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“書を捨てよ、街に出よう”_ “Higher Learning (1995)”
学園モノかと思ったら、あれよあれよと、思いがけない方向に話が転がる。
「ボーイズ・オン・ザ・フッド」「ワイルド・スピードX2」のジョン・シングルトンが監督、自ら脚本も記した映画「ハイヤー・ラーニング」(日本語の意味:高等教育)。
架空の大学(アメリカ大陸到着400周年の1892年に創設されたコロンブス大学)が舞台。そこには、様々な人種、民族で構成された学生男女たちが登場する。
黒人、白人、アジア人、先住民インディアン、ヒスパニック、ユダヤ人。キャンパスや寮では人種や民族によって自然にグループができる。まるで人種を色で塗り分けるかのように。
「学校は社会の縮図」という言葉があるが、その通り。「多文化社会アメリカ」をキャンパスに描いている。
「学校は社会の縮図」なのは人種だけじゃない。人間関係もしかり。
友だちがたくさんできる奴もいる。ぼっちになる奴もいる。友だちを通して、今まで自分が未知の世界を覗き見る奴もいるし、ぼっちをこじらせて過激な思想に取り憑かれる奴もいる。
人種間に隔たれたドラマを縦の糸に、人種の壁を超えるドラマを横の糸に、色とりどりの人間模様を、たった2時間の中に凝縮させている。
群像劇の中、主人公と言えるのは三人。
ヒロインの白人学生:クリスティ(クリスティ・スワンソン)、
陸上選手として奨学金を得て入学した黒人学生のメリック(オマー・エップス)、
エンジニア志望の白人青年:レミー(マイケル・ラパポート)だ。
彼ら三人それぞれの学生生活を中心に、物語は展開される。
いっけん華やかな学園モノ…の終盤の展開に影を落とすのが、レミーの末路。
彼は、ぼっちをこじらせた挙句、ネオナチに傾倒してしまう。そして、クリスティが校内で企画した差別撤廃の集会で、ライフルを乱射する騒ぎを起こす。
惨劇のうめきの中、メリックはレミを追いかける、そして立てこもったレミを扉越しに説得する。レミは耳を貸さない。
ネオナチ云々の前に、些細なことで言い争うほど、メリックとレミの仲はこじれていた。だからレミは、容赦なく、メリックに向けて(コンプレックス混じりの、白人が黒人に対し吐き捨てがちな)あらん限りのヘイトをぶつけてくる。
以下、彼の罵声の引用。 ※Davidはユダヤ系の白人、メリックのルームメイト
[Remy is holding his roommate and Malik at gunpoint]
Remy: Fuck all you damn Jews and Niggers! You stick together, don't you! You stick together to work against ME, the Pure White Christian Man! Don't you know he controls you, nigger? You're nothing without him. You're NOTHING! You're NOTHING! You're a SLAVE! I'll fucking take my fucking belt off, man, and I'll make you my fucking MONKEY!
Remy: [to David] Get on the floor.
David Isaacs: Remy, please.
Remy: ON THE FLOOR! You're not white! You're Jewish! You're NOTHING! You're not me. I'm the man! I'm the man!
Remy: [to Malik] Dirty Nigger! What do you have to say now!
[cocks the gun]
Remy: I ain't playin' with you. What do you have to say now! Huh!
David Isaacs: Remy, fucking relax!
Remy: Who's the man now? Huh, Big Man? Mr. Fucking Hot Shot APE! You're NOTHING! Mal-lick! You're NOTHING! You're DEAD! YOU'RE *DEAD*!
[Remy starts packing while still holding the gun]
Remy: Don't move, fucker.
[Remy finishes packing]
Remy: You're gonna die. That's right, you're gonna die. You're ALL gonna die. You're gonna DIE, MONKEY!
レミが「そういう考え方に染まったこと」に悲嘆し、罵りに心がざわめくのを、メリックは耐えて、レミを説得し続ける。
「メリックを怒らせることができなかった…」
それがレミの自尊心を傷つけてしまったのだろうか?
レミは制止にも関わらず、拳銃で自分の頭を撃ち抜き、自殺する。
乱射事件の傷跡も癒えぬ中、キャンパスでは卒業式が行われる。
クリスティにメリック、そしてその他多くの同級生たちは、それぞれの未来に向けて旅立つ。
星条旗がたなびき国歌が演奏されるなか、監督からのメッセージが映し出される、それは
unlearn
un-learn だから
「学ぶことには意味がないのか!?」と一瞬ビビるが、
そうじゃない。
unlearn
他動
〔学んだことを意識的に〕忘れる
〔知識・先入観・習慣などを〕捨て去る
自動
知識を捨て去る
「学んだこと、身に付いていること」を「いったんリセットする」という意味なのだ。
人間はいろいろな状況において、すでに持っている知識や過去の経験から判断し、自分の行動を決める。無意識に行うこともあるし、意識的に行うこともある。
そうした自分の「いつものパターン」をいったんリセットするのが‘unlearn’なのだ。
体に染みついているもの。無意識に行っているもの。
思考のクセだったり、高慢だったり、偏見だったりするものだ。
それは(皮肉にも)「学び」から生まれる:学校の勉強だったり、吹き込まれた憎悪だったり、経験した悲劇だったり。「学び」はいつか澱のように溜まり、考え方を硬直させていく。
だから「むかし学んだことを捨てて」「新たに学び続けなくてはならない」そうしなくては、前に進むことはできない。
学校で学ぶことは終わりではない、学び続けろ。
そう、監督は当たり前のこと(しかし難しいこと)を主張しているのだ。
この言葉を旨に、卒業生たちは旅立つ。
映えある未来を旨に、彼らはどこまでも歩いていく。「人生は学びだ」そう覚悟して。
この言葉は、アメリカに限らず、今どの世界でも起こっている、社会の縮図をしっかり見せつけられた「われわれ」にも突きつけられている。
どこまで、お前は、走れるのか、と。
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