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花に嵐の映画もあるぞ(洋画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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「希望だけでは生きていけないが、希望なしでは生きる意味がない…!」”The Times of Harvey Milk”(1984)

1978年11月27日、SanFranciscoの市庁舎内で、GeorgeMoscone市長(1929年11月24日-1978年11月27日)とcitysupervisor市政委員のHarveyMilkが暗殺された。犯人はMilkと同じ市政委員だったDanWhiteで、数日前に委員を辞任したが、市長に復職を願い出ていた。ミルクの在職は1978年1月9日からのわずか11ヵ月だった。 ゲイで初めて公職についたハーヴィー・ミルクの死後6年で製作・公開されたドキュメンタリー映画「ハ

第16回明治大学シェイクスピアプロジェクト「ローマ英雄伝」の思いで、映画「ジュリアス・シーザー」(マーロン・ブランド版)

2004年に始まった明治大学シェイクスピアプロジェクトは、元々文学部の演劇学専攻の教育プログラムから発したものあだが、その後しだいに全学部から多数の学生が参画するようになり、今では毎年のように100名を超す学生が携わる、毎年異なるシェイクスピアの戯曲の公演を行う、年一回の学生演劇の祭典だ。コロナ禍をものともせず、2024年の第21回公演「お気に召すまま」まで継続している奇跡。 私は2019年11月9日に第16回明治大学シェイクスピアプロジェクト「ローマ英雄伝」(第一部「ジュ

エメリッヒ、原始と文明両方に欲張って思いを馳せる。映画「紀元前一万年」。

90年代から00年代にかけてのパニック映画の巨匠。同類の映画ばかり作り続ける爆破王マイケル・ベイと並ぶヒット・メーカーにしてイベント・ムーヴィー(死後)の製作者:ローランド・エメリッヒが、その絶頂:地球温暖化によって突然もたらされる氷河期の出現を題材にした「デイ・アフター・トゥモロー」を経て、奇作「2012」のスペクタクルにたどり着く過程にあった怪作「紀元前一万年」(原題"10,000 BC")より。 紀元前一万年、雪国のある部族でマンモス狩りに成功したデレーは、まつろわぬ

フェンシング映画「こころに剣士を」。

古くは、北京オリンピックでの太田雄貴選手の銀メダル獲得はじめとする、21世紀入ってからのフェンシングにおける日本勢の躍進。 いまはそうでもないが、20年前といえば日本のフェンシングは「世界基準から遅れている」が通説であった。それは、ヨーロッパの国々が国境を接していることもあり、小学校の大会から国ぐるみの盛んな交流が行われていたがゆえ。 ヨーロッパが東西に分断された20世紀も例外ではなかった。 バルト三国とベラルーシは、欧州連合(EU)とロシアに挟まれる位置にあり、周辺諸国

あっちへこっちへコロコロと…ハロルド・ロイドがラグビーに挑戦!「ロイドの人気者」。

君はスクール・ウォーズを覚えているか…。 昭和40年代、京都府の伏見工業高校は京都一荒れていた。奔放な日々を謳歌するツッパリ(死語)たちの前に現れた山口良治は、自ら監督に就任したラグビー部に彼らツッパリたちをまとめあげ熱血指導で部を全国大会に導いた。その軌跡を描いた「熱血教師たちの記録」。 大映ドラマを見ていると事実とフィクションがゴチャゴチャになりそうだが、かのNHKの有名番組「プロジェクトX」では事実をベースに「ツッパリ生徒と泣き虫先生」にてエピソード化されている。田口

「もう何も手に入らない。」「手遅れよ。」"Touch of Evil"(1958)

1956年型の フォード・フェアレーン(Ford Fairlane)に仕掛けられた爆弾が爆発するまでを、ワンショット・ワンシークエンスで見せつける冒頭の驚くべきクレーン撮影のつかみから始まる、オーソン・ウェルズがハリウッドで撮った最後の映画「黒い罠」(原題:Touch of Evil)より。 天才ウェルズが手掛けたこともあってか、クロバティックな長回し撮影、極端なキャメラ・アングルほかバロック趣味が刻印された異色のフィルム・ノワール、「最後の」フィルム・ノワールという伝説が

「人々は我々を殺人者と呼ぶだろう。」「戦争は殺しだ!それだけだ。」"Micael Collins"(1996)

アイルランドは霧と優しい緑なす丘の国。バイオリンや古謡のひびきにさんざめく丘、イェーツやオファオレンが逍遥して誌を読み、音楽を作った丘のある国。ダブリンは親しみやすい酒場が溢れ、そこでは平和を愛する温和な人々が泥炭の火に頬をほてらしスタウトの酔いを楽しみながらジョイスやオケーシーの作品に浸り切る国。 そんな英国人の呑気なイメージの傍らで、1849年の大飢饉の時草を食べ口を緑色に染めて死んでいった人々や、1916年の独立戦争でイギリス軍のために絞首刑にされたり銃殺されたりした人

ドレイファス「俺は死んだのか?」ヘップバーン「その通り。」_"Always"(1989)

80年代、まだまだスティーブン・スピルバーグは少年だった。自分自身憧れたもの/憧れているもの以外をテーマとする時、筆がまるで進まない。逆に憧れを描く時、彼の演出は「映画を見る際のときめき」にきらきらと輝く。 43年製作の「ジョーと呼ばれた男」(日本未公開)のリメイク版であり、仕事中に死んだ森林火災消火隊員が、なおも恋人を見守り続ける姿を描くファンタジー・ドラマたる「オールウェイズ」は1989年製作作品、スピルバーグの二面性が丁度くっきり出てしまった作品だ。 彼が熱を上げたのは

「ここNASAでは肌の色など関係ない!」_『Hidden Figures』(2016)

作品の中身よりも邦題のせいで日本では味噌がついてしまった感のある、マーゴット・リー・シェタリーのノンフィクション本を原作とした2016年の映画「ドリーム」(原題:『Hidden Figures』)より。NASAで働いていたアフリカ系アメリカ人女性の数学者たちが、アメリカの宇宙開発に大きく貢献した実話を描いている。 あらすじは以下の通り: (ライトスタッフ的に呼べば)「人間を自由世界で最初に宇宙に飛ばす」偉業を支えた裏方たちの、偉大な物語。三人の女性:キャサリン、ドロシー、

大物が中ボス、小物がラスボス。普通逆だろ!?「007カジノロワイヤル」(1967)

たしかに「007ゴールドフィンガー」は名作だが、それが生み出した罪の部分も見え隠れする。すなわち、活躍らしい活躍を主人公が何もしていないなくても、苦悩というものが凡そなくても、美女とイチャイチャし車を走らせて適当に銃を射ち適当に最後の謎を解決しておけば、スパイというのは務まるものだという一般への誤解。「寒い国から帰ったスパイ」やヒッチコック御大の「引き裂かれたカーテン」ほか真っ当なスパイものが大衆人気を得なくなってしまった直接的な原因のひとつだ。 リアリティが無くても、現代を

「私タランティーノ大好き!」「即興だから、ダメ!」バキュン!_"Cecil B. the Cinema Wars"(2000)

“地上でもっとも破廉恥な人間”の座を巡り、考えられる限りの変態行為を繰り返すディバインと、マーブル夫妻の戦い:1972年の「ピンク・フラミンゴ」で一躍名をあげた“悪趣味の帝王”こと、ジョン・ウォーターズが、今度は公開当時のハリウッドに中指おったてた快作「セシル・B・シネマウォーズ」(2000年)より。 ポリティカル・コレクトネス叫ぶ人々はもちろん、それに異議申し立てる人々も、この作品を肯定できるか?観客の良識(笑)や表現の自由(笑笑)を徹底的に揺さぶってくる映画だ。 どんな

「そんなに走ってどうするの?」マイケル・マンが、男のロマンを厳しく見つめた映画「フェラーリ」。

知っているようで知らないフェラーリの歴史=エンツォ・フェラーリの歴史の一断面を、巨匠マイケル・マン監督が描いた、2024年夏の話題作「フェラーリ」。 未見の方、配信待ちの方のために、以下あらすじを追っていこう。 1898年生まれのエンツォは、自動車が加速度的な進歩を遂げている時代に、少年期を過ごした。自動車はエンツォの人生に大きな影響を与え、青年エンツォはアルファ・ロメオのレーシング・ドライバーになる。 「フェラーリ」の導入部、当時記録されたモノクロフィルムの趣向で挿入さ

「世界はお前のものだ!」_"Scarface"(1983)

子どものころ、グランド・セフト・オートシリーズ(通称:GTA)は「(PTAに禁止されているから)触れちゃいけない、でも遊びたくてしょうがない」蠱惑的なゲームの一つだった。 GTAがティーンエイジに膾炙していたころを知らない世代のために、はっきりここで言っておこう。PSPソフト「GTA:LCS」あるいは「GTA:VCS」を買ってもらって(またはプロアクションリプレイを使って)堂々と遊んでいる同級生は、大人も子供も安心して遊べるNintendo DSしか買ってもらえなかった私ほか

「決めた。私は寝るわ。」_"The Post"(2017)

1913年に生を受けたリチャード・ニクソンは、1946年に共和党より下院議員に初当選。1953年よりアイゼンハワー政権で副大統領を務めた、本来であれば40代にして早くも栄光のアメリカを率いる大統領になっていたであろうエリート。しかし、1960年の大統領選挙でジョン・F・ケネディに敗れたのが第一の大きなつまづき。 雌伏8年、1968年の大統領選挙で勝利し、第37代大統領に就任。その功績は、アメリカ国外から見れば、外交面において多岐にわたる。ベトナム戦争からの完全撤退、冷戦下のソ