「プラネット・テラー」と「デス・プルーフ」のグラインドハウス、しっちゃかめっちゃか二本立て。
「プラネット・テラー」と「デス・プルーフ」。
このふたつはタランティーノ監督とロドリゲス監督のふたりが好む1970年代から80年代のB級映画のオマージュとして製作された作品で、フィルムの傷や、リールのダブりや飛びによる画像ノイズや音割れを、時代考証を徹底し忠実に再現したものとなっている。
その味付けでロドリゲス監督はゾンビものである「プラネット・テラー」、
タランティーノ監督はスリラーものである「デス・プルーフ」を製作した。
そしてこの二本は「グラインドハウス」=アメリカで低予算のB級映画を2、3本立てで上映する映画館よろしく、全米公開当時は二本立てで構成された。(御丁寧に「ありもしない」映画の予告編も挟んで)
暴力・エロ・お笑い、三拍子揃った二本立てである。
彼らがオマージュした時代、それを同時期のニッポンの邦画興行に例えれば
「徳川女刑罰史」(エログロ)と「不良番長」(愚連隊)
「仁義なき戦い」(ヤクザ)と「女番長」(キャットファイト)
「ドカベン」(漫画の実写化)と「恐竜・怪鳥の伝説」(特撮)
のようなものである。
だから、あらすじは単純、なおかつエロ・笑い・バイオレンスてんこ盛りの
アナーキーな面白さがある訳だ。
プラネット・テラー。血みどろの快楽。
話はめちゃくちゃ単純だ。
テキサスの田舎町にゾンビが大繁殖する。そこから逃避行を図る。以上。
だがそこは、血みどろ大好き「マチェーテ」のロバート・ロドリゲス監督だ。
この人、実に楽しそうに臓物やはらわたが飛び散ったり、ゾンビが人間を食ったり、人間がゾンビになったりするシーンを描く。そして、人間たちも実に楽しそうに、ゾンビどもを葬る。
ケロイド、血みどろ、爆散、轢殺、と強烈な演出を用いて押して押す。(もちろん濡れ場も交えた)過剰なサービス精神で、最後まで飽きさせない。
出自・役割問わず、いろんな登場人物が出てくる(そしてそのうち半数近くが頭オカシイ)のだが、いちばん重要なのは、ゴーゴーダンサーのチェリー・ダーリン(ローズ・マッゴーワン)だろう。
このヒト、商売道具である右足をゾンビに喰われてしまう。
担ぎ込まれた病院で、チェリーが絶望しめそめそ愚痴る中、彼女を救いに駆けつけた元恋人の解体屋レイ(フレディ・ロドリゲス)がテーブルの脚を遣す。
「それを脚にしろ」と。
そこから、彼女の大活躍が始まる。最初は歩くことすら覚束なかった彼女が、その義足を使って戦うことを覚える。義足に仕込まれる武装は刃物、機関銃、ガトリングガンと、順当に進化していく。最初はレイに守られていた彼女も、いつしか勇敢に先陣切ってゾンビを皆殺しする。(その勇姿を見届けつつ、レイは彼女に抱かれながら、逝く)女傑へと生まれ変わる。
基本、男ばかりのゾンビたち。最初は彼らから怯えて逃げ回っていた女たちが、終盤には、奴らを捕まえてはちょん切ってまわる、心に一物生やしたたくましさを身につける。
身もふたもない言い方すれば、そういうハナシだ。
デス・プルーフ。「やられたらやり返せ」の快楽。
話はめちゃくちゃ単純だ。
スタントマン ・マイクと自称し (実際にスタントマンであったのかどうかはわからない ) 、車を耐死仕様 (デス ・プル ーフ )に改造した男・マイク(演:カート・ラッセル)が 、若い女たちを標的にして 、ただ車と自分の運転技術だけで彼女たちをめちゃくちゃにしようとする(文字通り手脚がばらばらに吹き飛ぶ )。
それが、1回目は成功し、2回目は失敗する、というだけの話だ。
1回目の犠牲者となるのは、夜のバーに集う女の子たち。
タランティーノな本筋とは関係のないだらだらした会話が飽きるくらい延々と続けられ見ているこちらの気持ちが弛緩した後で、ショッキングな殺戮が行われる。自分はスタントマンだ、家まで送るよ、との口実で女の子を車に乗せた途端、マイクが正体を表すのだ。
「女の子ならなんでもいいからバラバラにしたい」というヤバさをじゅうぶんに感じさせた後に、2回目に突入する。
こんな男をどう退治すれば良いのだ? と思う間もなく、今度は失敗する。
彼は、命知らずの本職のスタントマン女三人組を相手してしまったのだ。
「ヘイトフル・エイト」のデイジーといい、「ジャンゴ」のキャンディといい、
攻めるときは目茶目茶強く、守りに入るとめちゃめちゃ弱いのが、タランティーノ映画の悪役だ。彼も例外ではない。
最後は車から引きずり出されて、スタントマン女子にアッパーカットほか殴打の雨あられを食らう。当然、車をおろされ去勢された男にはなすすべもなく、そのままKOされ、スタントマン女子たちはハイタッチしてEND。
古来より車というのは、男のステータスだった。
車というのを男のシンボルのメタファーとすれば、1回目はヤリ捨てる。
そして2回目は逆にヤられる。
身もふたもない言い方すれば、そういうハナシだ。
※画像は現在タランティーノが所有する古き良き映画館、かつてのグラインドハウスたる「ニュービバリーシネマ」公式サイトから引用しました。折角なので。