カーツ大佐と同じ寂しき王。孤高の王。コッポラ監督「ドラキュラ」。

今回は、1993年（第65回）衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、 音響効果編集賞を受賞したフランシス・フォード・コッポラ の「ドラキュラ」を紹介。
日本人として初めてグラミー賞を受賞したこともあるデザイナー　石岡瑛子（1938−2012）が衣装デザイン賞を獲得している。

※あらすじ・キャスト・スタッフはこちら！

４００年の時を彷徨い、永遠の愛を求め続ける哀しき男。最愛の女性を失い、神への復讐を誓ったドラキュラ伯爵と、自殺した伯爵夫人と生き写しのミナとの出会い。そして、ドラキュラ・ハンター、ヘルシング教授の登場！婚約者ジョナサンがいるにもかかわらず、愛し合ってしまったミナと伯爵の愛の行方は・・・？【スタッフ】
監督・製作：フランシス・フォード・コッポラ
製作総指揮：マイケル・アプテッド
製作総指揮：ロバート・オコナー
脚本：ジェームズ・Ｖ・ハート
音楽：ボイチェフ・キラール
衣裳：石岡瑛子
【キャスト】
ドラキュラ伯爵：ゲイリー・オールドマン（津嘉山正種）
ミナ：ウィノナ・ライダー（日野由利加）
ジョナサン：キアヌ・リーブス（平田広明）
ヘルシング教授：アンソニー・ホプキンズ（坂口芳貞）

ソニー・ピクチャーズ公式サイトより引用

ゲイリー・オールドマン＝ドラキュラ伯爵の孤高さ。

何といっても、ゲイリー・オールドマン演じるドラキュラ伯爵の「単純に悪と割り切れない」複雑な陰影を持つキャラクターに尽きるだろう。

コッポラ 作品で云う「ゴッドファーザー」コルレオーネ家のドンのように、彼は血族の頂点にある：魔術と不老不死によって、神の如き絶対的な力を行使する。
かつては聖軍を率いて神のために尽くして闘った英雄が、墜ちて悪魔的な闇に囚われている：「地獄の黙示録」ジャングルの王様　カーツ大佐の再来だ。

とはいえ彼は、悪魔的で暴虐で残忍冷酷な絶対的な権力者であるだけではない。
彼が闇に堕ちてしまったのは、最愛の妻を亡くしてしまった絶望によるもの。
だから、愛していた妻の生まれ変わりであるエリザベ ータ を知った途端、彼女に執着する。彼女に自らの血を分け与え、永遠の命を共にしようと企む。
エリザベータを惑わす、「私の血を吸うのだぞ」と肌をまさぐる手つきが、その爛れた容貌に似つかわしくなく、妖しい。
汚らわしいエクソシストの一団が入ってきた途端、情事を中止し、醜悪な悪魔の姿を露わにしてしまう、その顔に怒りと無念が浮かび上がる姿が、悲しい。

悪魔的な闇そのものになったのではない、
悪魔的な闇に囚われ力を得ただけの、愛を乞う一介の人間。
ここに伯爵の最大の魅力がある。

コッポラは、ベタなドラキュラにありがちな「夜会服をまとい青白い肌をした人を騙す妖しい貴族」というイメージを一切排し、「美女と野獣」に出てくるような「巨城に一人住む強大な力を持った寂しき王侯」としてのドラキュラを製作にあたって求めた、という。
コッポラの難しい要求に石岡は見事に応えた。
それが、ゲイリー・オールドマンの役作りに見事に活かされた。
当時まだ34歳の彼の佇まい、存在感をを見るだけでも、充分お釣りが来る。

全編こだわりぬく映像の見事さ。

もちろん、コッポラ の映像への拘りのおかげで、ドラキュラ伯爵の魅力が倍増しているのは、言うまでもない。

カラーリングにはある種の抑制が効いている：
19世紀末のゴシックカラーを再現する試みによって。
最初から最後まで、本編のベースとなるカラーは漆黒と臙脂色。
漆黒は夜、臙脂色は伯爵の高貴なマントを、または血染めを暗示する。
幻想的な美が充溢する。

映像へのこだわりは、静的シーンだけではない、クライマックスのアクションでも強く見られる。
エリザベートを守って逃げるヘルシング教授・ジョナサンらが乗り込む馬車を、ドラキュラ伯爵が追いかける。要は西部劇と同じシチュエーションなのだが、それが、次第に夜闇から朝焼けに包まれていく雪の峠道で行われていくのが、素晴らしい。ドラキュラとヘルシングの一進一退の静かなる血闘が、粛々と雪が降り積もる中で行われる。明けばむ空の下で行われる、厳かな戦いだ。
それは、永遠の妻を得ることで悪魔的な闇から逃れようとする伯爵と、
それを押しとどめ闇とともに伯爵を封じようとする博士の、
相容れない戦いである。
太陽と一緒に戦う人間＝文明とともに、永遠の夜に生きた伯爵が滅ぼされる、
哀しい一瞬でもある。

※本記事のサムネはソニーピクチャーズ 公式サイト（米版）から引用

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ドラキュラ (字幕版)