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「居るのはつらいよ」ときかんしゃトーマス

「居るのはつらいよ」ケアとセラピーについての覚書
(東畑開人 著・医学書院)

心理士である著者が就職した、沖縄の精神科デイケア施設での体験をもとにした「ケアの風景」の物語。個性豊かなメンバーさん(利用者)とスタッフの日常風景は、涙あり、笑あり、落とし穴あり!読み手は著者と一緒に、不思議の国のアリスのように深い穴に落ちていく。

デイケアで過ごす時間のうちのかなり多くが、何かを「する」のではなく、「いる」時間。著者がスタッフとして求められたのは、メンバーさん(施設の利用者)と「一緒にいる」こと。当初、心理士として、何かを「する」のではなく「ただ、いる、だけ」ということに戸惑うのですが、次第に「居られる」ようになっていきます。「ただ、いる、だけ」の価値に気づいていく。

しかし、それでも「居るのはつらいよ」。それは、なぜでしょうか。
著者は次のような世界の在り方について触れています。

僕らは日々、労働者や経営者としては生産性と効率性を追求し、消費者としてはコストパフォーマンスを計算している。みんなそうなのだ。
ストラザーンという人類学者は、そのような世界の在り方を「会計監査文化 audit culture」と呼んでいる。それは、ありとあらゆるものに会計係の監査が向けられる世界だ。

「居るのはつらいよ」東畑開人

生産性と効率性を求める声、これはわたしたちに内在化しています。そして生産性、効率性を求める声と、「ただ、いる、だけ」は、相性が悪い。
「ケア(セラピーと比較して)」もそう。
(ケアは子育てに通じるので、考えさせられます。子育ては市場の外ではありますが。)

ここでわたしはあの歌を思い出してしまう。
♪He's a really useful engine, you know ♪
きかんしゃトーマスのテーマ曲です。トップハム・ハット卿のお決まりのセリフは「きみは役に立つ機関車だ、トーマス!」だったかな。

「何かの役に立つこと」が良いことだというのは正論です。しかし、Useful Engine の思想があまりに隅々まで浸透してしまうと、世界は居心地が悪くなってしまうのではなでしょうか。「居るのはつらいよ」!!!

「ただ、いる、だけ」。その価値を僕はうまく説明することができない。会計係を論理的に納得させるように語ることができない。
ー中略ー
だけど、僕はその価値を知っている。「ただ、いる、だけ」の価値とそれを支えるケアの価値を知っている。僕は実際にそこにいたからだ。その風景を目撃し、その風景をたしかに生きたからだ。
だから、僕はこの本を書いている。そのケアの風景を書いている。

同書

このケアの風景の物語は、著者がスタッフやメンバーさんと触れ合いながら、「ただ、いる、だけ」の価値を、深く知っていく過程がとてもおもしろく、心動かされます。(そこはぜひ読んでみてください)
その風景を思っていると、ふと、以前わたしが作ったコラージュを思い出しました。

タイトル「何気ないこと」〜ちょっとここらで座ろうや〜

これは、「平和を願ってコラージュを作ろう」という会で作ったもの。平和とか、心があったかい、ほっとする感じ、などを思い浮かべながら雑誌を切り抜いて貼りました。(戦争とか、コロナとか、色々ある世界なので、ね)注目すべきは左下のおじさんとおばさん。この二人は知り合いで、たまたま道で行きあって、「ちょっとここらで座ろうや〜」と腰をおろしている。何ということはない世間話をする。

・・・というのが、切り抜きからわたしが想像したハナシ。

そういう特別でも何でもないこと、何でもないけれど一緒にいる。そういうことが、わたしたちの「いる」を支えているのではないか、と思ったのでした。「居るのはつらいよ」ではなく、「居るのは楽だよ」に願いを込めて!


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