数字からわかる「閉園3日前に通知」の前兆〜正しい保育園選び〜
「閉園3日前通知事件」とは
2023年6月、三重県津市の民間保育園が、経営難を理由に閉園の3日前に保護者に閉園することを通知していた、という事件がメディアで取り上げられ、一時話題を呼びました。
世間的にはほとぼりも冷めた所ですので、改めてこの事件をなるべく簡単に「数字」から振り返り、これから保育園を利用するパパママや、就職先を考える保育士さんに参考にして頂ければ幸いです。
社会福祉法人の経営状況は誰でも閲覧できる
保育所や高齢者施設、障がい者支援施設等を運営する会社の中で「社会福祉法人」という会社形態があります。詳しい説明は割愛しますが、「株式会社」の兄弟だと思ってください。
普通、上場企業でない限り、一般の方のみならず、社員ですら会社の決算を見ることは難しいことが多いのが一般的です。
しかし、社会福祉法人はその公益性の高さから、各社の決算状況はWAM(独立行政法人福祉医療機構)のホームページにて開示されているのです。
ですので、これから保育所を選ぼうと考えている保護者の方を、これを見ればその園を運営する法人がどんな経営状況か、一目で理解することができます。
既に前兆があった2017年度
当該法人(ここではあえて法人名は伏せますが、調べればすぐ出てきます)の確認できる最古の決算データは2017年です。当時から、会社の損益を現す事業活動計算書の数字は売上減収、利益面では赤字での経営をしていることがわかります。
(社会福祉法人は施設毎の数字も出ているのでもっと細かく数字は見れるのですが、パパママ向けということで特にわかりやすい部分をピックアップします)
大きな動きがある2019年度
しかし、2019年にその事業活動計算書の数字が突然改善します。資産と負債の状況がわかる貸借対照表も並べてみることで、この改善が固定資産売却によるものだということがわかります。
ネットで検索してみると、その年に同法人は経営する老人ホーム3施設を閉鎖していました。この頃からこうした突貫工事的な対応でしかもはや経営が成り立たなくなっていることがわかります。
改善しない2020年度
2020年度には再度赤字運営に戻っており、その法人の短期的な安定性を表す「流動比率」は41.9%まで悪化することとなります。ちなみに、当該指標は200%あれば良好な水準であると言われています。このことから、数字上は短期的にもこの法人の経営状況が危ない、ということが明らかに示されています。
決定的な2021年度
2021年度の決算にて、貸借対照表の長期借入金に計上されていた5億円が、1年以内返済の借入金として固定負債から流動負債(1年以上後の負債から、1年以内に返済する流動的な負債)へと振り替えられています。
ここからは推察ですが、恐らく当該法人にお金を貸していた金融機関は、当該法人の自力での借入金返済は不可能と判断し、借入金の早期返済を求めたものと見られます。
当然ですが、2020年度時点で短期的に危ない経営状況の中、5億円もの借入金を一度に返済することは不可能です。
ただし、一つだけ方法があります。それは「資産を売却すること」です。謄本まで確認していませんのでこれも予想ですが、借入金5億円には、当該法人の保育所の土地や建物が抵当として担保に入れていたのでしょう。
つまりどういうことかというと、2021年度決算の時点で、金融機関と当該法人の間では「保育園を閉園し、固定資産を売却して借入金を返済する」ということが取り決められていた可能性が非常に高いと言えます。
実際に、ニュースにおいて保育所が閉園になったのち、資産が差押になったということが記されています。
パパママ•保育士が見るべきポイント
結論、ここまで細かいところまで保育士・保護者の方が見るのは大変だと思います。単純に赤字だから悪い会社、という単純な話でもないからです。
1番簡単なのは、過去5年間の数字を並べてみて、どう変化しているかを見ることです。会社の数字には必ず継続性や連続性があります。不自然な数字の動きがある時、そこには何かのイベントが発生しています。また、複数年を並べることで、その会社の状況はどんなトレンドなのか、ということも見えてきます。
当該法人のように、本当に危ない状況の会社であれば、それだけでも恐らく見抜けると思います。
もし不安がある方は、私にご連絡頂ければ社会福祉法人であれば数字を分析することも可能です。
私も同世代が保育園選びに苦慮する姿を見ていますので、お役に立てれば幸いです。
ここまで長々と綴ってきましたが、あくまでも数字は「ただの補完的情報」でしかありません。
実際に目で見たものが大切です。
ただし「目で見えない所から分かることもある」ということは知って頂ければと思います。
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