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笑えないコメディ。「トロピック・サンダー 地上最低の作戦」

毎週、平日昼にテレビ東京で放送される映画番組「午後のロードショー」。
2019年10月9日、その日の録画を夜見て驚いた:「プラトーン」だったのだ。

確かにこの映画、前半は軍隊の腐敗を描いた社会派ものだが、後半からはベトコンの大部隊の攻勢を生き残るのアクション映画となる。最後にはクソ上官ことバーンズ二等軍曹を成敗するカタルシスがある。実に午後ロー向きなのだ。

ベトナム戦争が終わって四十数年以上経った。
「フルメタル・ジャケット」、「7月4日に生まれて」「地獄のヒーロー」ほか
ベトナムの戦場を描いた「ベトナム戦争映画」というジャンルの神通力の恩恵を受けたのは、ぎりぎり20代後半まででは、ないだろうか?それより下の年代となると、厳しいだろう。 
もちろん、「タクシードライバー 」「地獄の黙示録」ほか ベトナム帰りの男たちを通して「現代社会とやらが戦争以上に狂っている」ことを描く名作たちは、未だに光を放っているが。
もはやベトナム戦争は過去の話だ。「戦争の罪」を告発したつもりの映画たちも、「いやな奴がポンポンと倒れていくカタルシスある」エンタメという枠の中に絡みとられていく。


さて、「トロピック・サンダー」は、「映画撮影のつもりが本番の戦場に来てしまう」逆転を、プラトーンはじめとする「ベトナム戦争映画」のパロディ添えつつ描くコメディ作品だ。
つまりは、当事者たちが覚めた目線で語り直す、「ベトナム戦争映画」というジャンル。

しかし、どうも製作者側に冷めた視点がある。
「米軍が中東で泥沼の中戦っているのに今更ベト戦かよ」と言いたげな。
例えていうなら、こんなニュアンスの冷えた笑い。

映画を見てるときでも一〇五ミリや一五五ミリや八一ミリはおかまいなしに咆えるのである 。キッスしようとするのを見とれているところへドドドドドッッッと一五五ミリが咆えたて 、スクリ ーンがびりびりふるえる 。思わずとびあがってしまう 。アメリカ兵は慣れっこになってびくともしない 。私が 〝ちきしょうめ ! 〟と叫んでとびあがるのを見て大声で笑う 。

暗い 、遠くの森のなかでは土と木が噴水のようにとび 、誰かが死んだ 。

「ベトナム戦記」開高健・著(朝日文庫) より引用

だから、腹の底から笑えるかと問われれば、ノーだ。


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ドント・ウォーリー
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