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相米慎二監督「お引越し」「台風クラブ」ほか一本。 子供も大人も純粋でエネルギッシュ。

「ワンシーン・ワンカットの長回し」が代名詞。
喜びや痛みを発散させながら躍動する肉体を、ありのまますくい取る
だから、どの映画にもガツガツとしたパワーがある。妙なバイタリティがある。

そんな相米慎二作品といえば、「セーラー服と機関銃」ばかり語られる気がする、しかし、それだけで語るのは、もったいない!

妙に気が沈んでしまう今時分、観れば元気付けられる、相米慎二の傑作を今回は三本、紹介したいと思う。

マグロに取り憑かれる父の魂、「魚影の群れ」。

舞台は本州最北端、下北半島の漁港・大間。
「マグロと人間の区別がつかない」と元妻にドヤされるほど、マグロ釣りに取り憑かれた漁師:房次郎(演:緒形拳)、日傘がよく似合う彼の愛娘:トキ子(演:夏目雅子)、彼女の恋人で都会から移住し、房次郎が認めるようなマグロ猟師にならんとする青年:俊一(演:佐藤浩一)、
以上3人をめぐる、ごつごつとしたドラマだ。
互いに、自分の言いたいことを伝え合い、自分の気持ちをぶつけ合う。

マグロの一本釣りに命をかける漁師・小浜房次郎は、娘トキ子が結婚したいという青年・依田俊一から漁師になりたいと告げられ、腹立たしい想いに囚われながらも、やがて観念して彼を船に乗せて漁に出る。しかし船酔いや不漁の日々など慣れない海に悪戦苦闘する俊一。ある日、ようやくマグロの魚群にぶつかった房次郎は、アクシデントで頭に釣り糸が巻きついて瀕死の重傷を負った俊一をほったらかしにしたまま漁に没頭してしまい……。
スタッフ
監督:相米慎二
原作:吉村昭
脚本:田中陽造
撮影:長沼六男
音楽:三枝成彰
キャスト
緒形拳/夏目雅子/佐藤浩市/木之元亮/レオナルド熊/石倉三郎/下川辰平/三遊亭圓楽(五代目)/十朱幸代
松竹DVD倶楽部 から引用

遠慮せずに意見をぶつけ合うから、それぞれの間に、溝のようなものができる。

(最近の作品だと「余裕」を見せようとしている佐藤浩一が、ここではガツガツしてるのが印象的だ。)

結論から言うと、この佐藤浩一もまた、マグロに魂を引っ張られていく。
そして、激闘の挙句、最後は死ぬこととなる。


パンツがあるから、恥ずかしくない? 「台風クラブ」。


簡単に言えば、台風で帰るに帰れられなくなった思春期の中学生達が、感情の丈を互いにぶつけ合う物語だ。それはちょうど「おおかみこどもの雨と雪」で雪が同級生に秘密を明かす一幕と似ている。

台風の襲来に何かを期待していた少年少女が、むしろ台風によって校舎に閉じ込められてしまう。 じっとしていられない、うずうずする。
サマセット・モームが書いた通り、「雨」は、人間の心を昂らせるものらしい。
終盤の展開は、見出しの通りだ。これで、校舎の中を、電車つなぎになって、踊る。雨のグランドで全員裸で「もしも明日が…。」を歌いながら踊りだす。
いまでは、限りなくアウトな描写だ。(配信が少ないのも、これが一因だろう)

そして、乱舞の果て、晴れた朝、一人が窓からぴょんと飛び降りる。
非日常な空間、そこは運動会や学芸会よりも楽しく、卒業式よりも残酷な別れの場所になってしまった。
一度見たら、絶対忘れられないインパクトを残すのは、間違いない。

夏、京都、不思議な出会い。 「お引越し」。

相米慎二の初体験が、本作だった。(早稲田松竹で「台風クラブ」と二本立て)
ものすごくみずみずしく、うるおい、救われる気持ちがした。

京都の小学六年生、漆場レンコは、ある日両親が離婚を前提しての別居に入り父ケンイチが家を出たため、母ナズナとともに二人暮らしとなった。最初のうちこそ離婚が実感のなかったレンコだったが、母と父との間に挟まれ心がざわついてくる。家でも学校でも行き場のなさを感じたレンコは、昨年も行った琵琶湖畔への家族旅行を復活させればまた平和な日々が帰ってくるかも知れないと、自分で勝手に電車の切符もホテルも予約してしまう……。
CAST
中井貴一 桜田淳子 田畑智子(新人) 須藤真里子 田中太郎 青木秋美(遠野なぎこ) 笑福亭鶴瓶
STAFF
製作:伊地智啓/安田匡裕 プロデューサー:椋樹弘尚/藤門浩之
監督:相米慎二 脚本:奥寺佐渡子/小此木聡
撮影監督:栗田豊道 音楽:三枝成彰 
原作:ひこ・田中「お引越し」(福武書店刊)
オデッサエンタテインメント 公式サイトから引用

出版元を見て、お分かり頂けるように、少年少女向けに書かれたお話が、原作になっている。
小学六年生の漆場レンコは、ある日両親が離婚を前提しての別居に入り父ケンイチが家を出たため、母ナズナとともに二人暮らしとなった。
最初のうちこそ離婚が実感としてピンとこなかったレンコだったが、新生活を始めようと契約書を作るナズナや、ケンイチとの間に挟まれ心がざわついてくる。
変に気取った、妙にたくましい少女:レンコの活躍が描かれる。
(キャッチコピー「生んでくれてありがとうで、ばかやろう。」の云う通り!)

レンコはずんずん歩く、ぐんぐん走る、京都の街を、琵琶湖の淵を、駆け抜けていく、たくましく。
どうしても退がる必要がある時は、ムーン・ウォークだ。
要は「家なき子」の話なのだが、彼女は親をヘンに突き放したりすることはない。お父さんお母さんを「ダメだなあ」と内心思いながら、たくましく生きていく子どもの強さ、優しさ、たくましさが、まぶしい。


没後20年。早過ぎる死。だから思うのだ、
「令和を生きていたら、何を題材に映画を撮っただろうか」と。

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ドント・ウォーリー
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