シャドウとシャドウワークの実例
●心理学の「シャドウ」について
あなたは苦手な人はいますか?付き合いづらい人、何故か心を掻き乱される人、イライラする人・・・誰でも、生きてきた中で1人や2人思い浮かぶのではないでしょうか。実は、苦手な人についてワークすることは、自分の中の宝物に気づくチャンスでもあります。
心理学の「シャドウ」の観点から「苦手な人」を説明してみましょう。
シャドウは、自分の心一側面であるのに、排除している側面で、通常は意識されていません。ユング心理学者の河合隼雄さんは、シャドウを「生きられなかった半面」と表現しています。
また、アメリカの思想家ケン・ウィルバーは「インテグラル・ライフ」の中で、以下のように書いています。
例えば、自我を形作る上で、「外交的な」側面を開発してきた人が、「内向的な」側面を自分自身の心から排除したとします。すると、「内向的な」性格のAさんに妙に苛立ったり、感情的に揺さぶられたりすることがあります。これが「投影」です。Aさんに自身のシャドウを投影していると考えられます。
もうひとつの例として、怒っているのに、自分の怒りを認められず抑圧したとします。そのシャドウが他者に投影されると、「あの人は怒っている。でも私は怒っていない」となります。
シャドウと向き合い、投影の引き戻し(シャドウを自分のものとして所有する)をしようとするのが、シャドウワークです。上の例であれば、こういうことです。
・自分の中の内向性に気づき受け入れる⇨ 自分の新たな側面が開発される
・自分が怒っていることを認め、怒りの感情を受け入れる ⇨自分の感情を大切にすることは自分を受容すること
自分の中の生きられなかった半面を生き直そうとするわけです。その意味で、苦手な人についてワークすることは、自分の中の宝物に気づくことなのです。と言っても、なかなかそんなふうには思えないものですが……ま、試しにワークしてみるとしましょう。
●321シャドー・プロセス × アートセラピー
シャドウワークは様々ありますが、「インテグラル・ライフ・プラクティス」に「321シャドー・プロセス」があります。(インテグラル理論は、アメリカの思想家ケン・ウィルバーが提唱する理論)
321シャドー・プロセスとアートセラピーを組み合わせてやってみました。なぜアートセラピーと組み合わせるのか。それは、言葉では表しにくい曖昧な感情もアートであれば、色や線、筆致に乗せて表現しやすいからです。アート表現は情緒的なものと親和性が高いのです。
●「321シャドー・プロセス×アートセラピー」を実際にやってみた
Step1.苦手な人のイメージを絵に描く
描いているときは、苦手な人なので当然ですけど、なんだかいや〜な感じ。(笑)タイトルは「わーい子ちゃん」
Step2.絵と対話する(言葉をメモ)
「わーい子ちゃん」にどこからきたの?など色々聞いてみる。最終的に、「わーい子ちゃんは」私にこんなこと言いたかったんだ〜と意外なメッセージを受けとった。
Step3.4.それになってみる(言葉をメモ⇨絵にする)
「私はわーい子ちゃんです」とそれになりきって、浮かんでくることをメモして、その感じを絵に描く。
ワークを終えて、
「私が外側に投影してたのはこれだったんだ!」
「わたしの中のこういう側面が、こういう自分を受け入れてもっと発揮して!と訴えていたのだ~」と腑に落ち感がありました。
ここまで来ると、「苦手な人は、内面の宝物に気づかせてくれる!」という実感があります。これはやってみる価値ありです。
シャドウワークに取り組むメリットとして、次のことが挙げられています。
・切り離していた自己が再び統合される
・抑圧していたエネルギーが解放される
・投影の原因(あの人が苦手だったわけ)が分かり、重要な洞察を得る
・苦手な人・悩まされていた状況が、それほどまでに自分に動揺を与えるものではなくなる
また、マインドフルネスなどの瞑想は、心の成長に欠かせないものとして普及しつつありますが、瞑想では補えないと言われている部分がシャドウワークです。
アートセラピーやドリーム・ワークでは、時にシャドウを扱い、自己探求していきます。私自身、ワークを続けてきて、自分が楽になってきてるな〜、と思います。自分のまわりを固めていた鎧に気付いたり、心の奥に抑え込んでいたものに気づいて、描いたり話したりしながら、心がゆるんでいく。見たくない自分もいるのだけれど、ちょっとだけ勇気を出してみる。そう、ちょっとの勇気と遊び心。
最後までお読みいただきありがとうございます。
✳︎参考文献 「実践インテグラル・ライフ〜自己成長の設計図」
ケン・ウィルバー、テリー・パッテン、アダム・レナード、マーコ・モレリ著 春秋社