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映画「人生模様」_「賢者の贈り物」だけじゃない、O・ヘンリーの心温まる5つの物語。

12月23日ということで、今回は、クリスマス映画を紹介しよう。
みんな知っているアメリカの作家O・ヘンリーの5つの短編を、オムニバス形式で映画化した、1952年のアメリカ映画だ。

クリスマスにお誂の作品が五本中三本もあるのに、アメリカでの公開は9月。日本での翌年の公開は6月。 だからどうしたと言われれば、それまでですが。

「警官と賛美歌」The Cop and the Anthem

原作者アガサ・クリスティーが唯一絶賛した舞台でのエルキュール・ポワロ役。または「獣人島」のマッドサイエンティストはじめ30年代怪奇映画の主役。
そのキッカイな容貌もあるとはいえ、どちらもハマるほどの幅の広い演技を見せた、イギリスの舞台叩き上げの名優、チャールズ・ロートン
本作で彼は、アリとキリギリスにおける「キリギリス」を、おもしろかなしく、見事に演じてみせる。

舞台は19世紀末ニューヨーク。冬の寒さをしのぐため,刑務所行きをもくろむ浮浪者ソーピー。
ナニ、簡単だ。ショーウィンドウを割ればいい。どこかの高級レストランでただ食いすればいい。怪しいナンパをすればいい。警官がたちまちやってくる、あとは治安判事の判決を待つだけだ。
ところが、どうしてか上手くいかない。レストランのただ食いは店の外に追い出されておしまい。ショーウィンドウを割った犯人と信じてもらえない。ナンパした相手が、むしろのってくる始末。 ああ、冬の風が身に沁みる…。

夜風が身にしみる。一夜の宿を得るべく、ソーピーは教会に入ることにする。
彼はオルガンの響に心打たれる。改心が蘇る。
ことばの泉がこぽこぽと湧き出る。 彼はいまの感動を、美しく、語る。

Soapy: It isn't my body that's sick. It's my soul. For the first time in my life I've viewed the horrible pit into which I've tumbled: the degraded days, unworthy desires, dead hopes, wrecked faculties, base motives, that have made up my useless existence!

※ソフィーを慕う仲間から「まあビールでも飲もうぜ」と言われて。

Soapy: It isn't beer that I need. It's hope, faith, the assurance that it's still not too late to pull myself out of the mire - to make a man of myself again, to conquer the evil that's taken possession of me!

IMDB公式サイトから引用

「一からやり直そう!」
渡世から足を洗おうと決心し、教会を出る。

とたん、浮浪罪として警官に捕まり、3ヶ月の禁固を言い渡される。

厚いコートに身を包んだ面妖なおじさんが、からまわりを繰り返す。そして、真面目なアリになろうと改心した矢先に捕まる、皮肉というべきか悲劇というべきか。かっちりまとまった一遍だ。
なお、ナンパしようとソーピーが声をかけるのが、まだ駆け出しのマリリン。ほんとにキュートだ、みてのお楽しみに。

監督: ヘンリー・コスター
脚本: ラマー・トロッティ
出演: チャールズ・ロートン、マリリン・モンロー、デヴィッド・ウェイン


「最後の一葉」The Last Leaf


あらすじは皆さんご存知だろう。

みんな知っている話だからこそ、映画的な感動は薄いかもしれないが、足し算も引き算もしない手堅い演出が、物語の芯の強さを見事に支えている。

「イヴの総て」で肝っ玉女優を演じたアン・バクスターが、肺炎で伏せているジョンジーの母親役。苦悩しつつも、自分の娘の前ではそれを見せずに振る舞う姿が、じつに健気だ。

監督: ジーン・ネグレスコ
脚本: アイヴァン・ゴッフ、ベン・ロバーツ
出演: アン・バクスター、ジーン・ピーターズ、グレゴリー・ラトフ


「賢者の贈り物」The Gift of the Magi

これもみなさまあらすじはご存知だろうから、くどくど書かない。
夫役も妻役も日本ではメジャーな俳優ではないが、それでも映像化された…という事実だけで、じゅうぶんに多幸感がある。

監督: ヘンリー・キング
脚本: ウォルター・バロック、フィリップ・ダン
出演: ジーン・クレイン、ファーリー・グレンジャー


なお、収録されている残りの二作品は、クリスマスらしくない不真面目で喜劇的な作品。原作の知名度も低い。
だが、見ないでおくのは、もったいない! あらすじを紹介しておこう。
(そしてここからが長いのである。)


「クラリオン・コール新聞」The Clarion Call

刑事のバーニイは、迷宮入りになった殺人事件の犯人を幼馴染のジョニイだと睨んだ。
十数年ぶりで再会を、まずは形だけでも祝う二人。バーニイはジョニイに証拠をつきつけて迫る、途端にジョニイは本性を表す。その昔1000ドル貸したことを持ち出すのだ。
ジョニイを演じたリチャード・ウィドマークは、悪役からデビューした男、『死の接吻』でケタケタと笑いながら車椅子の老婆を階段から突き落とすワルを演じて衝撃のデビューを果たした、蛇の目つきをした悪人面。
こんな野郎にマウント取られたら、そりゃ、憎たらしくてしょうがない。観ている方も気が気でしょうがない。

いったんは引き下がったバーニイ。一方的に勝利宣言をするジョニイ。
次にバーニィが会ったときは、ジョニイは「今夜街をたつんだ」と最後の晩餐にニコニコ、勤しんでいる。バーニィにマウントを取るのをネタに、美酒に酔いしれる男、ああ何と憎たらしいことか。

もちろん、ジョニイの無実は、バーニイが口を塞いでいるだけことに担保されている。だから、バーニイが1000ドル工面出来、それをジョニイに返せたら…
プギャー。
ジョニイの敗北、彼の表情をお楽しみに。

監督のヘンリー・ハサウェイは、ゲーリー・クーパーやジョン・ウェイン主演の西部劇、フィルム・ノワールの数々で名を馳せた。だから、男ばかりの世界を描かせたら大したもの。本作も、男二人の閉じたドラマ:情けないマウントの取り合いを喜劇的に見事に描いている。
原作の知名度は皆無だが、見て損はない一遍だ。

監督: ヘンリー・ハサウェイ
脚本: リチャード・L・ブリーン
出演: デイル・ロバートソン(英語版)、リチャード・ウィドマーク

「赤い酋長の身代金」The Ransom of Red Chief

サム(フレッド・アレン)と相棒のビル(オスカー・レヴァント)は、金持ちの子供を誘拐して身代金を稼ごうとアラバマの村へやって来た。2人はうまく少年を誘拐することに成功し、身代金請求の手紙を少年の両親のポストに投函する。
ところが、この少年、インディアンの酋長気どりのクソガキで、2人は金への期待はおろか、世話に手をさんざ焼かされる羽目となる。
そうこうするうちに、両親からの返事が来る、読んだ二人が下す決断とは…。

クソガキにマウント取られる、いい歳こいた大人二人の悲哀。
台詞の十字砲火、スピード感。ハワード・ホークスらしいスクリューボールな掛け合いが楽しい黒いユーモアの佳作だ。

監督: ハワード・ホークス
脚本: チャールズ・レデラー、ベン・ヘクト、ナナリー・ジョンソン
出演: フレッド・アレン、オスカー・レヴァント、リー・アーカー


本作は、O・ヘンリーの人となり、原作が生みだされた背景を、かの文豪ジョン・スタインベックがカメラの前に姿を表して、実直に語り、しおりのひとつひとつを引用する形で、構成されている。
以上、五つの作品を総括するスタインベックの言葉を引いて、本記事を締め括ることにしよう。

Our folklore is full of O. Henry. His courage and his gaiety and his people.

I've always believed that a writer should be read, not seen. But, O. Henry's dead. He can't speak for himself. I wonder if he would if he could?


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