よみがえる変態
4月から主治医が変わる。大きい病院は異動があるらしく、今までの主治医は「雑魚キャラなので僻地に飛ばされる」らしい。今日は最後の診察だった。
私はもともと、お医者さんをあまり頼りにしていなかったのだけど、入院中はこの先生にはよく相談し、言われたことはちゃんと聞くようにしてきた。なぜかはわからない。というのも、救急搬送されて以降7日間ほどの記憶がとんでしまっているので、気づいたときにはそうなっていた。病院に運び込まれて気が付いて初めて見た人を無条件に信用してしまった、カモみたいな、そんな感じかもしれない。病棟の中は暑いのに、先生はいつもひとりだけ白衣を着ていて、裸足でサンダルをはいている。さらにテンションのアップダウンがはげしいので、こどもみたいな人だなと思う。お見舞いに来てくれた友人たちがひとり残らず「髭をそったらイケメンなのに」と言ってたけど、今日も髭は生えていた。
先生が変わると聞いたときは、なぜかとてつもなく心細くなった。でも入院中に知らされたことであったので、気持ちの整理はついていたつもりだ。それなのに、帰宅した途端、また心細さに襲われる。
これはいかん!このまま、ひとりで家にいてはろくなことはない!と思って、街のコーヒー屋さんに向かう。面白い本を読もうと思って、大好きな星野源様の文庫もバッグに入れた。
お店につくまでにすでに、気分がジェットコースター下り状態だったので、とりあえず、ラテをいつもより熱めにしてもらえるかお願いして、美味しいどら焼きを注文した。こういう時に甘いものがあれば無敵だ!と自分に言い聞かせる。
ラテを待つ間、源様の文章が無駄に面白いので、変に感情を刺激してしまい、とうとう泣けてくる。入院している間も(特に前半の頃)不安で泣いてばかりいたな。先生はいつも冗談ばかり言って、笑わせてくれた。花粉症の時期でよかった。多少鼻をすすっても、ヒノキの花粉のせいにしよう。そう思いながら、運ばれてきたラテを飲んだら、ちゃんといつもより熱めにしてくれていてまた泣ける。
もしかしたらコーヒー屋さんにも気を遣わせたかもしれない。どら焼き食べてる私に、「甘いもの大丈夫ですか?」とおいしいチョコレートタルトを出してもらう。
「半分こしよう」
(チョコレートが苦手といえなくて)咄嗟にそう提案した自分がいて、「ああ、そうしましょう」と言ってくれたコーヒー屋さんがいて、また泣ける。
先生がいなくても、別にひとりぼっちではない。友達も、支えてくれる人もいる。少しずつこれから諦めずに努力すれば、きっと体調も気分もますます良くなって、きっとあんなチャラい医者のことなんて思い出すこともなくなるのを、私はちゃんとわかっている。
病気はお医者さんのサポートを受けながら治すしかない。でも、ちゃんと自分に合ったお医者さんに出会うことはとても難しく、精神的にひとりで耐えるには道のりはとても長い。今回出会った先生のおかげで、きっとよくなる未来を心の中に描けたことはとても大きかったと思う。ありがとうございますと、直接言えなかったので、ここに書いてみる。もう鼻水が止まらない。
何より、コーヒー屋さんには、すすり泣きながら星野源の「よみがえる変態」を読んでいるやヤバい客だと思われているに違いない。そんな今日。
生きるとは、死ぬまで諦めないことである。