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[無料]『VIVANT』と「昭和」の問題

この秋から試験的に、有料マガジンに長文を書くほどのこともないことを、短めの文章にまとめていこうと思う。試験的なことなので、他の仕事ととの関係で止めてしまうかもしれない。ただ、僕はもうあまりTwitter(X)などのSNSに意見を書く気にはならない、あのあまりに空疎な大喜利に付き合う気にはならないので、ここをうまく活用していこうと思う。

さて、今日を書こうと思っていたのは先日完結したテレビドラマ『VIVANT』のことだ。僕はこの作品についてはむしろ他の人の意見を聞きたいと思っていて、座談会の配信も企画していたのだけど、出演者のスケジュールが合わなくて流れてしまった。なので、ここに簡単に雑感を書いておく。長文を有料記事にしないのはそこまで書きたいことがないからだ。

端的に言えばTBS日曜劇場の、いや福澤克雄の集大成としてつくられたこの『VIVANT』は集大成にふさわしいスケールをもちながらも、同時にその救いようのない古さを露呈してしまったように思う。こういうことを書かないといけないのは悲しいことだけれどさすがにもう少し日本(日本人)像とか女性観をアップデートしないとほんとうにバカに見えてしまう。

この作品の世界観はたぶん30年くらい前で止まっている。「世界に名だたる経済大国日本」は「アジアの発展途上国」から尊敬の眼差しを向けられているという時代錯誤も甚だしい肥大した自画像がまずあり、登場する「男たち」は「国家の威信」を背にして「未開の地」に旅立っていく。そしてそこには近代社会の「外部」としてロマンチックな冒険の世界が広がっている……。これはどう考えてもただのオリエンタリズムで、はっきり言ってしまえばロケ地になったモンゴルの人たちに失礼極まりないと思うのだけれど、こうした最低限の感覚がない人たちが創っているのが透けて見えてしまう。そして、ヒロインは冒険に華を添える役割を終えたあとは、主人公の男を「家」で「待つ」だけ……

僕は日曜劇場の演出方針とドラマツルギー、つまり時代劇的な大仰な芝居と予定調和の快楽を現代劇に持ちこむことと、戦後社会礼賛のノスタルジーがどちらも苦手で、実は久しぶりにこの枠の作品を通して観た。前半の物語の骨格が見えてくるまでは、ロケ地の美しさとジェットコースター的な展開でそれなりに楽しく観ていたが、物語を畳む段階に入っていくとこうした日常劇場という「病」の部分がどんどん前面化していき……というか、あまりにひどく、かなり辛い気持ちになってったというのが正直なところだ。

製作者としては、視聴者のニーズに合わせているだけなのだという意識かもしれない。僕も朝のワイドショーに出ていた頃、折り合いの悪いディレクターにどうして目立ちすぎた人や失敗した人に石を投げるような取り上げかたばかりするのか、と尋ねたらいつも彼女は「視聴者に寄り添うため」と答えていた。たぶん、これに近い意識を持っているのだろうと思う。しかし、こういうのは必ず自分たちに返ってくる。言論番組などの動画配信で、ネット右翼に受けるために左翼を叩いているうちに、左翼の批判するものはほぼすべて逆張りで擁護し、事実上そのへんに湧いているネット右翼と政治的な発言の内容が毎回ほぼかわらなくなってしまった人を僕は何人か知っている。

そしてこの鈍感さは、僕が当時から感じていたテレビという業界の、もっと言ってしまえばこの国の「変わらなさ」の問題に通じているのだと思う。社会はすぐに変わらない、とはいえこれ(古いもの)を望んでいるマジョリティがいるのだから急激に変えると副作用が怖い、といった「変えない」ための「言い訳」が先行して問題そのものに「蓋」がされてしまう。そしてものすごく皮肉な話だけれど、この『VIVANT』の主人公たちが愛してやまない「日本」はこうしたメカニズムによってアップデートが止まり、停滞し、「失われた30年」を無為に過ごすことになったのだ。

「では、きちんと前に進めよう」ではなく「変えない」ことが選ばれる。実はジャニーズ事務所の問題も、ライドシェアの問題も、同じ構造がある。僕はこの作品について、さほど感想はない。しかしこの作品は結果的にこの国の「いま」のいちばんまずいところが、露呈してしまってるように思うのだ。

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