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絶叫する。 自分だけでも眠らないように。SF映画「ソイレント・グリーン」。

2022年、化学物質によって士壌や水、大気に至っては空が黄緑にかすむほど汚染され、温暖化も悪化し「人間以外の動植物が殆ど生育できない」世界が達成。
人類は衰退しました。

1973年のアメリカ映画。だからこれは1973年から見た近未来。
なのに、ちっとも古臭くなく、ぞわりとさせられてしまうのは、
誰もがそれと気づかないまま粛々と近づく破滅的な未来 の描写だろう。
そして胸を打つのは、
主人公が「こんな未来はいやだ!」と物申し絶叫する姿だろう。

近未来、誰もが眠りに就いている。

衰退というのは、人類が営々と築いてきた文化が失われた、ということ。
すでに人間同士の信頼なんていうものは、滅びてしまっている。
会っても挨拶の言葉を交わさない、握手もしない。
家族という概念は消え去り、
雇用も「増殖しすぎた人間を管理する仕事」が唯一残されているだけ。

食文化も消え失せた。
レトルト食品や缶詰すら口にできない、画一的な人口食だけが手に入る世界で、何の「食べる楽しみ」が生き残るだろうか。餌をむしゃむしゃ貪る家畜だけの世界。
(とはいえ、貪るだけの量があるわけでも、無いのだが。)

「昔は新聞も力を持っていた」
劇中の嘆きに表象されるように、
文字も、したがって世論も思想も、とうの昔に息の根を止められている。

要は、全ての「人間を人間たらしめる」文化が失われている。

文化が失われた世界では、人間の尊厳もありはしない。
「名前」を持たない男たち。
椅子にされ殴りつけられる「家具」の女性たち。
葬式もあげられず郊外に「ゴミ」として運び出される死体たち。
そして、鎮圧のため警察の手でブルドーザーにて「排除」される暴徒たち。

それは以下 作品紹介ページのサムネイルからもみてとれるだろう。

「たかが一人の人間殺したって…」
の言葉が皮肉にならない、一人殺そうが万人殺そうが同じだろ、って世界。
みんな、ばらばらに生まれ、
何も生まず何も考えず何も感じないまま、
ばらばらに死んでいく。
目覚めることなく、死んでいく。
眠れる奴隷しかいない世界に、ようこそ。

ソーンとソル。若いのと老いたの。対照的なふたり。


こんな世界で
ニューヨークに住む殺人課のソーン刑事(演:チャールトン・ヘストン)と老人のソル(演:リー・テイラー=ヤング)。
同じ部屋に住んでいるふたりの男が、本編の主役。

ソーンは「文化が失われた後」に生まれてきた人間。
だから食前の挨拶もしない、乾杯もしない、ご馳走を口にしても「美味しい」とは何かがわからない、文字もお世辞にも読めるとは言えない。
この世界の大多数を占める、粗暴な人間。
いや、人間の顔すら持っているかどうか:数字のピースを両手に取ったまますくんでいる類人猿のような顔を、いつもしている。
寝起きのはっきりしない頭のまま、日柄年中を送っている。
そんな印象を受けます。

ソルは元大学教授。文化があった時代の最後の生き残りのひとり。
人間がいっぱいな世界で真っ先に殺されていそうな彼が、生かされていたのは、彼の脳味噌が警察の捜査に必要だから。
コンピュータはおろか書類に記録する習慣すらも失われた世界では、情報収集に、ナマの人間の知恵を頼る他ない。
本を読むことができ、本から情報と知識を得ることができる人間は、最早希少。
だから彼は、ぎりぎりのところで生かされている。

ソルはソーンに「仕事に関する事以外でも」知恵を授ける。
礼儀を、歴史を、文明、文化を。何より「人としてどうあるべきか」を。
「忙しい」とソーンが耳を傾けてくても、辛抱強く教授を続ける。

ソーンとソル、
この対照的な二人は、
しかし不思議なことに喧嘩もせずにいままで一緒に暮らしてきた。
これは、友情というべきものなのか、
互いの孤独を埋めるための「距離」というべきものなのか、
はたまた、互いに利用しあう利害関係というべきものなのか。

ソルは眠る。ソーンは眠ってはいられない。


その「自分の片割れともいうべき」ソルが、ある日、死を選ぶ。驚くソーン。

ソーンがたどり着いた時には、ソルはすでに死に至る薬物を飲み、
ベッドに横たわっている。
なぜあなたは死ぬのだ、とソーンは怒る。
真実を知ってしまったのだ、とソルは返す。
真実をお前に伝える、だから「あとは勝手にさせてほしい」と願うソル。

ソルは、グリーグの「ペールギュント朝」とべ一トーヴェンの「田園交響曲」に耳を澄ませて、かつて人類が手にしていた素晴らしい自然の映像を、驚きと感嘆の中で見つめつつ、死んでいく。

ソーンは初めて、自分の内なる声に耳をすませる。
なぜソルは死んでいったのか、と。

「ソルは、俺に真実を伝えるために眠ることになってしまった。」
「だから、俺は真実のために眠ってはならない。」
いなくなってやっと気づいた、ソルの心。
それを胸に、ソーンは事の真相を突き止めに向かう。


絶叫。眠ってしまわぬように。


だから最後、 口封じの暗殺者に瀕死の重傷を負わされてもなお、
ソーンはなお喉を振り絞るように、おそるべき真実を叫び続ける。
「ソイレント・グリーンは人間だ!」
ソーンは叫び続ける。
「人間が食料になれば、次は食用人間の飼育だ!」
ソーンは叫び続ける。
周りがこの叫びに構わず眠っていても、いや眠っているからこそ、
自分だけは、眠ってしまわないように。

その絶叫が、わらわらと押し寄せる人混みにかき消されるようにして…
映画は、絶望的に、終わるのだ。


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ドント・ウォーリー
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