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「つながらない」ための「もの」の「物語」

 僕がこの秋に創刊した新雑誌『モノノメ』には「もののものがたり」という対談連載記事がある。対談しているんのはEN TEAという茶のブランドをプロデュースする丸若裕俊さんと、全国の窯元を趣味で渡り歩くうちに自分で器のECサイトを立ち上げてしまった沖本ゆかさんとう、僕の身の回りの二人の「数寄物」たちだ。初回ということもあって、オードドックスなものを取り上げたいと考えてそれぞれ九谷焼の箸置きと、朝日焼の湯呑を持ってきてもらい、それらについて語り合ってもらったのだ。誤解しないでほしいのだけれど、僕はこうした工芸品をカタログ的に見せることを目的に記事をつくったわけではない。なるべく、具体的な「もの」を通して物事を考えることを、それも現代的なかたちで再構築したかったのだ。

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 現代は「もの」に拘泥することはちょっと……いや、かなり遅れた感性の証明のように思われてしまう。僕もアルマーニのシャツからロレックスの時計をちらつかせて喜んでいるおじさんを見ると、ちょっとついていけないな、しんどいな、と正直言って思う。「モノからコトへ」価値の中心が情報社会の到来と同時に移行してもう20年にもなる。そこで、昔(80年代から90年代)の、消費による自己表現を捨てられない20世紀人に出くわすと、痛々しくて見ていられなくなるという経験は、現役世代の多くが一度か二度はしていると思う。ただ、僕はこうも考えている。こうした顕示を目的にしたものの所有は、今やSNSにおけるシェアにとって変わられてしまっている。「意識の高い」現役世代はアルマーニのシャツの袖口からロレックスの時計をチラつかせる代わりに、ソーシャルグッドなワークショップに参加して、講師と一緒に撮ったセルフィーをFacebookでシェアする。どちらもなるべく深い溝に流したくなるタイプの人たちだけれど、重要なのはいま、ものが価値の中心から降りているということだ。承認の交換のゲームの道具として、もはや「もの」は有効ではない。だからこそ、僕たちは他人の目を気にすることなくむき出しのものそののもに向き合うことができる。そこには純粋な人間と「もの」との関係性がある。それどころか、今日においてはつながるためではなく、むしろつながらないために「もの」に接することもできる。孤独に「もの」と向き合うことで、閉じた相互評価のネットワークとそこで行われている承認の交換のゲームから解放された時間を手に入れることができる。そして「もの」の背景には自然の、歴史の物語が存在している。この情報社会においてはつながるためではなくつながらないための「もの」に触れることが、自分の時間を確保し、タイムラインの潮目から自立した思考を与えれくれる。僕はそう、思っている。

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 余談だが、丸若さんと沖本さんの対談をまとめるのは、本当に大変だった。どちらも、自分の持ってきた「もの」の魅力を語ると止まらなくなりなり、そして相手の発言の固有名詞に自分の好きなものを発見するとまたそれに対する話が止まらなくなり、ほぼ制御が不可能だった。僕も多分、アニメや模型について語るときこんな風に見えているのだなと思った。しかし、僕は同時に思った。確実にいま、この二人は自分の時間を生きている。そしてある「もの」に出会うことによって、タイムラインの潮目をどう読むかなどという窮屈な世界は一瞬で消え失せて、そのものの中に息づいている土地やそこに生きた人間の歴史に触れている。僕はちょっと入っていけないものを感じたのだけれど、これが僕が読者に見せたかったものなのも間違いなかった。ふたりともたぶん、僕の存在も忘れていたと思う。写真撮影のために、手元のアイテムを渡して欲しいと言ったとき、軽く聴き流された。段取り的には少し困ったけれど、僕はこれはいい記事なるな、と確信した。「もののものがたり」。人間を豊かに孤独にするつながらないためのものがたり。ぜひ、読んでください。

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僕がこの秋に立ち上げた新雑誌『モノノメ 』創刊号は現在、インターネット直販のみ販売している。書店への展開は10月に入ってからになるので、早く読みたい人はぜひここから買って欲しい。ここから買うと、僕たちは正直言って助かるし、そして僕の47000字の書き下ろし「『モノノメ 創刊号』が100倍おもしろくなる全ページ解説集」が付録についてくる。Amazonや大手チェーン店には卸さないので、ここから注文してもらえると早くて、確実で、そしてお得だ。

https://wakusei2nd.thebase.in/items/51216334




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