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車いすからベッドへの旅

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毎日、天井を見つめている。ベッドで横になっていると、ぼくの六畳の部屋半分と、ヘルパーさんが仮眠する隣の四畳半三分の一ほどしか視界には入らない。 かぎりなく狭い世界の中で、なにを考…
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#在宅障害者の日常

最後のホームルームとゆんたく

 卒業式前日のホームルームだっただろうか。  一人ひとりへむけての寄せ書きをまわしながら…

ありふれた一日

 いつものように、日付が変わってから眠りについた。 トイレに一度、寝返りのために二度、泊…

本当にこまりました

 路地裏の文化住宅の一室に引っ越してきて、いつも気になるなぞがある。 夕方になると、ご近…

ピンクのシーツに横たわる

 わが家は、朝から大爆笑だった。  来週には、記録的な早さで大阪も梅雨に入るという情報か…

自分で決めること、おまかせすること

 「思いこみコロナ」が引き金になり、一日のほとんどが天井を見つめる生活になり、一年以上が…

二千二十一年 五月十一日

 夕食を終えて何か一本書こうと思っていたら、一時間ほど居眠りしてしまった。  先週末、不…

ヘルパーさんごめんなさい

 みなさん、気がついておられますか?梅雨に入る半月ほど前に、すごくさわやかで天候が安定する時季が一週間前後つづくんです。樹々の緑の色合いもおのおのに深まって、最高に気持ちいい束の間なんです。  今朝のラジオの気象予報士さんによると、今日は大陸からの黄砂まじりの空気と入れかわり、澄んだ風と光が楽しめそうだって。  ビフォアコロナのころなら、夕方に川べりのパーソナルスポットで、思う存分に「ひとりの時間」を満喫していました。  ところが、いま、ぼくはほぼ二十四時間ヘルパーさんと

ひとりの時間①

 一九九六年、夏、ぼくは山にかこまれた静かな障害者施設から、大阪のターミナルの一つ梅田ま…

ひとりの時間②

 ぼくの頭の中には、いつもテンビンバカリが用意されている。  毎日の買いものから人生の分…

ちいさな快感

 朝からうれしい出来事があった。 オムライスのタマネギのみじん切りの一辺が、下の前歯から…

ひとつの柱

 たまたま友部正人さんのYouTubeを検索していたら、素人弾き語りのタイトルで、ある男性の胸…

牛すじの行方

 ただいま、午後十時二十分。オシッコをガマンしながら、この原稿を書きはじめる。ベッドの上…

背負いつづけてきた記憶①

 なにも書きはじめていないモニターを、ぼくはしばらく見つめていた。 ぼくの生きてきた長い…

くすんだ緑の野球帽

 すこし顔を左へむけると、ぼくの視野の中へくすんだ緑の野球帽が独特な存在感を漂わせながら飛びこんでくる。  室内干しの竿の先に無造作に引っかけられていて、ほかの洗濯物に追いやられたり、なにかの衝撃で気がつかないうちに床へ落ちたりしていることもよくある。  ぼくは体が左へねじれているので、野球帽が視界から消えていると、すぐに最大限の違和感を覚えてしまう。もちろん、その原因も瞬時に判断がつく。ときどき、かばんやワゴンの隙間にはさまったり、もぐりこんだりして見あたらないと、こんなに