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地獄へ、道連れ。みんな、道連れ。それがフランス映画の古典「恐怖の報酬」。


本作は第6回カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞している。

※あらすじ・スタッフ・キャストはこちら↓

ベネズエラの油田で火事が発生。消火にニトロを使うことになり、食い詰めた4人の男が金欲しさに志願する。少しの振動でも大爆発だからトラックでの山道運搬は死と隣り合わせ。ゆっくりとやがて怒涛の如くドラマティックになる展開は観客を画面の中に引きずり込む。クルーゾー監督は男の友情を中心に人間そのものを描き、フランス映画の良さを見せてくれる。モンタンを第1級映画スターへと押し上げ、ハリウッド映画の先駆的作品となったサスペンス映画の色あせぬ傑作。
【スタッフ】
監督 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
【キャスト】
イヴ・モンタン、シャルル・ヴァネル、ペーター・ヴァン・アイク、フォルコ・ルリ ほか

ゴマブックス 公式サイトより引用

白黒画面の奥の奥、ざらざらとした闇の世界。

粒子の荒い白黒フィルムのため、自分でやるしかないアクションのため、
昨今のヘタな作品より、遥かに、緊張感が増幅されている作品が、
60年前には存在する。
「狩人の夜」「アスファルト・ジャングル」「黄金」「現金に体を張れ」・・・

本作もそのひとつ。
僅かな衝撃でも爆発するニトロを、緩衝装置なしの普通のトラックで運ぶ。
それも工程500キロ、舗装もされていない砂利道・泥道の上を。
急加速・急減速をしてはならない、速度を一定に保たなくては、
ちょっとした弾み、慣性の法則でニトロが動いて、そのままドカンだ。

普通の運転ですら大変なのに、
さらに高度な運転技術と知恵とを要する苦難が、次から次へと出現する。
凸凹の激しい道路に、行く手をさえぎる巨岩、底なしの水たまり。

苦難の極致と言えるのが、
ハンドルを切っても曲がりきれない狭路だろう。
曲がるためには、いちど腐りかかった木造の橋にトラックの後部を入れて切りかえさなくてはならない:橋の下は断崖絶壁だ。
ぎりぎりまで退がって、さあ、いざ前進しようとすれば、地味にある傾斜と木材表面の滑りのために、トラックのタイヤは空回りに空回りを重ねる、
そうこうしている間にも自重で橋の骨組みがひしゃげていく、
橋が壊れて奈落に落ちるのが先か、元いた道の上に這い上がるのが先か。

手に汗握る瞬間だ。

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その困難を乗り越えて、緊張が緩んだ先に、真の奈落にふたり落っこちる。

苦難の中で、恐怖し堕ちていく男ひとり。

緊張の高まり、激情を伴う苦難、小康状態、また別の苦難。
この繰り返しで、話運びの重苦しさは、否応が無しに高まっていく。
巧みなサスペンス演出に酔わされる一方で、目が離せない別の要素もある
苦難の連続の中で人間が怯え惑う、転落のドラマだ。

堕ちていくのは、本作の主人公マリオ(演:イヴ・モンタン)…
の相棒となるジョー(演:シャルル・ヴァネル)だ。
(下画像の右の人物がマリオ、左の人物がジョー。)

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黒シャツに白ジャケットを粋に着こなし、
親指と人差し指でつかんで、黙ってタバコをふかしている。
土地の親分と酒場でいさかい起きれば、啖呵をきって、気迫で押しのける。
頼りになりそうな、ダンディな力強い男だ。

(若干ハゲてるけど)やるじゃんこいつ、と期待させておいて。
いざ輸送本番となったら、平時の肝っ玉は何処へやら、まるで役立たずになる

最初はジョーが運転手となるのだが、
ちょっと揺れるたび、悪路じゃないよね、といちいち相席のマリオに確かめる。
マリオが「怯えたか?」とからかえば、まじで強がってみせる。

強がっているうちはまだ良かった、
運転手をモンタンに譲ってからは、完全に現実逃避。
「もうやめよう」「帰ろう」とネガティブを発言連発。
最初は敬意から優しい声をかけてたマリオも、イライラしてくる。

挙句、困難を前に、マリオを放置して平気で逃亡を図るようにもなる。
(その度に追いつかれ、マリオに鉄拳制裁を喰らう)

その恐怖が罰なのか。
水たまりを越えようと作業している最中、トラックのタイヤに巻き込まれ、重油の様に粘り気のある泥沼に溺れる。それがもとで、死に至る。

拳銃を突きつけられても平然としているほど肝っ玉の据わった男が、
ニトロの恐怖に憑かれ、ぼろぼろ、びくびく慄えあがる。
そして最後は、黒ずんだしたいだけが残る。

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それでも、最後まで、マリオはジョーを軽蔑はすれど、見捨てようとしない。
そこがマリオの「見た目だけに終わらない」カッコよさだ。

最後は、いともあっけなく。

3名の犠牲者を出して、ただひとり生き残ったマリオは、報奨金を得て意気揚々と帰途に着く。

鼻歌交じりに曲がりくねった崖道を運転。しかし車体がくたびれたのか、いちどはじまった蛇行が、収まらなくなる。
暴れ馬を抑えようとしてハンドルを左に切ったり右に切ったりするも
お馬は全く言うこと聞かず。

やがて

ふとしたはずみで。

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※本記事掲載の画像は全てCriterion公式サイトより引用しました


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ドント・ウォーリー
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