雨に打たれたあのころ。【エッセイ】
クラスに馴染めないぼくたちは、修学旅行なんて蹴って、自転車であの岬を目指した。天気は雲の多い晴れ。気温は20度前後だったと思う。
高校生活は楽しかった。けど、それは学校外だった。悪さばかりしていた。わけでもないけど、野宿したり立ち入り禁止区域に入ったり、すこしだけクレイジーな仲間と過ごす放課後が、なぜか無性に楽しかった。
ぼくとKはその日、岬にあるホテルを目指した。目的は、岬から見える絶景だ。そこでは流れ星がよく見える。ぼくは星が流れたら、なにか願い事しよう、なんて考えていた。
放課後、ママチャリで旅ははじまった。
ぼくは普天間から、伊佐坂をくだり、58号線にでる。右手に基地、左手に街を眺めながら、北谷町美浜、アメリカンビレッジへ。そこでKと落ちあい、一路北へ。嘉手納基地の草原のむこうへ、少しずつ日がかたむく。読谷村。住宅街から、さとうきび畑へ。ここで一枚写真を撮る。灯台から、光が海にのびる。夕暮れ、星が踊り出す。
ここまで、順調にきていた。だが、空は黒ずみはじめた。パラパラ雨が降る。スコールだろう。ぼくたちはホテルで雨宿りすることになった。
バイクできたUと合流。なにかのために持ってきていたトランプで、大富豪にポーカー、時間をつぶした。それから、エレベーター前の絨毯がふかふかだったので、ダンス部幽霊部員だったぼくとKは、汗を流した。
ここでは踊らんよー。警備員に見つかる。部屋戻って。ホッと胸をなでおろす。しかし、見抜かれた。部屋番号は?ぼくとKは視線を交わした。部屋番号が、3桁なのか、4桁なのか。一瞬の無言に、警備員は察したようで、ぼくらはホテルから追い出された。まだスコールは降っている。しかし、もう雨宿りできる場所はない。ホテルにこのまま居座りつづけて補導をくらうのも癪だ。
豪雨の中、自転車できた道をもどる。寒さと筋肉痛で、無言の帰路。入れる店も金もない。そんななか、ぼくらは電気のついている店を見つけた。
コインランドリーだ。運よくひとはいない。ぼくとKは、暖をとるため、あった〜いの缶コーヒーを買った。Kは雨に打たれ、クシャクシャになったソフトのマイセンに火をつけた。そして、ぼくはもらいタバコした。やってられなかった。けど、甘く、ほろ苦いUCCのコーヒーは、その日の締めくくりにふさわしかった。
こういうのも、思い出になるよな。Kが予言した。彼の予言はなかなかの確率で的中する。そしてぼくはその言葉に、これも青春か、と思えた。みんながUSJに行った日、ぼくらは雨の沖縄でコーヒーとタバコ。悪くない。
今でもあの岬にぼくは行く。気が向いたら、車に乗ってひとりでも。あの日分厚い雲に隠れて見えなかった、満天の星は、まだここにある。流れ星がでたらーー。なんて思うが、願い事はない。あの日、ぼくはなにを願おうとしていたのだろう。
あの日のぼくはもういない。
途中で買ったコンビニのコーヒーをすする。それはUCCのコーヒーが、ぼくらのようにどれだけ甘いものだったのか、教えてくれる。
入れ墨が疼かない。明日も晴れだな。