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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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2023年10月の記事一覧

寺山修司×菅原文太×清水健太郎「ボクサー」。

寺山修司が自分自身の世界観を東映カラーに染め上げた「唯一の商業映画」菅原文太・清水健太郎主演、1977年10月公開映画「ボクサー」より。 この1年後、谷村新司率・矢沢透らフォーク・グループのアリスは、ミドル級チャンピオン:カシアス内藤をモデルに「チャンピオン」をリリース、大ヒットを記録している。「ボクサー」が作られた時代は、本曲と同じように、勝者よりも敗者を謳うことが遥かに意味を持っていた時代を象徴している。 それは冒頭のクレジットロール中、後楽園ホールのリングに続く廊下を延

まっすぐに空を仰ごう。日活映画「上を向いて歩こう」

日本人として唯一、「キャッシュボックス」と「ビルボード」で第一位となり、全米レコード協会からゴールド・ディスクを贈られた、坂本九(一九四一~一九八五年)の大ヒット曲「上を向いて歩こう」は、様々な歌手にその後も歌い継がれている: これを映画化した1962年の日活映画「上を向いて歩こう」より。 併映は裕次郎の「銀座の恋の物語」…って豪華な二本立てだな! 夜に紛れて刑務所を脱走する若者ふたりの姿から映画は始まる。河西九(演:坂本九)は運送店に住み込み、社長の娘:紀子(演:吉永小

エロそうですがエロに期待しないように。武智鉄二「源氏物語」

と、女性解放運動の先駆者として知られる作家、平塚らいてうが『青鞜』発刊の辞で述べたように、奈良時代までは女性天皇がいたが、平安時代以降には女性の地位は低下し、女性天皇も姿を消す。 他方、日本文学の分野では、紫式部、清少納言などの女流作家が誕生。 中でも、紫式部の『源氏物語』は世界初の長編小説であり、ヨーロッパに先駆けて人間の内面を描写し、自由恋愛を描き、「女性にも自由な意思で生きる権利がある」ことを言語化した、革命的な文学作品。 というのは、文学や歴史、ジェンダーの分野にお

100周年だからこそ、もう少し工夫がほしかった。『R.U.R.』(2021年、渡邊豊監督)

で、その映像化を観たのさ。配信されている作品はダイジェスト版のようだが、それでも全三幕の内容をおおよそ押さえている。 「RURを映画化した」というよりは 「RURの舞台撮りを映画作品として公開した」という印象。 原作のあらすじをそのままなぞり、台詞は原作から一字一句変えることなく、悲劇的な結末へと向かっていく。 『R.U.R.』が1920年に問いかけた人間と技術、倫理と科学の対立を探求する哲学的なテーマ、人工知能や自律的な機械が社会に与える影響をそのまま伝える、逆に言えば

さァ、サービス、サービス!「牛乳屋フランキー」(中平康監督、1956年作品)

「サービス、サービス」とは、葛城ミサトさんがエヴァンゲリオンTV版次回予告で最後に言うフレーズ。これは 「エヴァは通常のTVアニメに 比べるとサービス過剰な作品」と庵野監督(およびガイナックスのスタッフ)が発言するほど、名作保証である自信に満ち溢れていた、裏返し。 いまから約70年前の喜劇映画、フランキー堺が主演する「牛乳屋フランキー」は、中平康のいわゆる「映像テクニック」によって仕立てられたスピーディなスラップスティックコメディ。人情喜劇風のストーリーにベタなダジャレから、

デタラメなあらすじにデタラメな親分。「舶来仁義 カポネの舎弟」

60年代後半、健さんや鶴田浩二が主役を張るキマジメな任侠映画を量産していた東映、の添え物映画として濫作された人情、友情、お色気、お笑い、涙、アクションにあふれたB面コメディ・ヤクザ映画。ここの主役は梅宮辰夫、若山富三郎、菅原文太、といったところ。 このうち、若山富三郎の主演作の一つ「舶来仁義 カポネの舎弟」より。 まずは、あらすじをご覧ください。 こんなバカを通り越して貧困な筋書きを、無邪気なお山の大将:若山富三郎が演じるだけで、とたんに愛嬌ある愛しいやくざの物語へと、様