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映画「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」_おれがやめたら、だれがやるのだ。

焼け跡からしぶとく立ち上がり、逞しく生きていく人間たちの美しさ、醜さ。
レジスタンスのものがたりは、イタリアにも存在する。

第二次世界大戦が終わった時、イタリア映画にはネオ・リアリズモが起こった。 資金も撮影機材もままならぬ状況にもかかわらず、監督たちはメガホンを取った。 最小限のスタッフと機材、出演は素人、撮影はロケのみ。 そんな逆境が、次々と傑作を生み出した。 そこには、社会に潜む悪を告発する、戦争という理不尽の極みを生き延びた人々の”真実の叫び”があった。

この時代を代表する監督にロベルト・ロッセリーニ、ヴィットリオ・デ・シーカらがいる。各々の代表作をひとつずつ、過去には紹介しています!(宣伝)


焼け跡から復興した後も、イタリア映画からこの種の「真実の叫び」を尊ぶ気風は失われなかった。
そして70年代、経済不況と政治の不安定、テロの頻発などで、社会的不安が日常化する中、イタリア映画界はテレビに押され衰退の色を深めていく。それでも、世間でタブーとされている事柄、特に下半身に関する事柄を取り上げた”告発もの”、台頭するギャング内部の戦いや警察とギャングの戦いを描いた”刑事もの”が連打され、観客の支持を集めた。 
困難の時代を乗り越えて、90年代、00年代、そして10年代とイタリア映画は生き残り続ける。 

かくてイタリア映画界久々の直球の「社会派エンタメ」大ヒットとなったのが、本作だ。前置きは長くなったが、この映画は公開当時のキャッチ・コピー通り「胸熱」な傑作だ。

[ あらすじ ]
舞台は、テロの脅威に晒される現代のローマ郊外。裏街道を歩く孤独なチンピラ エンツォはふとしたきっかけで超人的なパワーを得てしまう。
始めは私利私欲のためにその力を使っていたエンツォだったが、世話になっていた“オヤジ”を闇取引の最中に殺され、遺された娘アレッシアの面倒を見る羽目になったことから、彼女を守るために正義に目覚めていくことになる。
アレッシアはアニメ「鋼鉄ジーグ」のDVDを片時も離さない熱狂的なファン。
怪力を得たエンツォを、アニメの主人公 司馬宙(シバヒロシ)と同一視して慕う。そんな二人の前に、悪の組織のリーダー ジンガロが立ち塞がる…。
【キャスト】
クラウディオ・サンタマリア
ルカ・マリネッリ
イレニア・パストレッリ
ステファノ・アンブロジ
【スタッフ】
監督・製作・音楽:ガブリエーレ・マイネッティ

ポニーキャニオン  公式サイトから引用

「ヒーローにされてしまった男」エンツォ、
「ヒーローに憧れる女」アレッシア、
「ヒーローになりたかった男」ジンガロ、
三者三様、 誰もが弱さと強さとを、あわせ持っている。 

たしかに、エンツォは超人的な腕力をモノにする。だが無敵ではない。刃物はあっさり刺さるし、銃撃にも弱い。なにより、上半身ほど下半身がビルドアップされていないためか、到底颯爽たるとは言えない、残念なおっさん体型をしている。(どすどす走る。) 
根本的な問題として、ヒーローたるべき正義感すら最初は持ち合わせていない。なにせ超人的な力を得て、最初に彼が実行に移したのが「ATM強盗」なのだ。 
このような「ヒーローの地平にすら立っていない男が、どうヒーローになっていくのか。」それが本作のドラマの主軸となる。 

アレッシアは二次元の世界に恋し、実世界の他者に対して心を閉ざし、「お気に入りのアニメが見れないと泣く」子供の様に痛々しい駄々っ子。
そんなアレッシアも、エンツォだけには心を開く。観覧車やショッピングモールへエンツォを引っ張っていく姿は、はつらつな恋人のようであり、「エンツォを導く」母親のようでもある。

ショッピングモールでのデートで、ジャパニメーションのアンテナショップに足を運ぶシーンがある。「なんだこれ?」と不思議そうにフィギュアを手で弄ぶ野獣・エンツォの姿が、じつに微笑ましい。

「他者に興味のなかった」エンツォもまた、アレッシアを知ることで、自分のこと以外=社会には媚びる不幸に目を向けるようになる。 アレッシアが蒔いた種は、その死の後も、エンツォの中で受け継がれる。

ジンガロは、いつかビッグになって、自分が注目されることを求めてやまない。 が、ある事件をきっかけにひたすら転落の一途を辿る。心も体もボロボロになっていき、最後には火炎放射で自慢の髪ごと焼かれる姿が、痛々しい。
エンツォ同様に偶然から超人的な力を得て、彼が実行に移したのが、「サッカースタジアムへの爆弾テロ」。「自分が注目されるための」打ち上げ花火だ。

かくて最後にエンツォとジンガロは対峙する。
決着は、サッカースタジアムに投げ込まれた爆弾を巡る、地に足ついた「ネオ・リアリズム」さながら力強い足踏みの、追っかけっこだ。
ただ走る、走る、喘ぐ、息が切れる、それでも走る。 二人が追うー追われる姿に、私たちは70年前と変わらない、「真実の叫び」を見出すのだ。


本作が「鋼鉄ジーグ」に如何にインスパイアされた作品かは、原作者:永井豪の言葉を借りた方が早いだろう。

犯罪と汚濁まみれのローマの下町で、アニメヒーロー『鋼鉄ジーグ』に憧れる女性の為、正義の戦いに立ち上がる“男の純情”が美しい!! 『ガンバレ、君は鋼鉄ジーグだ!

公式サイトより引用

和製ヒーローをここまで換骨奪胎して昇華させた作品は、後にも先にも早々出てこないであろう(でもフィリピンの実写「ボルテスV」は期待大。)
日本からイタリアに風に乗って運ばれた種が、見事に花を結んだ事実を、わたしたちは幸福に思わなくてはならない。「胸熱 」だ。


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ドント・ウォーリー
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