菅原文太主演「木枯し紋次郎」。_どこかで誰かが待ってくれることもない、荒野。
菅原文太というと「仁義なき戦い」「トラック野郎」主演ばかりが先行。
それだけで語るのは、もったいない!
「仁義なき戦い」前夜、この役者、顔を売るためなら、どんな役でもやった。
あるときは、60年代東映任侠映画のスターたる鶴田浩二や高倉健や藤純子らを、敵の刃から守って死ぬ引き立て役、もとい助演として。またあるときは、数打ちゃ当たるな二本立ての添え物映画の主役として。
東映両撮影所が柳の下のドジョウをつかんでばかり、同工異曲の量産を続けるなか、彼は「新しい、何かをつかもう、スターになろう」と必死だった。
東映実録路線を深作欣二だけで語るのも:もったいない!
もう一人、中島貞夫というすごい映画監督がいた。
60年代は、狡猾、その一方どこかみっともない図太い生命力が描かれた青春映画を連打。70年代は、「実録外伝 大阪電撃作戦」「狂った野獣」と「アウトローがのたうちまわる」「痛い」映画を連打して、絶好調。80年代は「極道の妻たち」のメイン監督を勤め、岩下志麻の大活躍を活写。昨今では、「太秦ライムライト」への出演、「ちゃんばら美学考」「多十郎殉愛記」監督と、時代劇へのこだわりを見せ続けている。
本作は、「主役になりたい菅原文太」と「時代劇にこだわる中島貞夫」が巡り合った、幸運な作品。(いまではもはや伝説となった)中村敦夫&市川崑コンビのそれとは違う味を出してやる! その熱気がムンムンと伝わってくるのだ。
二作目「関わりござんせん」も捨てがたいが、今回は一作目を紹介する。
あっしには、かかわりのねえことでござんす”の名台詞でお馴染み、笹沢左保原作「木枯し紋次郎」。 菅原文太主演、鬼才・中島貞夫監督による本作品は、友人の身代わりとなって三宅島の流人となった紋次郎が、新たに流されてきた男の口から裏切られたことを知り、島抜けして復讐を果たすストーリー。 三宅島の大噴火、暴風雨をついての海上脱出シーンなど、映画ならではの大スケールで描き上げた文太版・木枯し紋次郎!ニヒルな魅力が全編に冴え渡る痛快娯楽作!!
【スタッフ】
原作:笹沢左保
企画:俊藤浩滋、日下部五朗
脚本:山田隆之、中島貞夫
撮影:わし尾元也
音楽:木下忠司
監督:中島貞夫
【キャスト】
菅原文太 木枯し紋次郎
伊吹吾郎 清五郎
山本麟一 拾吉
渡瀬恒彦 源太
賀川雪絵 お花
ほか
引用元:東映ビデオ 公式サイト
「主人公は裏切らない、だが裏切られる」この繰り返しの物語だ。
切石の忠兵衛一家に、紋次郎(菅原文太)が訪れて、一宿一飯の世話を申し込む。そこには日野の佐文治(小池朝雄)という男も世話になっていた。すっかり紋次郎を気に入った佐文治は、紋次郎を客として日野にある自分の一家に迎える。日野で紋次郎はお夕というカタギの女(江波杏子)と懇意になる。平穏な日常が続く。
しかし、事件が起こる。お夕にしつこく言い寄ってきたすけべな十手持ちを、佐文治が殺してしまったのだ。佐文治には病気の母親がいた。彼を思いやった紋次郎は、佐文治の身代わりになって、下手人として名乗り出る。刑は八丈島への流刑と決まった。
佐文治は母親の 最期を看取ったら、真犯人として名乗り出よう、と約束する。紋次郎はその約束を信じることとする。
数年間、紋次郎は八丈島で待った。
かごを編んだり、自分の長楊枝を作ったりして、じっと待つ。
他の流人、清五郎(伊吹吾郎)が、一緒に島抜けをしよう、と誘っても拒否して、じっと待つ。それは、佐文治との約束を信じているから。
しかしあるとき紋次郎は、新しく八丈島にやって来た流人から、新事実を知る。
「佐文治は母親が死んだにもかかわらず、真犯人として名乗りをあげていない。」
紋次郎は真実を知りに行くため、島抜けの計画に加わる。数人で島を脱出したのは良かったが、所詮ならず者同士の殺し合いが起こったり、悪天候に巻き込まれたりして、無事に海を渡れたのは紋次郎と清五郎だけ。そこに、地元の一家がふたりを襲撃してくる。これを一蹴したものの、清五郎は致命傷を負う。
死ぬ間際に彼は告白する。
「自分は刺客だった、紋次郎を殺す役割を与えられていた」と。
うそか、まことか?
はやる心を押されつつ、真実を確かめるため、紋次郎は日野に向かう。
途中で佐文治一家の襲撃を受けるが、ボロボロになりながらも切り抜け、ついに佐文治の屋敷に辿り着く。
そこには、紋次郎が信じたくない光景があった。
佐文治は地回りの十手持ちとなっていた。お夕は、佐文治の妻となり、子供までもうけていた。佐文治は十手を持ちたいために、お夕と組んで紋次郎を罠にかけたのだった。
紋次郎は、有無を言わさず佐文治を斬る。子供を抱いたお夕が懇願する。
こうなってはもうどこへも行くとこ ろがない。
いっそ私をこの子もろとも、殺しておくれ。
そうでなかったら、私が どうすりゃいいのか、教えておくれ。
紋次郎はお夕をあしらって、こう返す。
ちょっと間をおいてゆっくりと、噛み締めるように、市川崑版で有名すぎるあの台詞を。
あっしには、かかわりのねえことで、ござんす。
そして母子には手を出さず、いずこかへ去る。 信じた人間に裏切られた怒り。
菅原文太と彫りの深い顔の奥に、それが強く滲んでいる。
この「裏切りへの怒り」は、1年後、広島で、山守組長にぶつけた一言で繰り返されることとなる。
弾はまだ残っとりますがよ。