
「ひとり」で遊ぶことを忘れてしまった大人たちへ
宇野です。しばらく有料マガジンの更新ばっかりになってしまってごめんなさい。心を入れ替えて、このnoteも更新していこうと今日、思いました。
そしていきなりの告知で申し訳ないですけれど、本日4月26日に僕の新刊『ひとりあそびの教科書』が河出書房新社から発売になりました。これは「14歳の世渡りシリーズ」という中高生向けのレーベルの中の一冊です。僕にとってははじめての中高生向けの本になります。
どんな本かというと……ランニングとか、虫取りとか、模型とか、僕の趣味の世界を紹介して、中高生を「沼」に落とすことを目的にした本です。




どうしてこんな本を書こうかと思ったかというと……それは周囲の人たち、特に同世代の大人たちを観て「ちゃんと「ひとり」であそぶことを覚えているかって大事だな」と思うことが増えたからです。
大人の「あそび」っていうと、とりあえず「飲み会」という人がいまだに多いと思うのだけれど、僕はこれがものすごく苦手で……。この仕事をはじめて最初の数年は、これも仕事のうちだと思って付き合っていたのだけど、出版業界、とくに僕がかかわっていた批評や思想関係の「飲み会」はかなり陰湿なものが多くて、ウンザリしてしてしまい、10年ほど前からほとんど顔を出さなくなりました。
業界の中ボスみたいな書き手とその取り巻きがいて、取り巻きはボスのご機嫌を取るためにボスの敵の悪口を言う。その悪口に場がどっと湧いてメンバーシップが確認される……。業界のこうした体質は、今だに動画配信文化などと結託して生き残っていると思います。
編集者など裏方の飲み会も似たようなもので、分かりやすいボスがいることは少ないですが、だいたいがその場にいない人間(だいたい、同じ業界で自分たちより売れている書き手やヒットメーカーの編集者)の悪口がどこかで出てくる「飲み会」がものすごく多いです。
たしかに、人間は他の人間と承認を交換することが、いちばん手っ取り早く自分を保つ方法だという側面はあると思います。そしてそのためにもっともコストパフォーマンスがいい方法が、「敵」を攻撃することで「味方」とのつながりを確認することです。(そしてこの種の「飲み会」的なコミュニケーションは現代においてはSNSによって24時間化していると思います。)
ただ、この年齢になって思うのはこういう飲み会「的な」コミュニケーションに耽溺している人たちは長期的にはあまりいい仕事は残せないな、ということです。逆にこのタイプの人(僕は大嫌いだけれど)は短期的にアテンションを集めることには向いていると思います。たとえば文化系が嫌いな意識が高いビジネスマンやマイルドヤンキーの傾向を「分析」というていで事実上貶めると、「文化的な自分が好き」な層の支持を効率よく集めることができると思います。
しかしそういった文章の実質的な価値はゼロです。タイムラインの潮目を読み、「敵」を貶めて「味方」を気持ちよくさせる行為は、世界を何も変えはしない。
対して孤独に物事に向き合い、それについて独自の視点で語ることは確実に、ほんの少しでも世界を豊かにします。分かりやすく言えば、周囲を見回して「みんな」の意見に合わせるアプローチは既に発生している状況を追認する効果しかないけれど、自分が事物にアプローチすることは、その効果は小さくても0から1を生むことにつながります。だから僕は、人間には「ひとり」であそぶ時間「も」必要だと思うし、「飲み会」よりも「ソロ活」が好きな人が増えたほうが世界が豊かになると考えているわけです。特に、現代社会はSNSの効果で日常が「飲み会」化してしまっているところもあるので……
TwitterやはてなブックマークやNewsPicksのコメント欄で誰かに無理やり難癖つけて自分を賢く見せようと必死な人と、淡々と知的生産している人、どちらが世界を豊かにするかは、明らかです。つまりこれは、これからの世界を担う10代に、「ひとり」あそびの豊かさをアピールするために書いた本だというわけです。
ちなみに僕は「業界の飲み会」からは足を洗いましたが、「みんな」でワイワイ遊ぶのが別に嫌いなわけでもなんでもなくて、毎年海でBBQもやるし、ランニングが好きな仲間たちと一緒に走りに行くこともあります。
しかしそれと同じくらい、「ひとり」であそぶのも好きで、どちらかと言えば自分の軸足はこっちにあると思っています。なのでこの本は中高生だけじゃなくて、一人で遊ぶことをいつの間にか忘れてしまった大人たちにも、ぜひ読んでほしいと思います。
本屋さんでは店によって、人文書のコーナーにあったり、児童書のコーナーにあったりするみたいです。微妙に探しづらいと思いますが、どうせなので、本屋さんでウロウロ探し回ってみてください。
そうすると他にも気になる本との出会いが待っていたりするかもしれません。そして僕がこの本で伝えたかった「ひとりあそび」というのは、そうやって「誰かの顔色」を経由せずに、純粋に物事と向き合う楽しさを味わう時間のことだったりもするのです。
※ちなみにこの本の序盤(の草稿)はこちらのサイトで公開しています。お試し読みがわりにご覧ください。
いいなと思ったら応援しよう!
