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倍返しだ!市川雷蔵の時代劇「大殺陣 雄呂血」。

皆様は、周防正行監督 最新作の「カツベン!」をご覧になっただろうか?

本作に対する私の感想は、また別の機会にするとして…。
この映画の「後日談」に、広げた風呂敷が収束する脚本の巧みさには、さすが周防監督と感嘆しきり。(ホンに酔っているキライもあるけれど。)
ニッポンの無声映画最高傑作と称される
阪東妻三郎主演の時代劇「雄呂血」につながるよう、計算されている。

この映画が当時どれだけ画期的だったかは、
主人公の運命のあまりの変転について行けない観客向けに、
弁士が「夢オチバージョン」を語ったという逸話

が残っていることからも、うかがえるだろう。

とはいえ、無声映画の本作を観るのは、それなりにハードルが高い。
家でごろ寝しながらの試聴が出来るのが、そのリメイクである本作「大殺陣 雄呂血」だろう。オリジナルのエッセンスはそのままに、一匹の無頼漢の運命の悲しくも激しい変転が、モノクロームの画面の中に息をすましている。

※あらすじ・キャスト・スタッフはこちら!

無声映画時代にファンの血を湧かせた剣戟映画を新しい形で大型スクリーンに再現!木曽の谷で拓馬と波江は運命的な出会いをする。かつての恋人同士の変わり果てた再会だった。やくざの用心棒に成り果てた拓馬は、「自分は死んだ」と言い捨て、追っ手の下に身を投じる。
【スタッフ】
監督: 田中徳三、脚本: 星川清司/中村努、撮影: 牧浦地志、美術: 西岡善信、
照明: 中岡源権、録音: 林土太郎、音楽: 伊福部昭、企画: 奥田久司、
原案: 寿々喜多呂九平
【キャスト】
拓馬:市川雷蔵、波江:八千草薫、志乃:藤村志保、真壁十郎太:中谷一郎、 樫山伝七郎:五味龍太郎、樫山又五郎:内藤武敏、舟次郎:藤岡琢也、
井坂弥一郎:内田朝雄、真壁半太夫:加藤嘉、大熊:伊達三郎、
高倉勘解由:荒木忍、仏の五郎蔵:吉田義夫、手代平吉:木村玄、
片桐万之助:平泉征(平泉成) 
角川映画 公式サイトより

叛逆の物語。

将来藩政を担うはずだった、期待の若いサムライ:拓馬が、ある事件をきっかけに一路転落、様々な誤解が積み重なった末に、周囲から冷たい目で見られ裏切られ、最後は主家より放たれた大勢の捕方に囲まれ、そこで抑えた怒りを爆発させて、一大剣戟の結末となる。

いつ、どの時代でも起こる、いわれのない誹りに醜聞、それが引き起こす理不尽。倍返しは、今は言葉で、切捨御免の時代では刀を以って行う。

下克上とは言いすぎでも、理不尽に対し反逆する姿は、いつ、どの時代でも美しく烈しい。それは、無声映画でもトーキーでも、同じ。

最後に残った道しるべ。

いま飽食の時代、反逆にカタルシスをもたらすことのできる役者は多いが、
反逆を引き起こすカルマ、全身から青白い虚無を、社会から締め出された怨念をにじみださせることの出来る役者は、なかなかいない。
それは、逃げられない貧困の時代の産物だからだ。
目の前の困難から自由に逃げることのできる時代には、そぐわないからだ。

本作の主人を演じた市川雷蔵には、複雑な出自を持つ故か、それが出来た。
孤独であり、非力であり、かつ、高貴であり、崇高である、
「雄呂血」を成り立たせるために必要なすべてを持ち合わせている。

だからか、最後の殺陣は烈しい。
「けしてワイルドではない」弱さを抱えた人間が叛逆する。
一対多の景色に対し、声高に叫ぶわけではない、ただ見得を切る。
そこにしか、生き残る道はないからだ。

殺陣はアクロバティックな訳でも、血みどろな訳でもない。淡々と、さりとて斬られた痛みに顔をしかめつつ、目の前の相手を斬り飛ばしていく。その必死な姿は、まるで一面雪原のなかに咲いた赤い薔薇の棘のように、心に突き刺さる。

カルマや怨念を刀身に込めることができる役者が演じるから
ラストの文字通り「大殺陣」は、鮮烈なのだ。

※本記事の画像は角川映画公式サイトから引用しました

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ドント・ウォーリー
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