある。

ケラー・鈴木(訳), 2010, p.112

レビンの場の理論は構成主義の中心的な仮説にもなっているそうだ。

トールマンの理論

削ろうと思ったけど、やっぱりおもしろいので書く。トールマンは、それまでの動因理論本能理論のように、生理的本能や不安から発生する行動のメカニズムに代わる目的的行動(行動とは目的的である)を提唱した。人は目的のために行動しており、それは継続的でパターン的で選択的だという仮説。継続的というのは、目的が達成されるまでやめないということで「うそーん」と経験値的に思うのだけれど、それがダイエットの例で説明されている。たとえば、健康的なダイエットをしようという目的をたてた人が、ダイエットによりストレスを受け、その目的がストレスをなくすことにすり替わり、結果として食べるという行動につながるという、経験値的に非常に納得する話である。ここでは健康的なダイエットとストレス解消という2つの目的が競合しており、どちらがより強いかによって行動が変わってくる。書いていてハタと思うけど、食べることによってストレス解消という目的は達成されるから、食べるのは(一旦)ストップするとして、健康的なダイエットという目的はまだ達成されていないのに継続されないのはなぜなのでしょうか。ダイエットと挫折(ストレス解消の達成)を繰り返すということか。

継続性を保つために人がとるのがパターン的行動である。一度確立された習慣はなかなか変えるのが難しい。さらに、人は目的達成のために直接的な道を選ぶ傾向にある。目的に対してより効率的だと思われる方法を選ぶのである。こう聞くと当然でしょと思うんだけど、教師としてわたしは、しばしばこのことを失念しているような気がする。教師の想い学生知らず、というやつである(これがわたしの頭に浮かぶときは、たいていこのあたりに原因があるのではという意味)。

最後に認知地図、またはメンタルモデルという概念に触れられていて、教授理論や学習科学の領域で研究が進んでいるというのだけれど、何度読んでもよくわからないので、気が向いたら調べてみよう(たぶん向かないけど)。

理論とお仕事

ARCSモデルをうんうん唸りながら勉強していると、ときに(しばしば)、こんなことやっていて仕事のなんの役に立つというのか!あしたも6時間ぶっ続けで教えるのだぞ、準備はいいのか!!などと考える(かなりしばしば、今日は休みなのだ!休むべきだ!!という声も鳴り響く)。今読んでいるのは理論本ではなくて臨床実験のような現場に役立つ本であるはずなのに、なぜか延々と理論が続き、インターネットを駆使して強引に理解するという作業の繰り返し。やっと実践的なTIPSに辿り着いたかと思えば、うん… それは普段からやってる、というものばかり。これが現状である。

でもですね、まずこうやって勉強していると、似たような概念や用語にそこかしこで出会うのですよ。単純になんか頭がよくなったような気がしてうれしくなる。たとえば、今回のNOTEでは辿り着かなかったけど、関連性の章を読んでいる最中に、自己決定理論について調べたのよ、出てきたもので。Youtubeを見たりなどして。そして、先日コーチングのウェビナーに参加したら、それって自己決定理論じゃんねっていうお話があって、ひとりひそかに「それって自己決定理論じゃんね」と鼻高々につぶやいたわけです。大切なのは、ひとつの分野、ひとつの書籍、ひとつの学習で出会ったまだ無味乾燥な理論が、ほかの分野や書籍、セミナーなどで再会することでより豊かになるということです。これってすごく重要なことだと思う。むかし、機械設備設計をしていたとき上司が「はじめは穴だらけだった地図が、おたがいにつながったり、穴が埋まったりしてきて、全体像が見えてくる」といっていたけど、なんかそんな感じ。それで、全体像が見えるようになってはじめて、仕事で有効に使えると思うわけです。

もちろん、中途半端でツギハギだらけの知識を時期尚早に使って失敗することも、地図を完成させることにつながると思う。