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(8日目 サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)真っ白な気持ちでビートルズのアルバムを1日1枚づつ聴いた感想

「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(1966年7月)です。
和訳すると「恋人にふられたペパー軍曹がクラブバンド始めた件」タイトルがラノベの異世界モノ並みに長いです。
略して「サージェント・ペパー」。

ジャケ写はビートルズが架空のバンドに扮している毒とワイワイ感あるコラージュです。仮装大会打ち上げの集合写真としか思えない、
音楽が想像できない今見ても不思議なジャケ写のこのアルバム。

メンバー4人は派手な昔の海軍風衣装にヒゲとロン毛。このビジュアルは日本のGSシーン以降の音楽ビジュアルに長く影響うぃ残し、一列目の蝋人形は中国兵馬俑経由でYMOの増殖マルティプライズへ引き継がれている。

なにせアメリカの音楽雑誌「ローリングストーン誌」が選ぶ史上最も偉大なアルバム第1位です。
正直ローリングストーン誌は読んだことないですか、アメリカ人の音楽通が選んだ1位がこの「サージェント・ペパー」というのがすごい。
最大公約数の1位というのは大体大味になるもんですが尖りすぎ!2位がビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」というのも、実は何処かの大学の軽音サークルが決めたんじゃないかというひねくれ感。

それくらいこのアルバムが世界の音楽とムーブメントにもたらした影響は大きく、今みたいに細分化したエンタメ界で世界中が同じ影響を受けることはもう無いと思うんですが、一つのバンドが広く長く影響を残し続けた歴史的証拠でもあります

が、実際に今聴いて見てどうか?

ここまでビートルズを聞いてきて「ラバー・ソウル」で初期から中期にかけてバンド的なモーチベーションをやり切ってる感じがしました。U2みたいにツアーバンドとしてそこに表現と連帯を確認し続けることも出来たと思いますが、すでにライブバンドとしても限界スケールまで短い期間で登りつめてその路を断ったビートルズ。前作「リボルバー」は個人が優勢になっている中バンドとして演奏することへの配慮すら漂ってました。

ここに来て「サージェント・ペパー」という架空のバンドを設定することで、今までの蓄積したバンドモーチベーション(好きな音楽、お金、安定、仕事もろもろ)とは違う、別コンセプトの新しい創造性に挑戦することによってビートルズの存在意義の確認の意味もあったのでは無いかと思います。

ポール・マッカートニーがコンセプト決めたみたいなので、技巧的な曲から軽い曲までポール主導の曲が多めに入ってます。

でも「新しいものは古くなりやすい。残っているものは廃れにくい」が世の習いある。当時の先端の「サージェント・ペパー」は今聴くと、正直、「狙いすぎてない?」と思います。

偉大なアルバムになってことを!と思われるでしょうが、まぁここは対等であくまでも印象ということでご理解下さい。同時代の商業性に偏った音楽を聞き飽きた人にとっては、その先の普遍性に挑戦した真のアルバムという評価になるんでしょうが、攻めてる部分は「これが70年代の先駆けだったののかなぁ」と思えても、詞曲が一般生活体験に基づく発想じゃないので「分かるなぁーこの感情」というのが今となっては感じにくい。同時代&フォロワーの人たちの「分かる感」と断絶した後世代には後期ビートルズの取っ付きにくさの始まりを感じてしまいます。

でも「サージェント・ペパー」はコンセプト先行と言いながら、メンバー全員で作っているのでそこまで徹底してなくて半分位は思いっきりビートルズです。今のプログラミング的複雑さでは無く、アナログで職人芸の積み重ねで徹底的に凝った作りをしているので何度聴いても発見があり、「ブルーカラーのファンタジー」というビートルズのコアが見え隠れします。

そう思って考えるとローリング・ストーン誌の選定基準は「簡単に消費できない、いつまで経っても完全消化出来ないスルメのような。腹持ちがいいアルバム」。そういう基準で選んでいるのかと思います。

でも良くある遊びの「無人島に1枚持っていくアルバム」では無いと思います。

A面
1曲目「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」

タイトル曲ですね。幼稚園の先生が子供集めて歌う「始まるよったら!始まるよ!」という感じですね。もうこのアルバムを聴く心構えとして、いろんな音が入ってます。でも2分しかない。

2曲目「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」
ミュージカル的に1曲めとシームレスに乗り代わるのでシャッフルだと突然出てくる。やっぱりリンゴの声って油断できるというかホッとする。このアルバムのコンセプトに一番近い人なのかも知れない。ベースがブンブン伸び伸びと動く。ゆったりしたリズムのシンプルな曲。
「友達からのちょっとした助けで僕はいい感じになったよ」と歌いながらただ一人歩きつづけるって勇気もらえる歌詞だなぁと思います。ドラッグの歌という説も有力ですが、そんなことないよね。

3曲目「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」
リンゴで油断させといて吟遊詩人ジョン・レノンが切り込んできます。ボーカルもエフェクト掛かってるので、天空から神様が下りてくるようなシチュエーションをイメージする不思議な曲。高校時代に小劇場でみた演劇でラストシーンにこの曲流れると「なんか前衛で崇高な感じのものを今日は観た」と思い込みがち。
LSD説根強いですが、サイケデリックを借りてビートルズでのファンタジーのギリ狙ったんではないでしょうか? 後の「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」もそうですがジョンの考える子供時代の心象風景って今聴くと寂しい儚げな表現になっています。
1940年生まれのジョンレノンの子供の頃はもろ戦中空襲&焼け跡世代で、写真も貴重でモノクロでしょうから後で振り返るとイメージおぼろげですね。
ジョンが生きていたら今年10月で80歳。
日本でも街で枯れかかかってるおじいちゃんおばあちゃんを見かけても、侮ってはいけない。
彼ら彼女らは二十代ヒッピーカルチャーでビートルズと同世代というわけだから恐るべし。

4曲目「ゲッティング・ベター」
シンプルなようでいていろんな音がする一筋縄でいかない複雑な曲。でも「ゲッティング・ベター」と前向きに優しく歌ってくれる、曲のシチュエーションがイメージできるビートルズらしい曲に思えます。
でも「最初言ってたペパー軍曹とかどうなった?」と思ってしまう。
クラブバンド聞きながらパブで酔っ払うと、翌朝いろいろ反省するのかもしれない。
ジョン・レノンの曲来ると次にポールの曲来ること多いですが、バランスというより切り込みすぎたラインをポールが逆ハン・修正舵当てプロデュースを意識的にしてるような気がします。

5曲目「フィクシング・ア・ホール」
ポール感強い曲。これも関係修復を歌っている歌詞のようです。ポールの声とブンブンとしたリズム&ベースで牧歌的な感じがします。ジャケ買いした子供は「サージェントペパーの題材どこ行った?」とまだ思っているはず。

6曲目「シーズ・リーヴィング・ホーム」
後のポール感をまるまる感じる美しい曲。ストリングスオーケストラで荘厳な感じに当時のビートルズファンはびっくりしたと思います。
ポールの中にはロックンローラとロマンティックなメロディメーカーが共存してますが、相反するものでは無いはずですが、ビートルズ時代にその両極をポールはやってみせたがった所あるなぁと思います。

7曲目「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」
タイトルだけじゃ何のことかさっぱり分からいですが、サーカスとか見世物の音楽のエッセンス入れてることは分かります。
そういう意味ではA面ラストでジャケ写的ごちゃごちゃ感回収しているとも言えます。この曲も複雑なエフェクト掛かってますが、古いエッセンスを再現しているからか今聞いても新鮮な感じがします。


B面
1曲目
「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」

ジョージ・ハリスンのヨガ道場の曲です。
これを免疫無しで摂取した人の中にはインド中毒なった人いるんではないでしょうか。今聴くとなぁ、正直この曲だけ浮いている。
でも複雑に多重録音されたビートルズには珍しく壮大な間奏のある5分曲。やり切った感あり。

2曲目
「ホエン・アイム・シックスティー・フォー」

振り切りすぎると必ずポールが修正ハンドルかけるというか、ビートルズのフレームを作ってくれる。ポールの牧歌系労働歌。子供番組のBGMでこのベースライン使ってたような気がする。コーラスとサビが寂しい曲。

3曲目
「ラヴリー・リタ」

イントロとコーラスもろサイケ&フラワー感あるのだけど、ドラムとボーカルがロックしている不思議な曲。ポールのピアノがいいと思いますが、でもこのアルバムだから複雑な作りしている。「ビートルズでこの曲がとにかく好き」という人はいないと思う。

4曲目
「グッド・モーニング・グッド・モーニング」

この曲ジョンのボーカルも、ブラスのリズムが分厚つくて迫力あって、とベース&ドラムもかっこいいです。何の歌かわからないけど朝に聴くとやる気が出る曲。
やっぱりロックスターとして「ジョン・レノン本気出すとかっこいい!」と思います。動物の声とかこんなに複雑なMIXしなくてもいいのにと今だと思う。

5曲目
別アレンジの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド 」

ショー形式なので入り口と出口が同じ曲だけどテンポアレンジ違いという見世物形式。
ディストーション聞きまくったこのギターをもっと聞きたかったのにと思う。


6曲目
「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」

ショーが終わった跡のチルアウトというか寂しさを感じる曲とも思えるが。
オーケストラがやばい感じのする曲、これ確実に黙示録後の終わった感じ、夢見そうな後味。
これ最後だと安心して寝られないじゃないか、陽気なアルバムと思ったのにという人本当は多かったと思う。


聴き終わった後は、水族館、テーマパーク、太陽の塔の内部、会席料理のコースを食べたような体験感、満足感が残りますが、
「早速またA面1曲目から聞き直そうぜ」とはならない。当時レコードで入り口と出口を作ったこういう体験をポピュラー・ソング界ですることが新しかったんだろうと思います、
昔、クラッシク、民族音楽、パンク、昭和歌謡とかでミックステープ作ったことはありましたが、選択肢と幅ありすぎる「正解」にはたどり着かなかったこと思い出しました。でも、人が決めた価値観ではなく、自分の判断で好き嫌い良し悪しを決めたい。
「ある年齢までに、そのようなシステムを自分の中にきっちりこしらえておかないと、人生は焦点を欠いた、メリハリのないものになってしまう」(by村上春樹)

「サージェントペパー」は今聞いてもこの不思議な感じ、一言で言えない世界、さすがは世界ナンバー1アルバムということで、お次に代わらせていただきます。

(つづく)

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