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サイレント映画「東への道」 伝説的な氷河渡の救出行 だけは見ろ。

漫画「栄光なき天才たち」第2巻で紹介されたのが、映画の手法を試行錯誤しつつ生み出していったデビッド・W・グリフィスの神話であった。

彼のキャリアは「イントレランス」で終わったように、描かれる。
だが、この後も彼のフィルモグラフィーは続く。

1919年、自由な映画作りを目指し、チャップリンらと映画製作会社ユナイテッド・アーティスツ社(後に「ロッキー」「007」「ウエスト・サイド物語」を製作・公開)を創設、自身は引き続き、「國民の創生」や「イントレランス」と同じくリリアン・ギッシュを主役に置いた映画を発表する。
本作もその一つ。受難がテーマだ。無垢な少女がとことんまでいたぶられる。


大きな、大きなお屋敷があったんですね、田舎に。
そこに、召使いにかわいい娘がやってきたんですね。
で、そこで一生懸命に働いたんですね。働いて、働いて、みんなにいい娘だな、いい娘だな。そしてその豪農のお家に、リチャード・バーセルメスの扮してる息子がいたんですね。その息子は、本当に立派な心がけのやさしい女だから結婚しようと思ったんですね。

IVC公式サイトから引用

淀川長治は簡単に全体の3/4を語ってしまっているが
しかし、このかわいい娘が逃げ込んでくるまでが、ガチの受難だ。

リリアン・ギッシュ演じるかわいい娘、彼女の名前はアンナ。
西部から、職を求めて東部に住む親戚、トレモント家を頼るが、プレイボーイのレノックス・サンダースンに騙され、内縁関係を婚姻と騙された挙句、捨てられる。アンナは彼の子供を生むが、その子は洗礼を受ける間もなく、息を引き取る。書いてて、辛くなる。

そのあとも、周囲の目は冷たい。
一から出直そう。愛を諦めたアンナは、さらに遠いところに身を隠す。
そしてその土地いちばんの地主のバートレット家の女中となる。
息子のディヴィッド(リチャード・バーセルメス)との間に恋が芽生えるが、自らの過去を忘れられないアンナはディヴィッドの求愛に答えることが出来ないでいた。

つかず寄らずの恋模様。
こういう時に限って、可愛い女の子曇らせ隊がやってくる。

そこへ都会の男が一晩泊りに来たんですね、そこのうちへ。
その男が、その娘は確か子供ができて逃げて来たんだよ、そういうこと言ったので、かたいかたい豪農の家中がびっくりしたんですね。それを聞いて驚いたんですね。

IVC公式サイトから引用

たまらず、アンナは飛び出す。

そして、ここからが残りの1/4、いよいよ話はクライマックスになだれ込む。
ここからの手に汗握る感覚、名調子の通りだからしょうがない。
そっくりそのまま引用してしまおう。

で、リリアン・ギッシュのその娘は、もう私はとってもたまらない言って夜中に逃げていったんですね。どんどん、どんどん、雪の中を逃げたんですね。
そして死のう、死のうと思ったんですね。
逃げて、逃げて、道で倒れたんですね。でも、倒れたの道じゃなかったんですね。
河が氷結して、河が氷で固まっちゃってたんですね。で、雪が積もってたんです。
道かと思って行きながらそこにばったり倒れたんですね。

一方、豪農の家の息子は「そんな娘じゃない、そんな娘じゃない、あの娘は立派な娘だ」、後をどんどんと追っかけてたんですね。
追っかけて追っかけて「どこ行った、どこ行った」、探してほっと見たら、遠くの、あの河の上で倒れてるんですね。

あんな所で倒れてる、死んじゃうじゃないかって、慌てて飛んで降りていって、「おーい、おーい」とつかもうとしたら、朝方でだんだん雪、氷がとけてきて割れて、その女を乗せたまま流れてゆくんですね。

たまったもんじゃない、向こうに行ったら滝がある、あぶない、あぶないとその割れた氷、それをピョンピョン、ピョンピョン、ピョンピョン飛びながら、もう、どんどん河が流れて行く、滝のとこへ行く、滝のとこへ行ったらもう女は死んじゃう、いうところで、パーッと助ける....これが傑作なんですね。

IVC公式サイトから引用

だから、CGはおろか、スタントマンも吹き替えもロクに頭数無かった時代、
リリアン・ギッシュはガチで氷上に横たわってこの受難を演じている。
これには若い我らも、一周回って、びっくり。古臭いという印象が、「昔の映画は無茶するなあ」という敬意に変わる。

これは、溺れた子どもが救出されるのを祈る時のような気分、救済を祈らせる迫力に満ちている。そして、その願いは叶う。最後は、ハッピーエンドだ。
「世界の救済」を信じたくなる、映画だ。

※本記事の画像はWikiCommonsから引用しました


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ドント・ウォーリー
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