あたらしい雑誌を(かなり変わったやり方で)出すことにしました
こちらではご無沙汰になってしまいました。なぜ、しばらく更新しなかったのかというと新しい雑誌を作っていたからです。僕はもう10年以上「PLANETS」という雑誌を不定期刊で出していたのだけれど、この2021年あたらしい雑誌を、定期刊行で出すことにしました。誌名は「モノノメ」です。
タイムラインの潮目を読まない発信の中心地をつくりたい
なぜ、いま「紙の雑誌」なのか。時代に逆行する行為なのは僕も理解しています。しかし、それがいま必要だと僕は考えました。いま、世界は相互評価のネットワークの中に閉じ込められています。誰もが受信者であると同時に発信者でもある現在、そして誰もが自分の影響力を拡大させたいと多かれ少なかれ考えている現在、「既にみんなが話題にしていること」以外を話題にするインセンティブは存在しない。その結果として、発信それ自体がどれほど盛んになってもシェアされて、流通する情報の多様性は実質的にはどんどん下がっていく。誰もが問題そのもの(問題の解決法、問の立て直し)ではなく、問題に対するコミュニケーション(大喜利的にどう回答したら自分の評価が上がるか)だけを考えてしまうようになってしまったいま、この閉じた相互評価のネットワークで行われている動員のゲームの「外部」に発信の場をつくらなれけばいけない。僕はそう考えてタイムラインの潮目を一切読まない発信の場として、この雑誌を創刊することにしました。
なぜ「紙の雑誌」か
最初に始めたのは「遅いインターネット」という運動です。これは初期のインターネットーーまだ「ネットサーフィン」という言葉が死語ではなく、タイムラインの潮目が生まれる前に自由に人々が興味関心を発信していたころーーへの回帰を目指したウェブマガジンの運営と、タイムラインの大喜利のような安易な発信に手を染めなくて済むように、しっかりと文章で発信できる技術を身につけるワークショップを開催するプロジェクトです。もう1年半ほど続けています。しかし、それだけではまだ足りない。僕はそう考えました。いかにタイムラインの潮目を読まない良質な発信でも、インターネットの記事は「検索したもの」しか目に入らない。目当ての記事「ではない」ものに偶然出会う回路がないと、この閉じた相互評価のネットワークの外には出られない。僕はそう考えました。だから、あえていま「紙の雑誌」を創ることにしました。コンセプトは「検索では出てこない」。タイムラインの潮目は読まない。SNSの相互評価のゲームに夢中になっている人は呼ばない。そして、本当に考える価値のあることだけを扱い、地に足のついた発信ができる人だけを呼ぶ。そんな雑誌にするつもりです。
Amazonにも大手チェーン店にも置かない/でも5000部を売り切る挑戦
しかたがって流通も絞ろうと考えています。Amazonにも、大手チェーンにも置かない。タイムラインの潮目と既に同化した売り場には置かない。これが基本です。クラウドファンディング(終了)とインターネットの直販と、そして僕のこうした考えに同調してくれる書店にだけ置く。そして読者一人一人にできるかぎりしっかりコミットする。売って終わりにしない。そんな雑誌を考えています。
ここまで流通を絞って、仮に5000部を売り切ることができたら広告に頼らなくてもかなり安定した刊行が継続できます。僕の狙いはこのモデルをつくることです。この「モノノメ」のモデルが成功すれば、少し規模を落としても同じようなインディペンデントな出版が増えていくと思います。そうなることが、この国の文化に大きな貢献となる。僕はそう思っています。現在、第0次販売(クラウドファンディング)は終了して、第1次販売(インターネット予約)を行っています。
たくさんのものが「芽吹いていく」場に
「モノノメ」とは春の季語で、植物の芽の総称です。ここからさざまな価値が芽吹いていくといいと思ってこの名前にしました。そして同時にこの名前は「人の目」にどう映るかだけを基準にした発信の交換に覆われた現代という時代への異議申し立てでもあります。人間ではない「もの」の目から世界を見ることで、問題そのものに触れ、問い直し、あたらしい問いを立てることにつなげていければと思います。Twitterの大喜利や、オンラインイベントへのコメントで承認欲求を満たす毎日に物足りなさを感じている人に、手にとってもらえたらとても、とても嬉しいです。
実は校了していない
そして……たいへん、たいへんお恥ずかしい話ですがこの雑誌まだ校了していません。いま、絶賛修羅場中です。編集長がこんな長文を書いていていいのかと思う人も多いと思いますが、いわゆる「待ち」の時間が結構あり、その合間に、胃をキリキリさせながら書いています。でも残り時間で少しでもいいものにするために全力でやっています。それでは、校了作業に戻ります。雑誌、読んでください。