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「もの」についてもう一度考える

宇野です。少し間が空いてしまったのは、『モノノメ』が先週校了してからちょっと半分抜け殻のようになってしまっていたからです。そして少し遅めの夏休みを取って、大好きな丹後地方に足を伸ばしてきました。この丹後という土地についても、いろいろ考えたことがあるのだけれど、今日はきちんと『モノノメ』の話をします。実は今週末に初版5000部の納品があって、そこから編集部総出でクラウドファンディング分の出荷作業がはじまるーーつまり、早い人には連休中から、明けにかけて雑誌が手元に届くことになるからです。そのあと、いま、受付中の一次販売予約分を出荷して、そこから通常のインターネット直販と書店出荷がはじまります。(これがたぶん10月初旬にずれ込みそうなので、早めに読みたい人はいまやっている一次販売予約で注文してください! 特典もつくので、速くてお得です。)

随分のんびりとしたスケジュールじゃないか、話題が集まっているうちにもっと売ればいいという人も多いと思います。僕もそう考えた時期もありあました。でも、やっぱりそれはちょっと違うんじゃないかと思い直しました。僕の事務所(PLANETS)は10人もいない小さい会社で、そこで1100人以上のクラウドファンディングの支援者に雑誌を(それも一人ひとり異なる特典をつけて)発送するのはかなりたいへんな作業です。それに通常の業務も加わるので、一日の配送できる量には限界があります。それを、深夜まで残業してでも、徹夜してでもやり切ろうなんていうのは、ちょっとこの本の趣旨として違うのではないか、と考えました。

なので、クラウドファンディングと受付中の先行予約分はスタッフ総出で一気に出し切ってしまうけれど、その後の出荷についてはできる範囲でやっていこうと思っています。もちろん、それは効率だけを考えたら損なことだと思います。でも、僕は1日や2日で読み捨てられるようなものは作っていません。数ヶ月単位で、少しずつ消化するといちばんしっくり来るような、そんなものに仕上げたつもりです。なので、数週間の熱狂に付き合ってもらうのではなくて、数カ月間じっくりと、一冊ずつ雑誌を届けていこうと考えています。

これは僕の他の活動にも言えることだと思います。少し記事や動画の更新頻度は下げても、一つ一つの質を上げていくべきだなと考えています。それは僕やスタッフの働き方についてもそうで、こういう仕事は遊びというか、インプットの時間がしっかり取れていないとアウトプットの質は絶対に上がらない。僕が「水曜日は働かない」ことを提唱しているのは、そういった理由もあります。

だから、今すぐは無理だけれどだんだんと本当に「水曜日は働かない」チームになっていくべきだし、しっかりと休んで、遊ぶ環境をつくっていかないといけないな、と思っています。

さて、前置きが長くなってしまったけれど、今日は『モノノメ』創刊号の「都市」特集から、マサチューセッツ工科大学メディアラボの酒井康史さんとSFCの田中浩也さんとの対談(僕も司会を兼ねて議論に参加しています)のことについて書きたいと思います。

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これは実はこの号でいちばん手応えのあった記事なのですが、ここで僕たちは「もの」から都市について考えるという思考実験に挑んでいます。これだけ書くと、他人に難癖をつけて自分を賢く見せたくて仕方ないタイプの(Twitter的な)人たちには「何をいまさら」と言われてしまうかもしれません。今日の情報社会においてはもはや価値の中心は「もの」から「こと」に移行している。いまどき、アルマーニのシャツとロレックスの時計を見せびらかす人間は旧時代の遺物で、もはや自分がどれだけ充実した精神生活を送っているかだけが問題なのだ、と。僕もまったくそう思います。そしてそう思うからこそ、僕はこの価値の中心ではなくなった「もの」の機能について考えたい。そう考えたのがこの企画です。

そもそも「もの」は「こと」の下位カテゴリで、「こと」自体をシェアすることが可能になったいま、当面「もの」がかつてのような社会的な位置を占めることは考えられない。言い換えると「もの」はもはやコミュニケーションの主役たり得ない。そしてだからこそ、僕はこの「もの」に注目しています。たとえばこの閉じた相互評価のネットワークの外部として(厳密には外部は存在しないので、動員のゲームに囚われない時間的な精神の自立をもたらす装置として)「もの」を捉えることはできないかと考えることができます。僕が夢中で模型を組み立てているとき、単に自分の納得のいく表現のためだけにパーツに紙やすりをかけているそのとき、空間的にはともかく時間的に僕は閉じたネットワークの中の動員のゲームから自立している。こうした観点から都市における「もの」の機能を考えているのが酒井さんと田中さん、そして僕も参加したこの記事の議論です。

ここで僕たちが議論しているのは「もの」から都市を考えるという視点です。都市開発でもコミュニティでもなく、不動産ではない「もの」から都市を考えています。コンテナが世界の流通を変えた話はあまりも有名ですが、ここでは具体的にはペットボトルとか、携帯電話のバッテリーとか、そういった「もの」が都市構造そのものに影響を与えるシナリオや、Amazonなどのものの流通の変化の与える都市の生活への影響について議論しています。これを読むときっと、机の上やキッチンの上のものの見え方が変わるはずです。なので、しつこいようですけれどぜひ、読んでください。明日はいよいよ納品の日です。とても緊張しています。

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宇野常寛
僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。