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30年間封印された「ブラック・サンデー」。 眼鏡で小太りの少佐の声が聞こえてくるよう。
足掛け十三年も続いた「午前十時の映画祭」がこの3月にひっそりと終わった。
と思ったら、2021年の復活が決まった。
仕切り直しだ。
2010年、「午前十時の映画祭」第一回オープニング当時の「熱さ」を今でも覚えている。もういちど劇場に「味のある傑作」を取り戻そうという、熱意。
「大脱走」「ショーシャンクの空に」「ニューシネマパラダイス」「サウンド・オブ・ミュージック」ほか、古今東西の定番ばかり押さえていたのだから、受けないはずがない。
翌年の第2回では「ディア・ハンター」「ロンゲスト・ヤード」ら変化球が加わった。中でも話題になったのが、当時日本未公開作品だった「ブラック・サンデー」だろう。
飛行船がスタジアムすれすれに近づいてくる構図が、パンフの中で目を惹いた。
内容は、ベトナム帰還兵+パレスチナ問題+アメリカへのテロ攻撃。
時代を先取りしすぎた、やばすぎる要素のごった煮だ。
アメリカ大統領を含む8万人の大観衆で埋め尽くされたスーパーボウルのスタジアム。テロリスト・グループ“黒い9月”が、その上空で飛行船の爆破を試みる。計画を見抜くイスラエル特殊部隊員を演じるのはロバート・ショウ、首謀者のテロリストにマルト・ケラー。そしてベトナム戦争で心に傷を負い、計画に力を貸す元軍人をブルース・ダーンが演じている。目的のためには命をも惜しまない人々の恐るべき姿を、ジョン・フランケンハイマー監督は見事に描き出した。観衆が恐怖に逃げまどう中、テロリストの飛行船がスタジアムに突っ込む圧巻のラスト・シーン。映画史上、最もエキサイティングで他に類を見ない飛行船とヘリの追跡シーンが繰り広げられる。
スタッフ
監督:ジョン・フランケンハイマー
キャスト(声の出演)
出演:ロバート・ショウ、ブルース・ダーン、マルト・ケラー、フリッツ・ウィーヴァー、ベキム・フェーミュ
パラマウントピクチャーズ 公式サイトから引用
当時問題化した第4次中東戦争の構図、という同時代的なテーマはさておいて、
重要なのはアメリカ本土を舞台に、イスラエルとパレスチナが、戦争を行うことだろう。
本作で描かれる戦いの、そもそもの引き金を引くのは、トラヴィスのそれを更に先鋭化・過激化した思考を持つ、職にあぶれたベトナム帰還兵:マイケルだ。
報われない思いが、募りに募って至った境地が
「不幸を、ばらまきたい。」
彼の欲望に、テロリストが乗じることとなる。
本作には、以後、二十数年間ハリウッドで繰り返される
「アメリカ+イスラエル=正義、アラブ=悪」の能天気で単純な図式はない。
「黒い9月」は外人部隊といった趣:粛々着々とテロルの準備を進める。
方やイスラエルの諜報部員カバコフは、岩のようにゴツく、寡黙で、
戦いに疲れた男の哀愁を漂わせている。
パレスチナとの終わりの見えない戦いに疲れ、
「やつらに話し合いは通じない、異議なく滅ぼすべき」の静かな信念に至り、
国内に潜む容疑者を把握出来ていない、テロ対策に「まだ」うぶだったFBI当局に苛立つ。
アメリカが作り上げたイスラエル分断の構図が生んだ 戦争の犬たちが、
今度は、アメリカを舞台に一進一退の攻防を繰り広げるのだ。
ここ至って、ベトナム帰還兵は、ただの操り人形、ただの捨て駒に過ぎない。
「実際の戦争はもっと悲惨だ」「お前たちの感じてる痛みなど、甘えだ」
「俺たちは、常在戦場で戦い続けているんだ」
そう言わんばかりに、「世界の警察」アメリカに暴力の執念を叩きつける。
そしてクライマックスが、後に「9.11みたい」と不謹慎に語られる こととなる
Good Yearのロゴが堂々と描かれた飛行船による、スーパーボウル襲撃だ。
試合中ノンキに飛行していた宙船が、突如、牙を剥く。
テレビでこなれた、機動性のある中継カメラワークで、実際の試合日に紛れ込んで撮影した甲斐があった:空からの脅威が、上空からのカメラ目線と一致。
空からの大落下物に怯懦し逃げ惑う群衆のパニックと
船内でのテロリストと諜報部員の決闘が、見事に組み合わさっている。
いま見ると大時代的でヘンテコな部分も多い。
それでも妙に印象に残るのは、このクライマックスによるもの。
有り体にいえば、ものすごく「ヘルシング」の「あしか作戦」だ。
※本記事の画像にはWikiCommonsより、ヒンデンブルグ号爆発写真を用いた。
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